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犯行

 昭和×年十一月×日、早朝に空を見上げた雨森は、ややためらったものの、予定通りに計画を実行に移すことにした。

 予報によると、その日の福岡県内は西からの前線の影響で、どんよりした雲が空を覆いつくし、いつ降り出してもおかしくない天候となっている。できたら雨に降ってほしくないが、こればかりは運に頼るしかない。

 F映画祭も盛況のもとに終わり、雨森の生活も元に戻っていた。普段と変わりなく八時にスペラ座に出勤した雨森は、午後になってから、映画祭のせいで遅れてしまった原稿執筆のために帰宅することを従業員たちに告げた。明日までは電話や客の取次などしないように言いおいたが、それは原稿執筆の際には毎度のことだったので、誰も不審に思う者はいなかった。

 マンションに戻った雨森は、ライトスタンドのついた細長いデスクに向かって座ると、これからのことを頭の中で思い描いた。いままで何度も繰り返してきたことだったが、やり直しがきかないだけに念には念を入れる必要があった。ある程度までイメージすることができると、雨森は椅子から立ち上がった。

 用意しておいた黒っぽい服に着替え、大きめのウエストポーチを腰にまきつけ、黒縁の眼鏡をかけた。どれもべつべつの量販店で購入したもので、身につけるのも初めてなら、ことが済んだらすぐに処分するつもりだった。眼鏡がけっこう顔の印象を変えているのを姿見で確認すると、ウエストポーチからキーホルダーを取り出し、それに、デスクの引き出しにしまってあった鍵を通す。鍵を捨てない習慣だったために、七年前に珠代から受け取った鍵を、雨森はいまだに所持していた。この鍵をもう一度使うことがあるとは。雨森は苦笑いして、キーホルダーをポーチに戻した。

 デスクライトを点灯させ、部屋の明かりはつけたままの状態にしておく。アリバイは、一晩中原稿を書いていたことになるのだから、外から見て、この部屋の明かりが消えていたらおかしなことになってしまう。壁の時計を見ると、時刻は三時を過ぎていた。荷物の入ったショルダータイプの鞄を手にすると、雨森は、人に見られないように用心しながら、自宅のマンションをあとに、私鉄の駅へと歩いて向かった。

 電車に乗ると、少しばかり人心地つくことができた。乗客はまばらで、誰も自分を注視する者はいない。私鉄を利用すれば、高宮駅から久留米まで四十分ほどの距離だ。こうして実際に行動しながらも、雨森は自分が夢の中にいるような気がしていた。殺人という大罪を犯すのだと思っても、いまひとつ現実感がわいてこない。夢を見ているんだと考えたほうが、かえってほんとらしく感じるのだった。これまでに計画殺人を実行してきた犯人たちもこうだったのかもしれないと、車窓の、流れる風景に目を向けたまま、雨森は他人事のような感慨をおぼえた。

 

 珠代を殺すにあたって、雨森が考えたのは事故死にみせかけるという方法であった。自分と珠代につながりがある以上、罪を問われないようにするためには、犯罪が行われたことそれ自体を隠すことが得策だと考えたからだった。もちろん、こちらの思惑通りにならず、殺人が発覚した場合に備えて、計画は慎重に練りこまれていた。

 珠代を泥酔させ、その後自宅の浴室で殺害するというのが雨森の具体的なプランだった。酔って風呂に入ろうとした際に転倒し、頭を打ちつけて死んだものと判断させるのが狙いだ。単純だが、いかにもありそうな事故である。それは、雨森自身が、浴室で足をすべらせた経験がもとになっていた。

 落ち合う場所を久留米にしたのは、人目を避けるためだった。その夜一緒にいたことを知られることはいくらなんでもまずい。同じ飲み歩くにしても、天神や中洲に比べれば、久留米のほうがリスクが少なく思えた。また、犯行現場と飲み歩いた場所の所轄署がべつだと、警察が介入した場合捜査が難航するのではないかということも考慮していた。


