火星に向けて
2028年1月15日午前10時、種子島宇宙センターにて火星探査船夏日星は
出発の準備を迎えていた。カウントダウンが始まる。
10、9、・・・3、2,1、0。
反重力エンジンが稼動。夏日星は地球の重力に逆らって徐々に高度を上げる。
発射からおよそ一分、種子島宇宙センター内は火を噴かずに上昇する宇宙船を
理解できないでいたが、打ち上げが成功したことに対してほっとしていた。
地球の重力圏を振り払った夏日星の本領はここから始まる。
エンジンを光ジェットに変更。さらに加速。その速さ秒速一万キロ。
先行しているアメリカの探査船が秒速15キロ。打ち上げから一時間半ほどで
アメリカの宇宙船に追いついた。岩本はその様相を写真に収めた。さらに
一時間半ほど航行するとついに目の前に赤い惑星が見えた。
「これが火星か。本当に赤い。」
岩本はすぐさま火星の写真を撮り、アメリカの宇宙船の写真とともに
管制センターに送った。数分後その写真が管制センターに届いた。その写真を見た
管制センターは言葉を失った。出発してわずか3時間ほどで火星に到着する
はずがない。火星の写真もそうだがアメリカの宇宙船を撮った写真もだ。
二枚の写真には若干の違いがあった。それは時計の針である。時計は約一時間半
ずれがあった。要は火星を撮影する一時間半ほど前に宇宙船を撮ったのだ。
夏日星は防衛省が極秘で造った宇宙船なので、そのスペックについては
JAXAには、ほとんど知らされていなかったのだ。予想外の出来事に
管制センターが混乱していると
「反重力エンジンと光ジェットエンジン。」
と若い女の声が聞こえた。長澤である。
「まず反重力エンジンで地球の重力圏を振りきります。次に光ジェットエンジンで
火星に向かうのです。」
予想だりしないSF用語の登場で一瞬しんとなったがセンターのひとりが
「それでどのくらいの速度で航行するのですか。あの夏日星は。」
「およそ秒速一万キロで航行します。火星までなら3、4時間ほどで
到着するでしょう。事実、火星の写真が届けられたではないですか。
あと宇宙船の写真もあります。NASAにでも確認とって見れば
いいじゃないですか。」
そういって長澤は不敵な笑みを浮かべた。その頃、夏日星は火星の大気圏突入まで
真近に迫っていた。軌道に乗った後、ためらうことなく突入。そして車輪を出し、
そのまま着陸。2028年1月15日午後5時半。人類初の火星到着をした
瞬間である。岩本たちはおそるおそる火星の大地に足を踏み入れた。二、三歩歩いた。そして雄たけびを上げた。人類初の快挙である。彼らはこの感激を抱き合い
分かち合い、この土地に日の丸を掲げた。そして彼らはすぐさま中継セットを
セットしJAXAとの交信を始めた。数分後、この偉業がJAXAに伝えられた。
この中継を見た長澤は、おめでとう、岩本とそっとつぶやいた。この偉業は
世界に瞬く間に伝えられたが、出発から到着までがあまりにも早すぎたため、
この偉業に対して懐疑的な見方が多数を占めた。最もこれが事実であることは
数ヵ月後にアメリカ自身が気が付くことになる。




