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9. キャラメイクの代償?

 キャラメイク時には、スキルや個人特性を自由に取得することができた。もし、入力が完了していないのだとしたら、今からでも取得できるのではないか。


 よく見れば、画面上部のタブは五つのまま。“設定完了”のタブが残っている。おそらく、内部的には設定処理が終わっていないのだ。


 能力値と戦闘職業については、キャラメイク時と表示が変わっている。現状の確認はできても変更できるようなインターフェースはない。この二項目に関しては変更することはできないだろう。


 とはいえ、この二つは変更する必要性を感じていなかった。転送された直後は動揺したものの、状況が確認できた今ではむしろ悪くないと評価しているくらいだ。借金が増え、仲間を作りづらいというデメリットはあるものの、高い能力値と便利なスキルは魅力的である。今更手放すとなると惜しい。


「本命はスキルと特性だが……おっ!」


 先ほど確認したときには気がつかなかったが、スキル画面の右下に“+”マークのボタンが表示されている。その部分をタッチすると、スキル取得画面に移行することがわかった。これは、個人特性についても同様だ。


 試しに適当なスキルを取得してみると、スキル欄にもしっかりと追加されている。もちろん、同時に借金も増えるが、そんなことは今更気にするようなことでもない。すでに4760万エルネまで膨れあがっているのだから、多少増えたところで誤差のようなものだ。


 というわけで、適当にスキルや特性を追加してみた。まずはスキル。



【格闘 Lv1】 10万エルネ

【剣術 Lv1】 10万エルネ

【火魔術 Lv1】 20万エルネ

【水魔術 Lv1】 20万エルネ

【闇魔術 Lv1】 20万エルネ

【解錠 Lv1】 10万エルネ

【罠解除 Lv1】 10万エルネ



 スキルはキャラメイク時、レベルを5まで伸ばせるようだ。だが、レベルを上げるためのコストも上がっていく。使っていればスキルレベルは上がるらしいので、ここは節約して全てレベル1に留めた。


 次に個人特性だ。



【痛覚耐性++】 100万エルネ

痛みに対する耐性。負傷による行動阻害や集中力低下等のペナルティを軽減する。


【頑強+】 200万エルネ

丈夫な体。肉体的なダメージを軽減する。


【状態異常耐性++】 100万エルネ

状態異常に対する耐性。状態異常によって引き起こされるマイナス効果を軽減する。


【魔術威力UP+】 100万エルネ

魔術の威力を強化する。一部、魔力依存のスキルも強化される。


【精密動作+】 100万エルネ

精密な動作が可能になる。器用さが要求される行動の成功確率が上がる。



 特性は+がつくほど強化されるようだ。強化上限は特性によって異なる。痛覚耐性は二段階強化――すなわち痛覚耐性++まで取得できるが、頑強は頑強+が最大らしい。特性はスキルと違い、訓練で強化することはできないらしいので、全て上限まで強化しておいた。


 スキルと特性の取得で増えた借金は700万エルネ。これで合計5460万エルネとなった。


 目についた良さそうなスキルを取得しただけで、これだ。元の借金額から一割以上増えているが……まだ誤差の範囲と言えるはずだ。どうにか。かろうじて。


 さすがにこれ以上増やすのは厳しいだろうか。どれくらいの収入が得られるのか、見通しすら立っていないのだから。一方で、借金など気にせずに、もっと取得しておきたい気持ちもある。スキルはともかく、個人特性を取得できる機会はなかなかないだろうからな。


 更なる特性取得をするか否か。なかなか決められずにいると、突如として目の前の空間が揺らぎはじめた。何ごとかと身構える暇もなく、次の変化が起きる。誰もいなかったはずのその場所に、見覚えのある男が現れたのだ。