 久留米駅に着いた時、時刻は四時十五分になっていた。珠代との約束は六時で、それまでの時間を雨森は駅ビルをぶらついてすごした。福岡に比べると、ややひなびた感じがする。客が八分ほど入った喫茶店を選んで、雨森は軽い食事をすませておくことにした。ミックスサンドと珈琲を注文したあと、落ち度がないように、今日までの経過を反芻してみる。


 映画祭が終わると、すぐに珠代からスペラ座に電話があった。その時は、まだ片づけがあるからと雨森は電話を切った。そして二度目の電話の際に、今日のことを約束したのだった。出会う場所に久留米駅を指定したことも、仕事の関係で、その夜は原稿執筆で一晩中自宅にこもっていたことにしなくてはいけないので、知った人に姿を見られるのがまずいんだということにしてある。また、そのため自分と会うことを誰にも口外してくれるなとも、よかったら目立たない服装できてくれないかとも伝えた。それに対して珠代は、なんの疑いもなく二つ返事で了解している。あとは珠代が約束を守ってくれる限り、二人が今夜会うことは誰にも知られることはないはずであった。抜かりはない。その確信を珈琲で流し込んで、雨森は喫茶店を出た。

 

 珠代と会ったのは、六時十分前だった。九月の上旬に会ってからだから、ほぼ二か月ぶりだ。姿を目にした途端、さすがに緊張が走った。いよいよだ。そう思うと、無意識に首から肩にかけて力が入る。改札口を抜けた珠代は、眼鏡をかけた雨森に気づかず、雨森のほうから声をかけねばならなかった。

「ぜんぜんわからなかったわ。どうしたの、変装?」

 目を丸くする珠代に、雨森は、人に僕だと気づかれないようにさと説明した。

「ほんとテレビに出たりすると大変なのね。わたしのほうも、信也と会うことは誰にも話していないから安心して。で、どこに連れて行ってくれるの」

 珠代がさっそく雨森の腕に腕をからませ、ネオンが灯る街中へと二人は歩き出した。

 雨森の註文通り、珠代の服装は、黒のセーターにベージュのパンツというおとなしいものだった。店をバイトの女の子に任せてきたことや、久留米には数度しか来たことがないことを珠代は歩きながら話した。

 ひといきれであふれそうなチェーン展開の居酒屋に入った。こういう店なら、誰も自分たちのことを記憶しそうにない。隅の席に落ち着き、酒と料理を注文する。珠代は女学生のようにはしゃいでいた。くだらぬことに嬌声を上げ、そうそうあのときはこうだったわねと、思い出話ばかりを口にした。雨森は話をほとんど聞いてなく、たまに笑ったり相槌を打ったりして、珠代の様子を観察していた。雨森がすすめるままに珠代は、コップを盃をグラスを重ねていった。しだいに頬が染まり、目がとろんとしてきている。もともと、珠代はそれほどアルコールに強い質ではない。酔った珠代をおぶって歩いたことも何度かあった。今夜はしこたま酔ってもらわなければならなかった。睡眠導入剤などを使えば楽なのだが、珠代の遺体が司法解剖にでもなった場合、薬物が検出されるのは避けたかった。

「わたしを酔わせるつもり」

 珠代が熱をおびた目を向けた。

「そう。それからお楽しみというわけさ」

 雨森が言い、珠代は含み笑いすると、「それじゃあ、わたしもご期待に添わないといけないわね」と、嬉しそうにグラスを口に運んだ。

 アルコールが浸透していく珠代を、雨森は眼鏡越しにじっと見つめた。いま目の前で、呼吸し身体を火照らしている女が、数時間後には自分の手で冷たい骸になるのかと思うと奇異な感じがした。自分が映画の主人公で、もうひとりの自分がその映画を見ているような錯誤がある。ほんとうに珠代を殺せるのか。殺人という大罪を犯せるのか。それが雨森にとって、最大の危惧であった。

 二軒三軒とハシゴすることによって、珠代はかなりの酩酊状態になっていた。立っているのがやっとという具合で、肩を抱いて支えてやると、すぐにしなだれかかってくる。最後の店では、ウォッカで割った甘口のカクテルを飲ませた。

