火星での出会い
重力制御装置、光ジェットエンジンなど他国を圧倒するスペックを有した日本の
有人火星探査船が火星に無事到着し火星の大地を踏みしめ、探索していると
建物らしきものを発見した。岩本はついに地球外生命体と出会えるのかと思い
心を躍らせながら建造物内に入っていった。階段がある。手すりもしっかりある。
建物の造りが地球と似ている。階段を下りていくと扉が見えてきた。
扉を開けるとそこに見えたのは
『ようこそ火星へ』
という横断幕だった。呆気にとられる岩本に一人の女性が近づいてきた。
「ようこそ、エスパレス第二宇宙軍ヘリオスフィア防衛軍火星第一基地へ。
私、案内人のエリザと申します。」
想像を超えた現実に岩本は目の前の女性の話はほとんど耳に入ってこなかった。
「に、人間がすでに火星にいたのか。エスパレスって聞いたことないぞ。
それになぜ日本語が通じるんだ。」
混乱している岩本と対照的に女性は落ち着いた感じで
「はい、今から2万五千年前にこの基地は作られました。エスパレス国によって。
エスパレスは現在も地球に存在しています。ただ見つけるのは困難かと思いますが。
あと言葉についてはこれです。」
そういうと彼女は右手を見せた。薬指に指輪がはめられている以外とくに
変わった様子はない。
「この指輪のおかげです。この翻訳指輪のおかげであなた方と会話ができるのです。」
「すごい科学力だ。日本はまだまだだな。」
「いえいえ、最近の日本の進歩は目覚しいものがあります。現に火星に最初に
たどり着いたではありませんか。」
「エスパレスの次にな。」
基地を案内された岩本は驚愕するほかなかった。見たことない機械だらけだった。
特に驚いたのが魔方陣らしきものが回っている謎の機械と対面したときだ。
「驚きました。エスパレスは魔法と科学が混在する文明を築いているのです。」
「魔法って、ファンタジーに良く出てくるあの魔法か。」
「はい、その魔法です。」
そういうと彼女は岩もとの目の前で右手を前に出しなにやら空中に何やら書き出した。書き終えた瞬間、岩本の目の前に緑色に光る星型が現れた。
「驚きましたか。手品ではありませんよ。」
岩本は呆気にとられていた。基地の案内が再び始まった。色々説明を受けたが
岩本はさっぱり理解できなかった。そこで岩本は見慣れたものを発見した。
それは一枚の石版のようなものである。それには文字が彫られてある。
アラビア文字みたいだが違う文字。読むことはできないが岩本はそれを知っていた。
「この文字、俺の親父が持っている古本に書いてある文字と同じだ。」
それを聞いた案内の女性は歩みを止めた。
「これをご存知なのですか」
急に語気を強めた彼女に岩本は少したじろいだが
「ああ、間違いない。親父がどっかの骨董屋から買った古本に書かれている文字と
一緒だ。全く読めないがな。石版と本という違いはあるにせよ、同じものが
ここにあるんだ」
岩本の質問に対し
「そうですか、読めませんか。わが国でもこれは解読できておりません。
私は軍の下っ端なので詳しいことは分かりませんが最近、この文字の解読が
わが国の最優先問題となっております。発掘されたのは千年ほど前ですが
いつ作られたものかは分かりません。ただ、地球外の物質で作られたものだけは
わかっております。」
「なんだか壮大なスケールの話だな。火星に人間がすでに基地を造っていただけでも
驚きなのに俺んちの古本と同じ様なものがあるなんて宇宙はわりと狭いのかもな。」
「そうですね。この出会いはきっと偶然ではないかもしれませんね。
そういえばまだお名前を聞いていませんでしたね。」
「俺は岩本宏だ。」
「岩本さん。またお会いできる日が来るかもしれませんね。まだエスパレスと
日本は国交を結んでおりません。ここでのことは内密にしてもらいたいのですが。」
「了解した。」
「ありがとうございます。では出口までご案内しますね。」
出口まで案内された岩本はエリザに敬礼をして基地を出た。岩本が何気なく
振り向くと先ほどまでの入り口は消えてなくなっていた。
まぼろしか・・・まあいい、宇宙船に戻ろう。
仲間が俺の帰りを心配しているだろう。
船に戻るとJAXAのクルーの一人が
「おっ、早いな。まだ30分も経ってないぞ。」
「問題ない。初めての土地だ。これくらいがちょうどいい。」
岩本はクルー達にそう言いシャワー室に入った。数時間は基地にいた気がしたが
考えても仕方がない。その後一週間ほど火星を探索して世界初の有人火星探査は
終了した。なおアメリカは日本に遅れること数ヶ月ほどして火星に到着した。
日の丸を見たアメリカは呆然とし火星の大地を地団駄したという。
もちろんエスパレスとの出会いもなかった。
2028年一月末




