〜あいつの手から剱と楯が!〜
この度は、この様な拙作を閲覧していただいて、ありがとうございます。
これまで小説など書いた事はなく、初投稿です。自分は文才も無く、ただただ思い付きで書いてます。ですが、最後までお読みいただけたら幸いです。
―――全ての元素を手中にて
操れる。
何も無い場所から突然、鈍い輝きを放つ鋼鉄の剱。
かと思えば、今度は目の前でいきなり空気が爆発する。
――これは、そんな他の人とは
ちょっと違う女の子の、世界を
懸けた戦いの話。
いつもと変わらぬ月曜日が来た。はずだった。
しかし、何かが違っていた。
――辺りが、紅い。
合衆国カリフォルニア州に住む
佐久間瑠璃は、このただならぬ
事態に、ある考えを浮かべる。
「まさか、軍のあの研究で…?」
あの研究――とは、これから説明する、革命と危険の二律背反の上で成り立つ、世紀のギャンブル。
それは、
――金属元素を操れる、強化人間を造り出す。
勝てば革命、負ければ破滅。
それほどのリスクを負いながら
研究に勤しんだ軍は、賭けに負けた。
結果、蜂起。力を手に入れた兵士たちが、しない訳がない。
あれよあれよという間に反乱は
拡がり、いまや米全土の90%が
彼等の支配下に置かれた。
瑠璃の住む街は、数少ない支配を受けていない地域だ。
だが、時間の問題だろう。
そして、時間切れが。何の前触れも無く訪れた。
「――おらァッ!!逆らう奴ぁ、皆殺しだァ!!」
「くっ…早く学校に行かなきゃ!皆が危ないかも知れないっ!」
瑠璃は殺戮現場を縫って走る。
残念だが、今は他人に構って
いられない。
しかも、普段は力を抑えているので、すぐに戦うことが出来ない。
「――お願い皆、無事でいて…!」
瓦礫の山と化した大通りの端を
ダッシュする。
途中、何度もつまづきそうになったが、構わず走り続ける。
――10分後。
「――良かった、皆大丈夫!?」
「おう佐久間。皆あの中掻い潜って来たんだ。何だありゃ?」
「私の父から聞いた事がある…
何でも、金属元素を操れる、とか」
駆け込んだ学校の教室で、変わらぬ友人の顔を見て安心したのか、瑠璃はその場にへたり込む。
その時、隣の棟から、爆発音が。
『生徒の皆さんは、速やかに避難して下さい!繰り返します!生徒の皆さん…うわぁァッ!!』
「…もう来たのね。エリック。皆を外へ逃がして」
「へ…?お前も行くんじゃないのか?」
「私には、やることがあるから」
エリック、と呼ばれた男子生徒――このクラスの委員長――は戸惑いながら聞き返す。
「一体何やるってんだ!!」
「…皆を、守る――はぁッ!!」
「おっ、おい佐久間ぁ!!」
瑠璃が力を解放する。
彼女の周りの空気が、渦巻き始めた。そして、右手に剱。左手に楯。
「…佐久間…お前…」
「久々ね、能力全開は。皆の避難、お願いね」
瑠璃は地面、もとい宙を蹴って
飛び出した。
改めて説明しよう。
彼女の能力について。
――全ての元素を意のままに、
寸分違わず操れる。
彼女は今、その能力を使って、
Fe<鉄>とTi<チタン>を合わせて剱を、Zr<ジルコニウム>で楯を造り出した。
「――やめなさいッ!私が相手よッ!!」
「ん?何だ小娘ぇ!殺されてぇのか!?」
「…聞き分け無いのね」
そう呟くと、瑠璃は左手を前に
突き出す。
「喰らいなさい!水素爆発<バースト>ッ!」
瞬間、辺りの空が爆発した。
「ぐぁぁぁッ!熱ぃいッ!」
大の男が、顔面で水素爆発を
喰らい、3mほど吹っ飛んだ。
「まだまだ!黄燐赤燐連撃<P.P.ラッシュ>ッ!」
畳み掛ける瑠璃は、さらに左手を振りかざす。
しかし、別の兵士がそうはさせまいと、瑠璃の左手を封じにかかる。
「くっ…そうはさせるか!!」
「きゃ…このっ!離しなさい!」
瑠璃は、勢いで兵士の腹に剱を
突き立てた。
「ぎゃあぁぁぁぁぁッ!!」
その時にどうやら1発貰ったらしい。瑠璃は太股を押さえ、よろけた。
「うっ…このくらいで…ッ!