 表に出、寒いだろうと、鞄に用意してきた茶のカーディガンを珠代に着せ、自分は紺のジャンパーを着込んだ。タクシーに乗車する前に、それまでとの印象を変えるためだった。時刻は十一時八分。雨森は、タクシーを拾うべく右腕を上げた。

 凶行現場に行くのに、雨森は三台のタクシーを駆使した。一台目はわざと逆方向に向かわせ、二台目は福岡と久留米の中間の二日市で下車し、三台目は大橋を通りすぎて清水町まで走らせた。清水町から大橋まで徒歩で二十分足らず、その間を雨森は珠代をおぶって移動するつもりだった。幸い、車中での珠代は眠りっぱなしだった。最後のカクテルがよかったみたいだ。時折ふっと目を見開き、すぐ横に雨森がいることを認めると、安心したように、またそのまま寝息をたてる。その繰り返しだった。

 無事にタクシーを降り、鞄を首から提げた格好で、雨森は珠代を背負った。人に見られたとしても、酔漢を送りとどけているのだと思われるぐらいがせいぜいだ。

 歩きながら、道が濡れているのに気がついた。どうやら、福岡のほうでは雨が降ったようだった。もし雨が本降りになっていたら、計画は中止するつもりだった。いくらなんでも雨が降りしきっている中を、珠代をおぶって歩いていたのでは不審がられると考えていた。いまその雨がやんでいることに、雨森はほっとした。気のせいか、雨粒に洗われた夜の外気さえ、珠代をおぶった雨森には心地よく感じられた。

 しかし、珠代が借り受けていた平屋の前まで来たとき、雨森は愕然とすることになった。

 平屋の前の道が工事で掘り起こされ、しかも雨でぬかるんだ状態になっていたのだ。迂回することなど、到底不可能だった。予想外の状況に雨森は立ち止った。足跡が残ることは必定である。履いている靴はスニーカーで、この日のために量販店で購入したものだ。そこからアシがつくことはまずない。ただ問題は、該当者不在の足跡が、平屋を出入りした痕跡を残すことになるということだった。事故死にみせるつもりの雨森には、はなはだ具合の悪いことだった。ためらったのち、雨森は覚悟を決めて足を進めた。ことが終わったあとに、靴跡がわからないほどに踏みしだくしかなかった。

 深夜の帳につつまれ、平屋は森閑としていた。前記したように、目隠しの板塀と、左手と奥のブロック塀、それに駐車場で囲まれているので、出入りが見られる危険性は少なかった。壁で仕切った隣の住人は耳の悪い老婆なので、音の心配も必要ない。それでも雨森は、あたりを見まわして、誰もいないことを確かめた。向かいの神社も、黒々とした闇に覆い尽くされている。雨森は、もう一度あたりを見まわして、平屋の一番奥の借家へと入っていった。

 目隠しの板塀の裏まで来て、ひとつ息をついた。ここまで来れば、もう見られる心配はなかった。背の上では、珠代がかすかに鼾をかいている。首から提げた鞄がわずらわしく、腰と脚には疲れを感じた。もう少しだと自分に言い聞かせ、珠代をおぶったまま、雨森はウエストポーチから薄手のビニール手袋を取り出した。

 その時だった。手袋と一緒にキーホルダーが抜け出て、雨森の足元の、玄関前のコンクリートの敷石の上に落ちた。金属と敷石がぶつかる甲高い音が、夜の静寂しじまを破るように鳴り響いた。

 ――総毛だった。ぴくりともせず、息を殺して様子をうかがう。

 ――自分の鼓動が高まっているだけで、あたりにはなんの変化もない。

 息を吐き出し、手袋を両手にはめると、雨森は人を背負った不自由な体勢で屈み込み、キーホルダーを拾い上げた。首からの鞄が邪魔でしょうがない。焦るな焦るなと、心で唱える。暗くて、鍵穴の位置がどうにかわかる程度だ。手探りで、鍵を一本ずつ鍵穴に差し込む。些細な時間が、永遠の長さに感じられる。ようやく三本目の鍵で錠が開き、元からある指紋が消えないように用心してノブをまわす。

