4月9日 入学式
<本日のこの良き日に………>
「ぐー………っていかん、さすがに自分の入学式で寝落ちるのはまずいだろ」
俺は今壇上で挨拶している校長のセリフがあまりにもテンプレであった為にあやうく寝落ちそうになってしまった。
「くぅおのれ校長め睡眠攻撃とは………」
そうやって睡魔と戦っているうちに新入生代表挨拶となった。
<続きまして新入生挨拶です。新入生代表、穂積初音さん>
呼ばれて壇上に上がったのは長い黒髪をサイドで結った、傍目からものすごい美少女な子だった。
<新入生代表、穂積初音さん>
校長先生の挨拶が終わり、次は私が挨拶をする番となった。壇上へ上がり新入生たちの方へ向き直ると多くの視線が私に突き刺さる。
---大丈夫、私はあの頃の私じゃない---
私は深呼吸をすると前日から何度も練習してきた挨拶を始めた。
「本日私たち新入生×××名は………」
-1年1組-
入学式が終わり、新入生は皆自分の教室へと戻っていった。
同中の連中が話を始める中、俺は椅子に座りつつ辺りを見回してみた。
………ワイワイガヤガヤ
「チッ相変わらず揃いも揃ってうるさい連中だ…」
教室の内外で新入生たちがこれからの3年間に思いははせているためにとてもざわついていた。
あまりの煩さに顔を顰めていると他のグループよりも一際喧しい一団がこのクラスに入ってきた。
<なあなあ新入生代表の子めちゃくちゃ可愛かったよな>
<あああんな子が彼女になったら毎日がハッピースクールライフになるんだろうなぁ>
<いよっし俺今日の放課後あの子に告ってくるわ>
<やめとけやめとけお前じゃ相手にもされねぇよブサ面だし>
<てめえに言われたかねぇよ>
どうやら奴らは新入生代表のやつの話題で盛り上がっているようだ。
「まあたしかに美少女然とはしていたがな………しかし」
俺の真後ろでぎゃいぎゃいと騒ぐな鬱陶しい。
<なあなあ月村、お前はどう思うよあの子>
俺のそんな思いに気づくはずもなくやつらは今まで話に加わっていなかった奴にも意見を求めていた。
そいつは長い黒髪を後ろでポーニーテールにし前髪を寝癖のようにつんだてた一見して人のよさそうな顔をした奴だった。
---あいつも最初はそんな感じのやつだった。
「…クッ」
これ以上奴を見ていると嫌な感情があふれ出しそうで俺は足早に教室から出て屋上へと向かった。
<なあなあ月村、お前はどう思うよあの子>
荒井に尋ねられて俺は考え事をやめて聞き返した。
「あの子ってどの子よ?」
「いやいやどうしたのよ月村お前ともあろうものがあんな美少女を見逃すなんて…ほれ新入生代表の子だよ」
「ああ彼女か…彼女がどうかしたのか?」
「…お前本当に月村か?あんな美少女を見て反応がないなんてそれでも男かお前は!」
何やら荒井が興奮した様子で詰め寄ってくる。正直キモい。
「いや悪い悪いちょいと考え事をしていてな」
「考え事だと…あの寝ても覚めても彼女がほしいと俺たちとともに叫んでいたお前があんな美少女も目に入らないくらい物思いにふけるだと…月村お前はどうやら熱があるようだ、今日は安静にして早めにゆっくり寝るといい」
…こいつものすごい失礼だな。まるで普段俺に悩みなんて欠片もないかのような言い草だった。
「あのなあ俺にだって考え事するくらいあるっての…」
「いーやお前が女以外のことを考えることなんてありえないね」
「俺はいったいどこの性欲魔人だ」
「ふっ思春期男子なんてそんなもんだろ」
こいつは思春期男子はみんなエロい妄想をするもんだと思ってるのか?
「つーか俺は」
俺が反論しようとした時クラスが一瞬ものすごくざわついた。
「うお、おい見ろよ月村あの子」
荒井が何やら感極まった様子で俺の背中をせっついた。
「いってぇなんだよいったい…」
俺の言葉は最後まで出ることはなかった。
なぜならそこにいたのはまるでおとぎ話から出てきたお嬢様のような…
「うっひゃー新入生代表の子も可愛かったけど、こっちの子も負けてねえ。いやークラスの子たちもレベル高いし俺も鳳仙に受かってよかったー。これだけの美少女に囲まれるなら俺もう死んでもいい…」
荒井のやつはいちいち大げさだがこの子がものすごい美少女だということには賛成する。俺でも見惚れてしまうような美しさだからだ。亜麻色の長い髪の毛をストレートに伸ばしどこか戸惑ったような顔も彼女の魅力を引き立てるスパイスのようになっている。その容姿は確かに新入生代表の子にも負けないくらいだった…
入学式が終わり、私は指定された教室へと向かいました。そして教室のドアを開けて入ろうとすると…
----ザワザワ
教室の中にいた人たちが一斉に私のほうを見て騒ぎ始めました。
---何かおかしなところでもあったでしょうか。
なぜ騒がれているか分からない私は少し身を縮こまらせながらあらかじめ指定された自分の席へと向かいました。
「ふぅ」
私は人知れず軽く息を吐くと、すぐさま近くにたまっていた男子が話しかけてきました。
「あぁこれはなんということでしょうか、私はあなたの美しさに魅了されてしまったようだ…あなたのその羞花閉月の如き美しさをどうかこの哀れな子羊めに…」
…えっとこの方はいったい何をおっしゃているのでしょうか?
