転校生は幼馴染
「今日は皆さんに新しいクラスメートを紹介します。」
新しいクラスメートと聞いてクラスは騒然となった
「はいはい、静かにする。」
担任がバンバンと出席簿で教壇を叩くと教室は少しだけ落ち着いた。
「それでは、ソフィアさん自己紹介して」
「はい」
ソフィアは少し前に出て
「ロシアから来ました。ソフィア・マイスキーです。よろしくお願いします。」
銀髪でポニーテール。整った顔立ち。透き通るような白い素肌。瞳はブルーと
グリーンのオッドアイ。その美しさにクラスの男子は一瞬で恋に落ちた。
「ソフィアさんはお父様の仕事の都合で来日しました。
皆さん仲良くしてくださいね。席はそうね、あそこね。」
そういって担任が指をさした先はすみれの隣だった。ソフィアはクラス中の注目を
集めながら指定された席につく。
「よろしくねソフィアちゃん。」
すみれが少し複雑な表情で声をかけると
「こちらこそよろしく、すみれ。」
不敵な笑みでソフィアは返事した。
ソフィアがすみれの学校に転校してからしばらくしたある日の帰り道。
「すっかり暗くなっちゃったね。ごめんね手伝ってもらって。」
図書委員の仕事で人手が足りず、すみれはソフィアに手伝いを頼んだのがそれでも
結構かかってしまった。
「いいのいいの。どうせ私も暇だったし。それよりおなかすかない。」
「そうだね、じゃあ近くのラーメン屋にでも行こうか」
すみれの提案に
「ラーメン。いいねえ。ロシアでも人気なんだよラーメンは。」
二人は近くのラーメン屋に入りすみれはみそ
ソフィアはしょうゆを注文した。
「やっぱうまいねえ。さすがラーメンの本場だわ。うちの近くとは大違い。」
「ソフィアちゃん。ラーメンの本場は中国なんだけど。」
すみれの突っ込みに
「え、そうなの。ずっと日本かと思ってた。」
たわいもない話を楽しんだ後、ソフィアは
「ねえ、すみれ。この後すみれの家に言ってもいい。」
突然のことに
「うん、いいけど。大丈夫なの。」
「大丈夫だって。家にはちゃんとれんらくしておくから心配するなって。」
そういってさっさと勘定をすましたソフィア
は店を出て行ってしまった。
「ちょっと待ってよソフィアちゃん。」
すみれは慌ててソフィアを追いかける。
ソフィアに背中を突っつかれながら前を歩くすみれ。とりあえず無事にすみれの家に
着きソフィアはすみれの家に乗り込んだ。
「ここがすみれの部屋か。結構かわいいじゃん。」
「そお、ありがとう。」
しばらくすると鍵を開ける音が玄関から聞こえてきた。
「ただいま。あれ、靴がもう一足。ま、まさか」
まさか男。家の娘に限ってそんなことは。と
すみれの父である勉が動揺していると
「おかえりなさい。お父さん。こちらソフィアちゃん。ほら、ロシアに
住んでいたときのお友達。」
「お久しぶりです。ソフィア・マイスキーです。」
ソフィアが改まって挨拶する。
「いやあ、ソフィアちゃんか。大きくなったねえ。何年ぶりだろうね。でも、
もうだいぶ夜遅いんじゃないかい。家の人も心配しているだろう。もしよかったら
家に泊まっていったらどうだい」
自分の娘と同じ年の子を夜一人で歩かせるわけにはいかないという親心だった。
勉の言葉にソフィアは
「ありがとうございます。ではお言葉に甘えて。」
しばらくたった頃
「ねえ、すみれ。お風呂入らない。」
突然の誘いに
「ええっ、一緒に。うちの狭いよ。」
まったく気にする様子もなく
「いいのいいの。一人が体洗っている間にもう一人が湯船に浸かってれば
いいじゃん。」
あっけらかんとソフィアはいう。
「う~。まあそうだけど。」
「じゃ、決定ね。」
強引なんだから、ソフィアちゃんは。すみれが風呂場を案内すると
「あっいけない。忘れ物しちゃった。取りに行くから先入ってて。」
慌しくソフィアがすみれの部屋に戻る。
「お待たせ。」
「ソフィアちゃん。タオルぐらい巻こうよ。あと、それパソコンだよね。」
パソコンを持ってきたソフィアを見てすみれは唖然とする。
「そうだよ。部品一つ一つに耐水、撥水、
防水加工されているからへっちゃらだって。」
「でもそれならお部屋でもよくない。」
すみれのツッコミなどソフィアは全く気にしない。
「まあいいじゃんそんなこと。それよりその動画見てみ。面白いものが
入っているから」
CDを再生するとそこにはアラスト星人とアメリカ大統領が対話している様子が
映し出されていた。
「やたら物騒なタヌキね。これソフィアちゃんが作った映画。」
心底呆れたようにため息をつくすみれ。
「信じられないのも無理ないよね。これうちがホワイトハウスにハッキング
したときに入手した情報だよ。あとこの音声も聞いてみて」
今度は米ロ会談の様子が聞き取れた。
「こ、これ本当なの。ドッキリじゃないよね」
すみれが驚愕したのをみて、ソフィアは勝ち誇ったように
「ドッキリだって信じたいさ。でも真実なんだ。国同士が争っている場合
じゃないんだ。すみれ。」
「ソフィアちゃん。なぜこれを私に見せたの。国家機密でしょ。」
「ロシア情報部ソフィア・マイスキーを知らないわけじゃないよね。鉄姫妖精の
リーダー霧島すみれ。」
その言葉を聞いてすみれはソフィアに鋭い視線をぶつける。そういうことね。
素肌に盗聴器はつけられない。さらに狭い場所ならば盗聴器やカメラの発見も
たやすいってことね。じゃあ、さっきのタヌキは本物の可能性が高いわね。
「やっぱりソフィアちゃんだったの。まさかなとは思っていたんだけど。」
視線の厳しさは相変わらずだ。ソフィアも険しい顔をしてすみれを見つめる。
「私も防衛省にハッキングしてすみれの名前を見つけたとき目を疑ったよ。
まさか幼馴染が同じような仕事しているなんて想像できなかったもの。」
二人の沈黙が続く。最初に切り出したのはソフィアのほうだ。
「ねえすみれ。一緒に考えない。ロシアと日本が武力衝突なしで解決する方法を。」
すみれは単調な声で
「ロシアが北方四島を返還すれば済む話よ。基本、日本は侵略戦争を
してはいないわ。」
「それがスムーズに行かないのが現実なんだよね。そこでこのタヌキを利用
できないかと考えたんだ。」
「利用って」
「うちはこのことをロシア政府に伝えた。すみれはこのことを日本政府に伝えて。」
ソフィアの提案に
「やれるだけやってみる。でも信じてくれる保証はないわ。こんなSF映画
みたいな話。」
「大丈夫大丈夫。ロシア政府だって信じていない人のほうが多いし。そうそう話は
変わるけど、このごろ政治家の付近に戦争を煽る不審者がいるそうよ。」
ソフィアの険しい顔がほぐれ、いつものようにあっけらかんとした声で
「ありがとう気をつけるわ。ソフィアちゃん」
2028年4月20日




