4月9日 放課後
ギィバタン
「ふー疲れた、ただいまー空姉えか陸かいないかー」
俺が家の中に呼び掛けると2階から陸都が下りてきた。
「あっお兄ちゃんおかえりなさい」
「おうただいま陸、空姉えは?」
「お姉ちゃんはお仕事だよ?」
うん?空姉えは確か今日は休みじゃなかったっけ?
「あり?空姉えは確か休みのはずじゃ…」
「えっとねお姉ちゃんがお兄ちゃんには言うなって言ってたんだけど…」
「なんでまた…いやいいどうせ空姉えの思い付きだ」
空姉えはよく俺をからかうために隠し事をするのだ。
ああそういえば言い忘れていたな俺の姉である月村空都は今年大学の教育学部を卒業し、晴れて夢であった教師の道を歩んだのだ。
正直あの空姉えが教師なんて世も末だと思ったがなんと空姉えは教育実習のときに担当してくれていた先生がべた褒めするくらいの優秀っぷりを発揮していたらしい。
---正直言ってマジ信じらんねえ
まあ事実らしいので受け入れるほかないのだが…
ああそれと俺の目の前にいるのは小学生の妹の陸都だ。
正直目に入れても痛くないくらい可愛い子だ。
俺が彼女がほしいと言いながらも積極的に作ろうとしないのは10割方この子が俺を健気に慕ってくれるせいだ。全部じゃねえかおい!
小学生のそれも妹とは言え美少女に慕われるというのはまんざらでもなく、俺は中学のころからシスコン野郎と言われ羨望と嫉妬の視線を受けてきた。
そんな中でも孤立しなかったのは一重に空気を読むスキルが高かったからだろう。
「そうしなければならない理由もあったしな………」
---おれは小学生取り返しのつかない過ちを犯してしまった。
あの頃両親は何をやらせても優秀な空姉えとまだ生まれたばかりの陸を可愛いがり、俺のことは放任されてばかりいた。
俺は………………
「お兄ちゃんどうしたの恐い顔してるよぉ?」
ふと気が付くと陸が心配そうに俺を見あげていた。
---妹に心配かけるようじゃまだまだだな
「いや少し考え事。早くクラスになじめるようにしないとってさ」
「そっかぁでもお兄ちゃん中学校でもみんなのリーダーみたいだったから大丈夫だよぉ」
「ははっそうだといいけどな」
俺は天真爛漫にそう言う陸の頭を撫でながら思いを馳せた。
「にゃうー」
陸がまるで猫のように気持ち良さそうな声をあげているのを聞きながら俺は夕飯の準備を始めた-----
「ただいまー」
なんと高校生活初日で2人の友達を作った私は足取り軽く家の玄関を開けた。
「お帰り李どう友達はできたかしら?」
「うん2人もできたんだよ」
私は嬉しさあふれる笑顔でお母さんに告白した。
「まあまあの引きこもってばかりいたあの李がねー、でどんな子たちなの?」
「えへへーえっとね未寅壬美子ちゃんっていうちっちゃ可愛い子と穂積初音さんっていうものすごく綺麗な子なの」
「あらー美少女と美人さんの両手に花じゃない羨ましいわー」
うわまた始まったよ…
どうもお母さんはかわいい女の子が大好きで私にもよくゴスロリなんかを着せようとしてくる。
私なんかに似合うわけないのに…ていうか
「いや、私は花じゃないの?」
「馬鹿ね李、美少女が美少女と美少女の間に挟まれてキャッキャうふふとするのが良いんじゃない」
へっ変態だーお巡りさんここに変態がいますよー!
ていうかミミちゃんといい、お母さんと言い私の周りには変態しかいないのか…
あっでも初音さんは別だな、だってあんなに綺麗で素敵な人なんだし。
…あれそういえば私が帰ろうとした時に初音さんが何か言おうとしていたような…
あのときは久しぶりに普通の学校生活でもういっぱいいっぱいだったから走って帰っちゃったけど…
うわーやばいもしかして変な子とか思われたかな。
明日学校に行ったときに避けられたらどうしよう。
私がそんな風に悩んでいるとお母さんが心配したのか。
「ちょっと李いきなり変な踊りを踊りだしてどうしたのよ?」
…訂正、心配は心配でも頭のほうを心配されてしまった。
ていうか雁にも元引きこもりの娘が友達づきあいで悩んでるのに変な踊りとはー!
「いや踊ってるんじゃなく悩んでるんだけど…」
「何を悩んでいるのよ?元引きこもりの身に生徒いっぱいの学園生活があまりにも辛くて帰りにお友達が誘おうとしてくれたのにそれに気づけずさっさと帰ってきてしまっとこととか?」
なんでわかった!?エスパーなのか!?