 中へ入ると、雨森は珠代をゆっくりと床の上におろした。つぎに、鞄とウエストポーチをはずす。それから、ぐっと背を伸ばし、首を振って肩をまわした。額に手を当てると、思いの外に汗をかいているのがわかった。腕時計を見ると、時刻は午前一時半を過ぎている。三台目のタクシーをつかまえる際に手間取ったこともあって、予定をいくぶん越えていた。暗がりに目が慣れると、まず珠代の靴を脱がし、それからぐったりした身体を浴室の前まで運んだ。

 借家の間取りは七年前と変わりなかった。入ってすぐが台所で、左手前に簡素な流しがある。浴室とトイレがやはり左側にあり、正面のガラス戸の向こうが八畳の畳部屋になっていた。浴室の電灯をつけた。用心のため他の明かりはつけない。ざっとあたりに目を走らせると、家具や、その配置はさすがに変わっているのがわかった。趣味も雨森の知っているのとは変化している。そういったことに、さすがに七年間の時の経過が刻まれているかのようだった。ガラス戸を開けようかと思ったが、思い止った。必要のないことはしないにかぎる。

 さっそく雨森は、浴槽に栓をし水を流した。浴槽の縁に両手をついた姿勢で、これからの手順を脳裏に描く。水を張り終わると、手動式のレバーでガスを点火させようとした。しかし、元栓が閉じているらしく、点火の元になるタネ火がつかない。一度雨森は表に出ると、ガスの元栓を開いた。ようやくバーナーが点火し、風呂を沸かす体制に入った。

 台所に戻ると、背後から珠代の身体を持ち上げ、衣服を脱がせる。ゴム人形のような意識のない人間を扱うのは、思った通り手数のかかる作業だった。最後に下着を取り去って珠代を全裸にすると、脱がせた衣服を脱衣籠に放り込み、雨森は自分も裸になった。

 床の上で無防備にさらけ出された珠代の肢体を、雨森は見下ろした。六つも上には見えない、なまめかしい裸体だった。乳首など、指の腹で挟んでみたいほど愛らしい。七年前の、珠代の乳房や肌の感触が、雨森の皮膚に甦ってきた。忘れたはずの甘美な欲望が、体内の奥で鎌首をもたげ始めてくる。場所のせいもあるのだろうが、さきほどから雨森は、時間が過去へと流れていく感じにとらわれていた。股間がうずき、このまま珠代の裸身に覆いかぶさりたい欲望を振り切るように、雨森は浴室に入った。

 湯の温度をみて、ガスのレバーを戻す。ほんとうに入浴するわけではないので、それほど沸いている必要はない。浴槽の脇にある水道のコックに手をあてがった。十分な硬度と冷たさが、手袋越しに伝わってくる。しかし、ほんとうに自分は珠代を殺すことができるのだろうか。この期に及んでも、雨森にはそのことが不安だった。

 戸が開けっ放しの浴室から、台所の珠代を振り返った雨森は、思いがけぬ光景にぎょっとした。

 いままで横になっていたはずの珠代が、床の上にヘタッと座り込んでいた。

「あれ……どうしてわたしがここにいるの?」

 首がうしろに垂れたほうけた顔で、珠代は自分がいまいる場所を見まわし、雨森の姿に気づくと、すべてを了解したような喜びを目にやどらせた。そして雨森がそばによると、両腕を伸ばしてみずから抱きついてきた。

「信也、戻れたのね。わたし戻れたのね」

 酒臭い息が、雨森のうなじにかかる。

「ああ、また一緒になるんだよ」

「すぐ?」

「そう、すぐにさ」

 雨森は珠代を両腕で抱きかかえて、浴室へと入った。化粧を落とし、タイルの上に横たわらせて上体を起こすと、位置を調整する。珠代がくすぐったそうな笑い声を立てた。そして雨森の両手の手袋を目にすると不審そうな顔をし、問いかけるように顔を上げた。