「あってめこの抜け駆けすんな」
「つーか自分の身をわきまえろよこのブサ面が」
「てめーにだけは言われたかねえよ!つかおい誰だ今俺をブサ面とかいった奴!」
「ブサ面にブサ面と言って何が悪いんだこの野郎!」
「上等だてめこら表出ろ!」
<おいおい喧嘩か?>
<よそでやりなさいよね鬱陶しい>
どこかでてめえらだってうるせえよと聞こえた気がしたがそれはさておき
「おいおいお前らやめろって彼女困ってるだろ…悪いこいつ少し頭おかしいんだ」
「てめ言うに事欠いて俺の一世一代の告白を頭おかしいだと!」
「わかりづらいんだよへんな言い回しすんなボケ」
「進藤もあんま煽るなって荒井の馬鹿さは今に始まったことじゃなし」
えっとこの方は私を助けてくれたのですよね?
「あの…ありがとうございます」
「いやいや気にしなくていいって悪いのはこっちなんだし」
彼はそう言って人好きのするような笑顔を向けてくれました。
「あっ私は采女瑠夏と申します。采配の采に女でうねめと言います」
「おう俺は月村海人だよろしくな」
「通称は東郷平八郎だ」
「えっとなんで東郷平八郎さんが?」
「こいつの姉が空で妹が陸だからだよ」
「空・海・陸の三人が防衛隊のように力を合わせて生きてほしいんだと…」
「なるほどそうなんですか」
私は一人納得すると彼らと少しだけ話をしました。
もっとも私の周りにはなぜかたくさんの方たちが集まってきてしまいましたが…
そうこうしているうちに担任の先生が教室へとやってきました。
「えー諸君入学おめでとう。入学式のときにも紹介があったが、私がこの1年1組の担任となった伊久須大吉だ。《だいきち》じゃないぞ《よしと》だからな、間違えたやつは俺の教科の単位をやらんぞ」
先生は何度も間違えられているかのような子で念を押してきました。
よっぽどだいきちと呼ばれるのがいやなのでしょうね…
そうしていくつかの連絡事項があり、そのまま解散となりました。
月村君はこのあと買い出しがあるそうなので玄関で別れ、帰途につきました。
そういえばHR中に一人だけ席が開いていたような…
-1年2組-
---はーよーやく終わったよーやっぱ元引きこもりには長時間の式典はつらいなー
私はこの長ったらしい入学式を乗り越えたことを心の中で称賛しながら自分のクラスへとたどり着いた。
---というかみんな馴染みすぎだよっ
私が教室にいたどり着く間にもいくつかのグループが楽しそうに話をしていた。
---あーそういえば同中の子達が集まって話とかしてるのか。
もし違う学校同士の子がもう仲良くなっているとしたら私のコミュ力の低さを思い知らされることになるのであえてそう思うようにした。
クラスについて席に座ると前の席の子が話しかけてきた。
「ねえねえわたし未寅壬美子っていうの。君は?」
何やらやたらと人懐っこい子のようだ。
言っちゃ失礼だけど140代ぐらいのちっちゃな体に愛くるしい瞳、彼女の動きに合わせて動く茶色のショート、わたわたと動かすちっちゃな手はまるで小動物のような保護欲をかきたてるような容姿だった。
「えっと私は物部李だよよろしくね」
あーやっばい声とか震えてなかったかな?
「おー李ちゃんかーよろしくね私はミミって呼んで?」
「うんよろしくねミミちゃん」
これってもしかして初日にしてお友達ゲットってことですか!?
