作戦会議
首相官邸室にて
「本日お忙しい中、集まっていただきありがとうございます。理由はいうまでも
ありません。アラスト星人と名乗る異星人についての対処についてであります。」
と氷室は切り出し会議を始めた。
「米国からの援助要請は来ているのかね。」
江・恩来国家主席の質問に飛鳥は
「いえ、そのような話は今のところありません。しかし、戦況は悪いと思われます。」
「災害救助と同じ要領で援助の打診をするのはどうだろう。とてもじゃないが
一カ国で処理できる問題ではない。」
「おっしゃるとおりであります。江主席。もちろん、我々も駐米大使を通じて
援助の打診を行いました。しかし先方から援助の必要はないと返答されたのが
現状であります。」
それを聞いて納得したかのような表情をするロシアのヴィクトール大統領。
「おそらく脅迫されているのだろう。ロシア情報部の報告によると随分前から奴らは
アメリカに圧力をかけていたと聞く。」
「それは初耳です。ヴィクトール大統領。詳しくお話聞かせてもらいたい。」
「分かりました。マリオ・クレスポ欧州議会議長。」
ヴィクトールは例のCDを取り出し会議参加者全員に公開した。
「これは事実なのですか。にわかには信じられませんが。」
マリオは驚きの表情を隠しきれない。
「ええ、だから我々も公開しなかったのです。」
ヴィクトールがため息をつきながら答える。
「しかし、この内容が真実であることは誰の目にも明らかでしょう。なので
日本としては米国の要請あるなしに関わらず、救出作戦をするべきだと考えて
おります。」
「すなわち無断で米国に乗り込む党言うことですか氷室首相。」
「そういうことになります。マテウス・ジョビン国連事務総長。」
米国本土に乗り込むという氷室の意見にマテウスは言葉を失った。
「マテウス総長、ご決断をお願いします。すでに我々EUは彼らに対抗するために
各種欧州軍を統合した欧州統合軍を設立しております。」
「極東地域においても日中露統合軍を設立しております。」
マリオと飛鳥がそれぞれ現状をマテウスに説明する。
「そうですか、分かりました。米国救出のため本土に上陸することを国連として
認めましょう。ヴィクトール大統領、江主席は異論ありませんか。拒否権を
使うのなら今のうちです。」
問題ないと両首脳は答えた。
「フランス、イギリスの首脳は出席しておりませんので特例でありますが、
欧州議長のマリオ議長に拒否権を認めます。マリオ議長いかがいたしますか。」
「事務総長のご決断を支持いたします。」
「そうですか。緊急事態でありますので米国の拒否権は無効とし、賛成4否決0で
米国の上陸を決定します。」
官邸内からは大きな拍手が沸きあがった。その中で氷室は再びマイクを持つ。
「これにて政治の上での会議は終わりになります。続いては軍部の方々の会議を
始めます。」
氷室がそう述べると、各国の首脳陣は氷室と飛鳥を除いて席をはずし代わりに各国の
軍部の人間が入ってきた。関係者が席に着いたところで飛鳥がマイクの前に立つ。
「皆さん、これから始める作戦会議は人類の存亡がかかっております。過去の確執も
あるかもしれませんが、今だけは共闘していただけたい。」
「もちろんその所存であります。異論のある方はいらっしゃいますか。」
会議室からは特に声が上がらない。
「ありがとうございます陸・孔明参謀長官。そして共闘の意思を示していただいた
皆様に感謝いたします。」
飛鳥は大げさに言う。
「少し聞きたいことがあるのですがよろしいでしょうか。ダリウス・ゼーラー
欧州統合軍総司令官。」
「かまいませんよ、孔明参謀長官。」
「米国に派遣する欧州軍はどの国が担当する予定ですか。」
「ドイツ、フランス、イギリス、イタリアです。他国は欧州全域の防衛に
当たらせます。」
「すなわち空母打撃軍を編成するということですね。」
「おっしゃるとおりです。欧州は東海岸からの攻撃を考えております。」
「では我々は西海岸から攻めましょう。」
陸とゼーラーの話し合いが続く。プランが着々と進んでいく。
「ところで情報収集活動や、あの巨大ロボットはどのように運用するのでしょうか。
正直な話、欧州には日本やロシアのような高度な情報収集力や巨大ロボットは
ありませんので、その辺はお任せしたいのですが。」
ゼーラーの質問にヨハン・チェンロシア軍参謀長が答える。
「巨大ロボットの運用は敵の巨大円盤を破壊させます。そして情報収集に関しては
日露共同による情報収集部隊エスペランザを設立しております。」