「こういうのも、好きだったじゃないか」

 そう言うと、また甘ったるしい声を珠代は上げた。

 雨森は異様な感覚にとらわれていた。いまのこの時間と空間が、真実過去に戻ったようだった。背徳と愛欲の日々がつぎつぎと甦り、珠代に対する愛慕が胸に込み上げてくる。ほんとうに殺せるのか。珠代を殺せるのか。まだ雨森には、その確信が持てないでいた。

 手袋をはめた両手で珠代の頭を支えた。水道のコックが珠代の頭の真うしろにある。そこに打ちつけさえすれば、すべては完了する。雨森は一度目を閉じ、大きく深呼吸すると、しっかりと正面から珠代の顔を見つめた。

 そこにはむかしの珠代がいた。記憶にある、初めて出会ったころの珠代だった。美しい、ずっと雨森を魅了しつづけた珠代だった。

 珠代は酔いのまわったうっとりした目で雨森を見つめ返すと、満ち足りた微笑みを唇に浮かべた。そして信也と小さく名をつぶやいた。

 その瞬間、舞とはべつな形で自分が珠代を愛していることに雨森は気づいた。それは、紛れもない本心だった。しかしつぎの瞬間、雨森は珠代の頭部を手前に引くと、思い切りうしろへと叩きつけた。露ほどのためらいもなかった。

 骨の砕ける音がし、珠代は二三度短く呻くと、静かに瞼を閉じた。珠代の裸体を浴槽の湯の中に沈め、上からしばらく押さえつける。空気の泡沫がなくなったことを確認して、片づけにかかった。遺体自体は、このまま浴槽に浮かばせたままで構わない。浴槽の花嫁という言葉が、頭の隅をかすめた。自分でも驚くほど冷静だった。殺せるかどうか悩んでいたことが、まるで嘘のように思えた。心にまったく乱れはなく、後悔も罪の意識もなかった。するべきことをすませた。そんな気持ちがあるだけだった。

 服を着た雨森は、点検にかかった。浴室の電灯はつけたままにする。指紋は残していないなら、ドアノブやスイッチは元の指紋を消さないように用心した。自分が用意してきたものは鞄につめ、証拠になるものは残していない。あとは、靴跡だけだった。

 ハンカチを流しで濡らして、まず自分のスニーカーの底を拭った。それから靴脱ぎ場を拭き、表のコンクリートの敷石をこすった。と、屈んだ雨森のうなじに水滴が落ちた。雨だった。雨が降り出していた。なにもしなくても、この雨が表の足跡を消してくれる。ふってわいた幸運に、雨森は目を見張って夜空を見上げた。

 ドアノブの内側にあるポッチを押してドアを閉じた。そうすれば、鍵を使わずとも錠がかかるタイプのものだった。手袋をはずし、鞄の中に放り込んだ。あとは、ここから立ち去るだけだ。

 雨が強くなるなかを、雨森は音がせぬほどの駆け足で走り抜けた。一度道で立ち止り、平屋と、その前の工事跡を見る。ぬかるんだ地面が、雨に打たれている。人知を超えたものが味方をしてくれている感覚に、雨森は自分の犯罪が成功に終わる予感をおぼえた。自信と充足感を胸に、雨森は二度と振り返ることなく、雨の降りつく道を自宅へと急いだ。

 すべては計画通りだった。


この時点で、解決のためのデーターはすべて出揃いました。

といっても、メイントリックは論理だけで導きだすことは無理ですので、クイーンばりの読者への挑戦状を提出することはできません。

しかしながら、メイントリックを解明するための伏線は全編に渡ってはっていますので、直感型の推理はいくぶんなりとも楽しめるのではないかと思っています。

次の更新で、この小説は完結します。それまで、ごゆるりと推理をお楽しみいただければ、作者としてこのうえない喜びです。


解決パートは、6月16日の深夜0時の更新となります。


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