 そう、役立たずのアイツ――――御使い男だ。


「ちょっと、ちょっと! 君、何やってるの! キャラメイクの時間は終わったんだから、今更設定をいじられても困るよ」


 何らかの方法で俺がキャラメイクの続きをしていることを突き止めたのだろう。俺の行動を咎めるために現れたらしい。


 だが、それを素直に聞いてやるつもりはなかった。こちらとしては、コイツの不手際のせいで、キャラメイクをやらせてもらえなかったのだから。


「うるさい。お前のせいでキャラメイクの時間が取れなかったせいだろ。それに、いじられたくなかったら、きちんと処理を完了させておけ」

「それはそうかもしれないけど……」


 言い返すと、御使い男は少しだけ怯んだ様子を見せた。だが、それも一瞬だ。


「だからと言って、制限時間外のキャラメイクは許可できないよ! この世界の主人であるクレアドルサ様は決まり事にはうるさいんだ。時間外にキャラメイクを続けていることが知られたら、どんな罰を下されるかわからないよ?」


 どうやら、神の威を借りて説教をするつもりのようだ。反論したいところだが、神の存在をちらつかされると強くは出られない。俺としては御使い男の不手際に原因があると思っているが、神がそんな細かい事情を考慮してくれる保証はないのだから。


 だが――……


「それなら、もう手遅れかもしれないぞ?」

「え? どういうこと?」

「お前、修正は終わったとか言っていたが、全然終わっていなかったぞ。俺の戦闘職業は名前だけが盗賊になってるが、中身は別物だ。制限も機能してなくて、初期の借金が4760万エルネだった」

「うそぉ!?」


 嘘ではない証明にシステムカードを見せてやる。本来なら他人のカードに触れることはできないはずだが、御使い男はひったくるように俺の手から奪いとった。そして、かじりつくように画面を確認する。


「げっ……! これ、中身、大怪盗じゃん。能力資質もオール9だし……なんでこんなことになってるの~!」


 いや、お前のせいだろ……と言いたいところだが、必ずしもそうとは言えないか。キャラメイクの強制終了を迎える原因を作ったのはコイツだが、その処理がおかしな挙動をするのはコイツのせいとは限らない。まあ、どちらにしろ、俺が関与できなかったという意味では理不尽に違いないのだが。


「ダメだ。もう変更できないみたい。終わった……」


 御使い男は、ひとしきり喚いた後、がっくりと肩を落とした。取り返しのつかない事態になっていることを悟ったようだ。


「で、どうするんだ? 今更どうにもならないなら、スキル取得くらい許してくれてもいいんじゃないか?」


 本来ならばバグ利用は忌むべきものだと思うが、今回に関しては御使い男の不手際によってキャラメイクができていないという事情がある。これくらいの主張は許されるのではないか。


 俺の言葉に、御使い男は深い息を吐いた。


「……わかったよ。でも、認めるのは今取得した奴だけね。これ以上は取得できないように、設定は完了させるから。とにかく、バレないようにしないと……! 大丈夫、バレなきゃ問題ない。問題ないんだ」


 譫言(うわごと)のように“問題ない”と呟きながら、御使い男が端末を操作する。おそらく、キャラメイクを完了させているんだろう。数度操作したところで、御使い男は俺にカードを寄越した。


「とにかく、こうなった以上、僕らは一蓮托生だ。能力を使うのは仕方がないにしても、あまり目立ちすぎないようにね? 他の御使いにバレたりしたら、僕だけじゃなくて、君もどうなるかわからないからね?」


 御使い男は何度も念を押しながら帰って行った。理不尽なことを……とは思うが、バレた時点でアイツの手に負える事態ではなくなるだろうことは想像できた。巻き込まれたこちらとしては堪らないが、そもそもクレアドルサ様とやらのおかげでファンタジー世界での二度目の人生が送れるのだ。多少の理不尽など、許容すべきなのかもしれない。


 なんにせよ、スキルと個人特性は取得できたのだ。キャラメイクできなかったという遺恨も忘れようじゃないか。


 そう思って、何気なくステータスを確認すると……



名  前:ミツカイ・セプテト

戦闘職業:盗賊

レベル:3



 名前がおかしなことになっている。

 アイツめ……やはり許さん!


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