うあぁぁぁぁぁっ!!」
彼女の周りの空気が、さらに
棘を増していく。
その姿は、知らない者が見たら、
敵か味方か分からないオーラを
放っていた。
「――何だよ、あれ…あれ、佐久間なのか…?」
避難しろとの命令を聞かず、
その場に残っていたエリックが、消えそうな声で呟いた。
「はあああああっ!やあッ!」
エリックの目には、もはや瑠璃はクラスメイトとしては映って
いなかった。
と、その時。
「うっ…きゃああああっ!!」
瑠璃が、倒れた。
「おっ、おい佐久間ァ!」
たまらず、エリックは校舎の
陰から飛び出した。
「エ…リックぅ…どうして、逃げてっ、ないのよ…!」
「だって、お前が心配で…」
「ふっ…私を、誰だと思って…」
瑠璃は力を振り絞り、残り5人と
なった兵士たちを狩りにかかる。
「うぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!
遺匠の剱<テクニカル・ブレイド>っ!!」
無理をしているのが、傍目から
でも分かる。
さっき喰らった太股からは血が
滴り落ちている。
さらに瑠璃は鋼鉄の剱を造り出し、跳ぶ。
「やあああああッ!!」
――ぱちり。
「あぁ、良かった!気づいたか」
「…ん、ここは…?」
瑠璃は、反乱が一段落して
静まりかえった街の、病院にいた。
「…エリック、ありがと。連れて来てくれて」
「いいんだ、そんなの。他の皆も来てくれてるぞ」
「――佐久間、大丈夫か!?」
「ルリ、平気?」
「すげぇなお前!」
暖かい仲間の眼差し。
瑠璃にとっては嬉しいことだった。
また偏見を持たれはしないかと、内心怯えていた。
「そうだ、病院の先生は?」
「ああ、今呼んでくる」
そう告げると、エリックは病室を後にする。
「…皆には、さっきの戦い見てもらったら分かる。私、変なの…」
柄にもなく、押し殺した声で
瑠璃が呟く。
「変なんかじゃねぇよ。お前がいなかったら、今頃俺たち此処にゃいねぇぜ」
「私のあんな姿見て、それでも?」
「あぁ、変じゃねぇ」
瑠璃の目に涙が溜まる。
と、そこへ。
「佐久間、先生連れて来たぞ」
ベテランといった顔つきの医師が現れた。
「初めまして、かな。私は院長のハドキンソンだ。君に伝えておく事がある」
「? 何でしょうか?」
傷付いた体躯を重そうに起こしながら、訝しげに瑠璃が問い掛ける。
「君の持つその能力のことだ。治療の時採取したDNAが、教えてくれたよ」
「だから、何です?」
「――第三者に、能力を分ける事ができるみたいだ」
皆、何を言っているのか分からない、という顔をしている。
「…つまり、関係無い第三者に、巻き込まれろと?」
ただ一人、言葉少ななハドキンソン医師の思考を読み取った瑠璃が、静かに問い掛ける。
そんな中、
「――俺は、構わない」
エリックが、二人の会話内容を
悟ったのか、突然の決意表明。
「えっ、ちょっとどういう事?」
隣にいた女子生徒が、まごつきながら訊ねる。
「嫌なら無理は言わない。でもこの先、君は一人で戦わなければいけなくなる」
「私は、私は…皆を傷付けたくない…」
医師の脅しにも頑なな姿勢を崩さない瑠璃。
しかし、頭の片隅には、仲間が居ればどれだけ心強いか、と考える自分の姿もあった。
「――瑠璃!俺たちはお前の足手まといにはならねぇ!一緒に戦わせてくれ!!」
急にエリックが叫んだ。
「俺は、大切な友達が傷付くのなんか見たくねぇ。重荷を一人で背負うことなんて無いんだ」
肩を掴み、力強く訴える。
「――そうだよ、ルリばかりが怪我して、私たちは見てるだけなんて…」
「――なっ、カッコいい力分けてくれよ?」
全員同意の上での答え。気付けば、もう瑠璃は頷いた後だった。
「――いいかい?始めるよ」
瑠璃は診察台に横たわった。
腕を鋭い注射針が突き破る。
「…よし、これで皆に能力を分ける事が出来る」
採った血液を試験管に流し込み、ハドキンソン医師が呟いた。
「先生、早く能力を。外にはまだたくさん兵士がいますので」
エリックがハドキンソン医師を急かす。そんなに慌てなくても…と瑠璃は思った。
この地区に残る兵力は、おそらく一個中隊ほど。皆でかかれば、敵わなくはない数だろう。
「よし、一人ずつこっちへ。能力の受け渡しするよ」
その声を聞き、真っ先にエリックが向かう。
――それから小一時間、能力受け渡し作業が続いた。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。第1話、終了です。いかがでしたか?できれば皆さんから、どうだったか評価を頂きたいです。
次回は、瑠璃の力を貰った仲間たちが、瑠璃と共に反乱軍に立ち向かいます。