「ふふんなんでわかったのか、という顔をしているわね。伊達に李の母を15年もしてきたわけじゃないわよ?李の考えていることなどお見通しよ」
さっさすがだ、母は強しということか…
「うん…初音さんが何か言おうとしていたみたいなんだけど…」
「だったら明日学校で聞いてみたらいいじゃない?」
いや私にそんなスキル求めんで下さい。
「でももし初音さんがもう私と話したくないって言ったら…」
「あのねえそんなことで友情が崩れるくらいならそんなの友達なんかじゃないわよ。ほらくよくよしないでさっさと謝る。誠意があれば許してくれるわよ」
やっぱりかなわないなぁ…
「うんわかった」
そうして私はリビングでしばしの間高校のことに関してお母さんと話をした---
ガチャッバタンッ
「……………」
あれからほんの少しの間屋上でゆっくりしてから俺は先日採用されたばかりのバイト先へ向かった。
「おはようございます」
なぜかこの喫茶店は朝だろうが夜だろうが仕事に入るときは「おはようございます」なのだ。
…夜におはようも何もないと思うが就労条件はむしろものすごくいいので文句は言わない。
「ああおはよう星羅君。君の指導担当の子がまだ来ていなくてね、悪いけど先に着替えて待っててくれ」
今俺に挨拶してきたのはこの喫茶店のマスターで名前は従業員を客も知らないため皆オーナーと呼んでいる。
つーかだれも名前知らないってそれでいいのかよ…
そして名前も知らない俺の指導担当のやつは遅刻かよ・・・
「分かりました」
まあいい俺の指導を担当する羽目になったやつのくじ運のなさに免じて遅刻は見逃してやろう。
「いやーホントすまないね後でびしーっと言っておくから」
…やはりマスターには怒られるんだな
「すいやせん遅れましたー」
10分程待っていると従業員口からやたらと覇気のない声が聞こえてきた。
「おいおい藤堂君これで何度目に遅刻だ?今日は君が指導しなけりゃならない新人もいるというのに」
「うゲッ俺が新人指導っすか?そういう面倒なのは有谷にやらせりゃ・・・」
「有谷君は今日は休みだよ!ほらほら新人君も待っているんだ早く着替えてきてくれ」
「うへーい」
覇気のない男改め藤堂がマスターに怒られながら俺にいる更衣室に入った。
「おぉお前さんが例の新人かオレぁ藤堂礼成だよろしくな。で、お前さんの名前は?」
更衣室へと入ってきたショートヘアに無精ひげを生やしたいかにもおっさんという風貌をした奴が自己紹介をしてきた。
「…俺は星羅刀夜です」
「ほう星羅とはまたお前さんの仏面帳面に似ず可愛らしい姓じゃねぇか」
…このおっさん初対面でいきなり失礼な奴だな。
ちょっと腹が立った俺は藤堂に仕返しすることにした。
「こちらこそよろしくお願いします《れいな》さん」
「ちょおま、れいな言うなや《ひろなり》だっつーの」
案の定藤堂は反応してきた。ここは畳み掛けるべきだろう。
「いやひげ面のおっさんにぴったりのいい名だと思いますが」
「ひげ面おおっさんがれいなとか恥ずかしくて死にたくなるだろうが!
後なんか勘違いしているようだが俺はこんななりでも鳳仙の2年で17だぞ」
は?このひげ面のおっさんが俺と同行の一つ先輩?
「信じらんねぇ俺と同じ高校の先輩とか…」
「おっ何だお前さんも鳳仙の生徒なのか!まあ何か困ったことがあったら何でも相談にきな!」
そうして俺は親父以外で初めて(無理やり)藤堂先輩とアドレスの交換をすることとなった---
「ただいま帰りました」
クラスメイトとの雑談もそこそこに私は帰途につきました。
そして玄関を開けるとそこにはお父さまとお母さまの靴のほかにもう一足靴がありました。
---どなたのものなのでしょう?女性用のもののようですが…
「お帰りるークラスメイトとの初お披露目はどうだったかしら?」
少し悩んでいる間にお母さまが出てきてしまったみたいです。ここはお母さまを安心させないといけませんよね…
「はい皆さんとてもよくしていただけました」
「へーそう、まあるーは綺麗だからお近づきになりたいって言う人は多いわよね」
…そうなのでしょうか?自分でよく分かりません
「あっそういえばお母さまこちらの靴はいったい…」
「ああそれは葉月さんのものよ。るー覚えているかしらそーちゃんのお姉さんでるーも小さいころよく遊んでもらってたのよ」
もちろん覚えています。葉月さんは肝っ玉お母さんと言った感じの方で、5人の息子さんを女手一つで育てあげたすごい方です。
ただ女の子がほしかったのか、私と会うたびにうちの息子と交換してほしいわと言っていたのを覚えています。
「葉月さんが来ていらっしゃるのなら私も挨拶してきますね」
そう言って私はお父さまと葉月さんのいるリビングに向かいました。
---そこには何があったのか部屋が荒れており、その中央でお父さまが葉月さんにのしかかられていました。
…えっと一体何があったのでしょうか?