「まさか、もうその様な計画が進んでいるとは恐れ入ります。」
とゼーラー。
「いえいえ、ゼーラー司令官ほどではありませんよ。」
「あとは移動手段ですね。」
聞きなれない声が会議室内に聞こえてきた。だが姿は見えない。声はまだ続く。
「空母が移動中に攻撃されないとも限らない。敵は月に基地を建てているの
ですから。」
「どちら様ですか。姿を見せてくれませんか。」
飛鳥が声の主に姿を見せるように要求する。すると会議室の中央付近から魔方陣が
現れ軍服姿をした短髪の男が出てきた。
「突然の無礼を許していただきたい。私はエスパレス軍元帥オットー・ヘリコムと
申します。」
オットー・ヘリコムと名乗る男は話を続ける。
「敵は月面裏側にある基地からいくらでも兵を出すことができる。残念ながら
現時点においてあなた方の戦力では太刀打ちできない。」
「だが、あなたは太刀打ちできるということですね。わざわざ自分たちの力を
見せ付ける登場の仕方をするぐらいですから。」
腕組みをした孔明がオットーに問いかける。
「あるといえばあるが、無いと言えばない。」
オットーはきっぱりと言い切る。
「なんですかそれは。だいたいエスパレスなど聞いたこともない。今のも手品の類
ではないのかね。」
ゼーラーがオットーに突っかかる。
「まあ、抑えてください。ゼーラー司令官。」
「そうはおっしゃいますが孔明参謀長。彼が敵側の人間の可能性もあるわけですし。」
「疑いだしたらきりがありません。それに彼のいうとおり我々には宇宙軍は
存在しません。つまり守るだけで手一杯なのです。」
会議室がシンとなる。現時点では宇宙にいる敵を叩けない。どうしようもない現実が
そこにあったのだ。
「ところでオットー元帥、先ほど魔術のような登場をされましたが、それを空母に
運用することは可能ですか。もし可能なら、その力をお借りしたい。」
孔明の支援要請に
「もちろんご協力しましょう。そのために参ったのですから。いえ、本来ならば
我々がしなければいけない仕事なのです。宇宙人の迎撃は。」
「なぜ出来ないのですか。」
飛鳥が質問する。
「一言でいえば政治のしがらみです。エスパレスは国家設立から3万年ほどの歴史が
ありますが外界との接触はしてきませんでした。その理由は外界が常に戦争を
しているため自分たちが巻き込まれるのを嫌がったからです。」
「今回もその例外ではないということですね。」
孔明が納得したようにオットーに話す。
「ええ、真に恥ずかしながらおっしゃるとおりであります。わが国は非常に
文民統制が強いため軍の一存では動けないのです。」
「そうですか、ない理由は分かりました。ではある理由を教えていただけません
でしょうか。」
「宇宙軍は戦闘に参加できるということです。政府の目が届きませんから。ただし、
大気圏内に入ると国に見つかりますが。」
「すなわち勝手に軍を動かすということですね。」
「そんなこと可能なのですか。」
その話にゼーラーが驚きの声を上げる。
「もちろん軍法会議物ですがね。それに政府には月面に基地があることを伏せて
おりますから。」
今まで話を聞いていた氷室が口を開いた。
「はじめましてオットー元帥、私、日本国首相の氷室武と申します。あなたのお話
お聞きしました。エスパレスがどのような国か今は問いません。我々に力を貸して
くれますか。」
「もちろんです。宇宙空間の戦闘に関してはお任せください。そして瞬間移動装置に
関してですが、無償でお貸しいたします、氷室首相。」
「助かります、オットー元帥。宇宙での戦闘は我々には経験が無いため正直
困っておりました。」
「ちょっと待ってください。いいのですか本当に。」
ゼーラーはオットーを信用していないようだ。
「ゼーラー司令官、疑ってはきりがありませんし不満を述べても相手は
待ってくれません。ならばここは彼を信じるしかないのでは。」
「孔明参謀長がそうおっしゃるのなら。」
ゼーラーはしぶしぶ納得した。再び飛鳥がマイクの前に立ち
「では作戦をまとめます。まず東海岸側からEU軍が西海岸側からは日中露合同軍が
攻撃を担当します。移動につきましては瞬間移動装置を用います。そして巨大円盤は
カムイとジークフリードが担当します。また敵の情報システムなどの担当を
エスペランザが宇宙における戦闘をエスパレス軍が担当いたします。
異論はありませんね。」
周りを見る飛鳥。
「異論はないようなのでこれにて会議を終了いたします。皆様、長い時間
お疲れ様でした。」




