停戦協議
「パク大統領、日本からFAXが届きました。」
「読み上げてくれ」
「かしこまりました。内容は日本は貴国とこれ以上の戦闘を望まない。停戦協議を
行いたいとのことです。」
「協議内容によると伝えておけ」
「はい、そのように伝えます。」
今協議に応じればこちらが不利だ。私の大統領生命も危うい。
「日本からの返信が来ました。内容は竹島、対馬、五島の返還要求です。」
「そんな内容は受け入れられない。拒否すると伝えておけ。」
と大統領ははき捨てるように秘書に言った。
この返信に対し日本からの反応はなく、そのまま一週間が過ぎた。
その間次々とラプターの残骸が海中から引き上げられていった。
あるものは前から、またあるものは後ろからの砲撃とそれは無残なものだった。
中には機体が貫通し、その周囲には溶けた形跡が見つかるものもあった。
「フランクリン司令官、事の経緯を説明してもらおうか」
戦闘後、フランクリン司令官はペンタゴンに呼び出されていた。
「はい、戦闘は韓国軍の攻撃から始まりました。その後、自衛隊に反撃により
韓国軍のイージス艦3隻撃沈しました。そこで私は飽和攻撃による
イージス艦攻撃を命じました。」
「飽和攻撃とは?」
「はい、各戦闘機から対艦ミサイル2門同時発射、それを150機の戦闘機から
行いましたので300発の対艦ミサイル同時攻撃です。」
「で、失敗したというわけだな。」
「返す言葉もございません。その後自衛隊から戦闘機による攻撃が始まりましたので
それに応戦しました。」
「で、ラプター16機撃墜されたわけだ。」
「おっしゃるとおりです。」
米軍関係者はため息をついていた。大戦初期と全く同じ状況である。だが現在、
日米が交戦状態ではない。日韓が交戦状態なのだ。
これ以上の介入は避けたい。そもそも介入する必要すらなかったのだ。さいわい
日本もあれ以来攻撃は仕掛けてはいない。それどころか停戦を呼びかけており、
アメリカは仲介を頼まれている状況だ。
「報告の続きよろしいでしょうか?」
フランクリンが幹部たちに尋ねた。
「どうぞ」
「このレコーダーを聞いていただきたい。」
というとなにやら黒い箱を持ってきてフランクリンはスイッチを押した。箱の中から
「元帥、機体のコントロールが利きません。ぜか基地に向かって飛行しています。
ロ、ロックオン、ミサイルがロックオンされました。なにがなんだか分かりません。
お願いします。基地からお逃げください。は、発射・・・されました。」
録音はここで終わっていた。
「どういうことだ、まるで戦闘機の制御システムが奪われたみたいではないか」
「私もそう考えております。日本は何らかの手段を用いF―16Kの制御システムに
侵入そして遠隔操作した可能性があります」
「そうか、日本の軍事力は驚異的に高い水準に達しているというわけだな。
報告感謝する。フランクリン司令官。君の処分に関しては後日通達する。」
失礼しますとフランクリン司令官は一礼し会議室を出た。
「さてどうしましょう。」
「空母打撃群を2隻、サイパンに待機させろ」
「了解しました。」
その夜、駐米大使のノ・フテンと中嶋仁大使がホワイトハウスに招かれた。
二人を招待したクリストファー国防副長官は
「日韓両国の軍事衝突はアメリカとして非常に遺憾であり即時停戦してもらいたい」
と米国側の意見を述べた。
「韓国としては日本の停戦条件はとてものめない。」
「日本の領土を侵略したのは韓国側であり、わが国はそれを取り戻したに過ぎない。
停戦条件としては当たり前のことだ。そもそも先に手を出したのは韓国側ではないか」
「いや、侵略側は日本だ。竹島、対馬、五島が韓国の領土であることは15世紀の
古地図からも明らかだ。」
「その理屈は認められない。それを認めてしまえばモンゴルはモンゴル帝国時代の
地図を持ち出し、領土を主張するだろう。」
「認められないということは日本がわが国を侵略したという証拠である。」
「これはアメリカからの提案なのだが韓国は竹島と五島を日本に返還、
対馬は保留ということはどうだろうか。」
この提案に対し両国大使は拒否を示した。その反応は織り込み済みであった
クリストファーは
「アメリカは極東アジアの平和と安定のため現在サイパンに空母エンタープライズと
ジョージ・ワシントンを派遣している」
両国に対し停戦しろ。そうしなければ両方つぶすとアメリカはいってきたのだ。
この発言に両者とも本国に相談すると伝えた。韓国側の返事は早かった。
アメリカの提案を認めるということだった。今の韓国には対日本戦における消耗で
とてもアメリカと戦える状況ではなかったからである。もっとも日本と戦う前でも
あまり変わらなかったと思うが。一方その報告を受けた日本政府は
「総理、中嶋大使からの報告ですがどういたしましょうか」
「飛鳥大臣、現在の日本の戦力から見てどう思う?」
「そうですね、まず米国と戦争する理由がありませんよね。実際ラプターとの交戦があったといえ。在韓米軍が韓国についても不思議ではありませんし。
米国との戦力差はまだありますね。第七艦隊にすら勝てる保障はありません。
よってこの提案はのむしかないのでは。」
「そうだな。わが国は米国と戦う理由はない。ただし、対馬は保留であって
諦めたわけではないということは日本として伝えておいてもらおう。」
この閣議内容は中嶋大使に伝えられ両国はこの提案を合意して戦闘は終了した。
2027年3月3日のことである。この結果に竹島、五島が戻った地域では
お祭り騒ぎがとなっていた。対照的に返還が見送られた対馬では政府に対する反発が
強まっていた。韓国にいたっては敗戦したにもかかわらず政府に対するデモが
あちこちで生じ国会内でも乱闘騒ぎが起こるほどであった。また、
この混乱に乗じて北朝鮮が済州島に向かいミサイル発射実験を行い、
韓国は北朝鮮からの国境警備のためにも防衛費を回さないといけなくなった。
その結果、韓国政府は日本に報復するためにGDPの50%を防衛費として計上した。