私が困惑していると私のことに気付いたのか葉月さんがお父さまを思いっきり踏みつけた後私のほうに向ってきて、
「あぁおかえり瑠夏ちゃん。へーまた一段と綺麗になったわねー」
「ありがとうございます。それでこの状況は…」
「ああ蒼馬の馬鹿がまた瑠夏ちゃん自慢を始めやがってね…ムカついたから瑠夏ちゃん寄越せって言ったら案の定烈火のごとく怒ってさー。そっから年甲斐もなく兄弟喧嘩に勃発しちゃったのよ」
「なっなるほど…」
それでこのような悲惨な状況になっていたんですね…
「でさ瑠夏ちゃん。瑠夏ちゃんももう高校生だし彼氏はできたかしら?」
え?えーー!?その今はまだ彼氏とか早いと申しますかそもそもまだ私は高校に入ったばかりでお友達も満足に作れていないのにその先の関係の(長くなるので以下略
私が脳内で困惑していると葉月さんが
「まー瑠夏ちゃんにその気がなくても向こうにはあるかもね、瑠夏ちゃんって見た目通り清楚なお嬢様だし」
はうー恥ずかしいですー
と身もだえていると今まで死んだように動かなかったお父さまが起き上がり
「だめだめだめだよるーちゃん!男はオオカミなんだよるーちゃんなんて抵抗できずに食べられちゃうよ!」
「でも将来的には必要なことよ?」
「くっるーちゃん!今日クラスで仲良くなった男子なんて居ないよね?」
どうなんでしょうか?クラスの方とは2,3話しただけですし…
あっでも月村君は困っている私を助けてくれましたよね…それなら中がよいと言ってもいいのでしょうか?
「はい月村君という方なのですが」
「月村ぁー!僕のるーちゃんに何てぇ出してんだこらぁ!」
その後暴走したお父さまを止めるために葉月さんがお父さまの頭にかかと落としをしているように見えました---
「ただいまーってだれもいないんだけどね」
私は独り言のようにそう呟いて玄関を上がるとそのまま自分の部屋に向かった。
「さてと夕飯は陽之坂さんが作ってくれるし、時間まで本でも読んでようかな…」
そうして私は読みかけのラノベに手を出した。
この作品は心に傷を負った少年たちがみんなで集まり時に仲良く、時にすれ違いながらその友情を深めていくというものである。まぁ圧倒的に後者のほうが多いのだが。
そうこうしているうちに2巻が読み終わり、それと同時に陽之坂さんから夕食の準備ができたと連絡が入り、私はお隣さんの家へと向かった。
「今日はご同伴に預からせてもらいありがとうございます」
「なーに言ってるの初音ちゃんは私たちの子供のようなものなんだから気にしなくていいのよ」
「そうそう自分の家だと思ってくつろいでくれ」
陽之坂夫妻は本当にいい人たちでときどき私なんかが割って入っちゃいけないという思いに駆られるが、そんなことを考えているのがばれればこの人のいい夫妻のことだから、たぶんそんなことはないと怒るのだろう。
「ああそういえば言い忘れていたんだがね、実は来週の日曜日に私の知り合いの子がフランスからホームステイしに来るんだよ」
私たちが食事をしているとおじさんがいきなりものすごいことを言ってきた。
…えっとフランスって確かヨーロッパの西側でナポレオンの国だっけ。そんなところにも知り合いがいるなんておじさんって何者?
「まぁそういうわけだからお隣同士仲良くしてやってくれ。彼も親元離れて一人で遠い異国の地に来るんだから寂しいだろうしね」
「あの、その子って何歳なんですか?それに私フランス語とかしゃべれないんですけど…」
「ああ彼は初音ちゃんと同い年の子だよ。それと彼は祖父が日本人で日本語もそれなりにはしゃべれるらしい」
はぁ同い年の外国の男子か…少し怖いけどおじさんたちの期待を裏切るわけにはいかないし…
「分かりました私に任せてください。彼もたった一人で日本に来て心細いでしょうし」
結局私は本心を隠しながらそう答えたのだった---