「でも李ちゃんってかわいいよね名前の通り食べちゃいたいくらい」
「えっと私は人間だから食べられないんだけど」
「ううん大丈夫だよ私女の子好きだから」
…なんか嫌な予感がしてきたんだけど…
「えっとミミちゃんってもしかして…」
「かわいい女の子ってつい食べたくなるよね?」
やっぱりだー!て言うか小動物然とした容姿なのにものすごい違和感が…
「えっとそんなのミミちゃんだけじゃ…」
「あっ勘違いしないでね別に私男の子が嫌いってわけじゃないから」
「あっうん…」
なんか納得できないような気がしつつ自分の身のために納得することにした。
そうしてミミちゃんと話をしているとにわかに騒がしくなってきた。
「んーなんだろ」
ミミちゃんも気になっているようで身を乗り出すようにしてドアのほうを見た。
私も気になったので同じくドアのほうを向くと…
ものすごい美少女がいるんですけど…
驚いた。というかどっかで見たことがあるような気がした。
私がどこで会ったか思い出そうとしているとミミちゃんが思い出したように、
「あーあの子新入生代表の子だー!」
と叫んだ。というかどこかで会ったもなにもつい10分ほど前に講堂の壇上に立つ彼女の姿を見ていた。
彼女は黒板のほうを見るかまっすぐにこちらのほうへと歩いてきてミミちゃんのひとつ前の席に着いた。
すると早速ミミちゃんが彼女に向かって話しかけていた。
「ねえねえわたし未寅壬美子っていうの。よろしくね穂積さん」
とミミちゃんが話しかけると彼女は私も見惚れるような笑みで
「こちらこそよろしくね未寅さん」
「わたしのことはミミって呼んでね初ちゃん」
「分かりましたミミちゃん」
「あっでねこっちが李ちゃん。李ちゃんこっちこっち」
---この行動力は見習わないといけないな。
私は少し苦笑しながら彼女たちのほうに向かった。
「わたしは物部李っていうのよろしくね初音さん」
初対面でいきなり下の名前で呼ぶのは馴れ馴れしいと思ったけど彼女も別に嫌そうな顔をしていないのでいいかと思った。
なんとか無事に代表挨拶が終わり、私は教室へと歩いていた。
---見られてるよねやっぱり
案の定というか新入生代表ということに加えて私も少し自信のある容姿が目を引いているのか教室に向かう途中にものすごい見られていた。
「………はぁ」
やっぱりどうしてもため息が出ちゃう。私はこのクラスでやっていけるのだろうか?
「くよくよしていても仕方ないし、なるようにしかならないよね」
そう気持ちを切り替えて私は教室のドアを開けた。
---ザワッ
私が教室に入るとクラスメイトの39対78個の視線が私を貫いた。
その視線に少し気圧されながら黒板に書いてある座席を確認し席に着いた。
するとなんかちっちゃい子がこっちに来て、
「ねえねえわたし未寅壬美子っていうの。よろしくね穂積さん」
と言ってきた。
---えっとこの子は私に話しかけているのか
私は少し考えたあとできる限りよい笑顔で、
「こちらこそよろしくね未寅さん」と言った。
すると未寅さんが
「わたしのことはミミって呼んでね初ちゃん」
と言ってきたので一瞬誰のことかと思ったけどああ私のあだ名かと思いなおして
「分かりましたミミちゃん」と返した。
するとミミちゃんとさっきまで話していたらしい女子を呼んだ。
「あっでねこっちが李ちゃん。李ちゃんこっちこっち」
ミミちゃんに呼ばれた彼女は赤みがかった茶色のミディアムへアの顔に苦笑に色を乗せながら近づいてきた。
「わたしは物部李っていうのよろしくね初音さん」
そういう彼女の眼には少し警戒の色と戸惑いの色が見えた。
おそらく彼女は人見知りの子で初めて会う私に警戒していて、いきなり下の名前で呼んでいいのか迷っているのだろう。
彼女からそう読みとった私は彼女の緊張をほぐすために安心させるような笑顔で
「こちらこそよろしくお願いします李さん」
と言うと彼女も漸く安心したような笑顔を見せた。
そうしてまだクラスメイト達の視線にさらされながら彼女たちと話しているとようやく担任の教師が教室に来た。
「えーっとみなさんはじめましてわたしが今日からこのクラスの担任をします、月村空都と言います。今年が初めての担任なので至らないところもあると思いますがよろしくお願いします」
担任はいかにも新人教師といった風な空気を出していた。
---まぁ優しそうな人だからいいかと思いながら連絡事項を聞いていた。
その後すぐ解散となり、ミミちゃんは今日は用事があるといってすぐに帰り、李さんはあいさつもそこそこに鞄を抱えて走って行った。
「どうやらまだ李さんとの心の距離はかなりあるみたいだね…」
そう呟きながら多くの視線が集まる中私は帰途についた。
---ようやく回りだした歯車はいびつに歪みながらその動きを進めていく---
---彼らはまだ知らない---
---この出会いが自身に取って避けられない心の傷を見つめ直さねばならないことを---




