戦火の中での出会い~日本編~
「ん、どこだここは。コックピットの中じゃないみたいだな。しかしまあ、
いってえな、もう。」
坂井は辺りを見わたす。敵の機体は・・・いないみたいだ。少し離れたところに
すみれが倒れていた。坂井はすぐさますみれの所に駆けつけ、大きな声で
「おい、起きろ、すみれ。しっかりしろ」
叫んだ。しばらくすると
「う~ん。あっ、坂井さん。どうかしたんですか。あれっ、ここはどこですか。」
「怪我はないか。」
「体のあちこちが痛いですが大丈夫そうです。ところで、ここはどこですか。」
すみれが再度、坂井に質問する。
「分からない。俺も少し前に気づいたところだからな。」
「そうなんですか。なんか不思議なところですね。」
「そうだな。」
あらためて二人は周りを見わたす。ピンクとオレンジを混ぜたような景色が
ずっと続いている。足元はドライアイスが立ち込めたようなもやがあり、
二人の足元を完全に覆っていた。
「もしかしてここは、あの世なんでしょうか。」
「たぶん違うだろう。ほら」
そういって坂井は携帯を取り出した。アンテナは圏外を示していた。
「あの世にこれは持っていけないだろう。」
「そうですね。よかった。まだ私たち生きているんですね。」
「そうだな。だが助けは来ないぞ。圏外だしな。」
「え~、じゃあどうしましょう。」
すみれが再び不安そうになる。
「とりあえず少し探索しよう。」
「そうですね。それでどっちに行きましょうか。目印も何もありませんし。」
「こっちだ。」
そういって坂井は右手で方向を示した。
「まっ、根拠はないけどな。」
そういって坂井はずんずんとまっすぐ進みだした。
「ちょっと待ってください。」
すみれも坂井の後に続いて道なき道を歩いた。1時間ほど歩いただろうか。
二人の目の前に人影らしきものが見えてきた。3人ほどだろうか。二人は少し
安心して、近づいていくとそれは人ではなく、犬のような頭を三つ持つキリン
ぐらいの大きさの怪物だった。
「うおおおおおん。」
突如、そいつは二人に襲い掛かってきた。
「俺の後ろから離れるんじゃないぞ、すみれ。」
「はい。」
坂井は怪物の突進をひらりと避け、腰から取り出したグルカナイフで怪物の足を
切り裂く。思わぬ反撃に怪物はひるんだが、すぐさま切り返し再び襲い掛かる。
坂井は投げナイフで応戦。怪物の真ん中の頭の右目にヒットした。
「ぐぎゃあああああ」
怪物の悶絶があたりに響く。怪物は坂井のことを睨みつける。だが坂井も一歩も
引かない。背中を見せたら殺される。いくつかの戦闘経験から得られた勘だ。
にらみ合いが続いて、しばらく時間が経った後、大地を震わすような轟音と共に
一本の稲妻が怪物を直撃した。その一撃を受けた怪物は声を上げることなく
倒れこんだ。
「大丈夫ですか。」
声がするほうを振り向くと、そこには女性が一人立っていた。金髪のロングヘア。
右手には杖を一本持っている。女性はにこっと微笑み
「危ないところでしたね。もう大丈夫ですよ。」
「貴君の援助、感謝いたします。おかげさまで助かりました。」
坂井が、その女性に敬礼をする。
「あ、ありがとうございす。ほんとに助かりました。ところでここはどこなんですか。やっぱり私たち死んでいるんですか。」
「ええ、大丈夫ですよ。お二人とも生きております。ここはラピステレス、
あなた方の世界から見ると夢の世界にあたります。」
聞きなれない言葉に困惑する二人。
「夢って寝るときに見るやつですよね。ということは私たち現実では今頃、
ICUにいるんだわ。」
すみれはがくっと肩を落とした。
「じゃあ、目が覚めれば元の世界に戻れるんだな。ところでさっきの怪物は
何なんですか」
坂井の質問に
「あれはケルベロスです。あれでもまだ、ほんの子供なんですよ。
全然かわいくないでしょう。」
女性は微笑みながら答える。すみれも坂井も
「ええ、私あんな子いりません。」
「全くだ。俺もいらん。」
といい、三人はしばし笑いあった。
「ところでお二人にお聞きしたいのですが、どうやって肉体を保持したまま
この場所にこれたのですか。あなた方にとってこの世界は寝ているとき、精神のみ
来ることはできますが、肉体を保持したまま聞いたことはありません。
ましてやここは、ラピステレスの奥の奥。その辺がわたし気になります。」
聞かれたところで坂井は分からないので正直に
「分かりません。ただ、ここに来る前、ロシア人の変態とドンパチやりあったので、
そのせいかも知れません。」
「そうですか。分かりませんか。残念です。まあ、ここに長くいても仕方が
ありませんので元の世界にお送りいたしますね。」
女性が後ろを振り向いたとき、何かを思い出したかのようにすみれが
「あっ、最後に一ついいですか。」
と質問した。
「ええ、なんでしょう。」
「前に一度会ったことがありませんか。私、前に一度死にそうだったときに
励ましてくれた声とあなたの声が似ているんです。」
女性はしばらく黙った後
「もしかすると、それは双子の姉かも知れませんね。しばらく前に死にそうだった
女の子の魂をこちらに連れてきた。といってましたから。」
「そうですか。ありがとうございます。」
そして二人は案内された魔方陣に乗った。すると魔方陣から光があふれ二人を
包み込んだ。気が付くと二人はコックピット内にいた。
「無事、元の世界に着いたみたいですね。」
すみれが安どの表情を浮かべる。
「そうだな、とりあえずこれで一安心だな。」
坂井は、とりあえず現在位置を確認した。
「すみれ、ここどこだと思う?」
「国後島じゃないんですか。」
「ハズレだ。正解は十和田湖だ。どうやらあの戦闘で、ここまで吹き飛ばされた
らしい。」
想定外の場所にすみれは目を丸くする。
「十和田湖って青森のですよね。よく私たち生きていますね。」
北海道を通り越して青森まで飛ばされたことを知った二人は唖然とする。
「むしろ、あの世界に飛ばされていたから生きていたのかも知れない。」
「坂井さん、とりあえず基地に戻りませんか。考えても分かりませんし。」
「そうだな、戦況報告もあるしな。」
二人は基地に戻り戦況報告を行った。




