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33. ペルフェの子分

 それからが大変だった。樹精が正気に戻ったせいか、及び腰だったゴウルたちが一斉に襲いかかってきたのだ。しかも、その対象には俺だけではなく、樹精も含まれている。さすがに、敵意もなく、泣いてばかりいる樹精を放置することもできず、彼女を守るような立ち回りをせざるを得なかった。


『ねえ、スキルは? ねえ?』

「いや、さすがにそんな余裕はない!」


 ペルフェがスキルをねだってくるが、さすがに期待には応えられない。自分だけならゴウルたちの攻撃を避けつつスキルドレインを使う隙を見計らうこともできるだろうが、樹精を守りながらでは無理だ。とにかく、寄ってくるゴウルを魔法と剣で倒していくのが精一杯だった。


 それでも、奮戦の甲斐あって、順調にゴウルの数を減らすことはできているのだが――……


「なんか増えてないか?」

『……知らないよ、もう!』


 泣きじゃくる樹精を心配してか、精霊たちが集まりだした。ドライアド数人、おまけにシルフィまでいる。こちらに敵意を抱いているわけではないようだが、ゴウルたちと戦うでもなく、こちらをチラチラと窺っているのだ。どういった意図があるのだか。


 ただ、仲間が集まってきたおかげで、例の樹精も落ち着いてきたらしい。ゴウルを片付けたころには、泣き声は聞こえなくなっていた。


「さて、どうしたものか」

『むぅ……』


 あいかわらずと、こちらの様子を窺う精霊たち。しかも、どういうわけか、ペルフェの機嫌が低下している。わけがわからない。


「ペルフェ、いったい、どうしたんだ?」

『僕が一番の相棒だよね? 僕を最強にしてくれるんだよね?』


 何故、急にそんなことを?

 あと、最強にしてやるとは言っていないはずだが……。


 とはいえ、ペルフェの強化は俺自身の戦闘力を上げることに繋がる。最強かどうかはともかく、これからも強化は続けていくことになるだろう。


「ああ、そうだな。お前は相棒だし、これからもスキルは増やして貰う予定だぞ」

『だ、だよね~! 僕が一番だもんね! もちろん、わかってたけどね!』


 同意してやると、途端に機嫌が直った。“子分には色々と教えてやらないと”などと妙なやる気を出しているが……子分とはどういうことだろう。


 不意に外套を引っ張られる。振りかえると、一人のドライアドが控えめに裾を引いていた。ドライアドたちは皆似たような姿なので見分けるのが難しいが、彼女は例の不気味な何かに寄生されていた個体だろう。瘤が取りついていた箇所に痛々しい傷跡が残っている。


「な、何かな?」

「……ぃ……あ」


 問いかけると、裾を引くドライアドが口を開く。必死で何かを訴えているようだが、残念ながら意味を理解することはできなかった。精霊語はエルネマインの共通語とは別らしい。


 意味がわからず首を捻っていると、ドライアドの瞳にじわりと涙が浮かんだ。そんな彼女を励ますかのように、残りの精霊たちが彼女を取り囲んで声をかけている。


『手を取ってあげればいいんだよ』

「ペルフェ?」

『いいから。僕の言う通りにしなよ』

「あ、ああ……」


 この状況を打開できるなら、とペルフェの指示に従う。右手にはペルフェを持っているので、左手を差し出すと、ドライアドはおずおずと手を重ねてきた。


「な、なんだ!?」


 驚きに、思わず声が出る。手を重ねた瞬間、ドライアドの体が眩しい光を放ったのだ。反射的に目を閉じてしまい……目を開けたときにはそこにいたはずのドライアドが消えていた。


 だが、驚いているのは俺だけらしい。精霊たちに動揺はない。どころか、嬉しそうに顔を綻ばせている。


『まあ、落ち着きなって。腕を見てみなよ』

「あ、ああ」


 ドライアドたちと同じく平然とした様子のペルフェが声をかけてくる。その言葉に従って視線を差し出したままの左手に向けると、そこには見覚えのないものが存在していた。それは、数本の枝のようなものが絡み合いできた輪だ。そんなものがいつの間にか、俺の手首に装着されている。


「……これは?」

『さっきの子分の家だよ』

「子分……もしかして、さっきのドライアドか?」

『そりゃそうだよ。契約したんだから』

「契約!?」


 なんでそんなことになったのか。そもそもスキルもなしに契約はできるものなのか。その辺りのことはペルフェが説明してくれた。


 まず、スキルについて。レイナのような精霊術士は【精霊術】というスキルで精霊の力を行使する。精霊との契約も【精霊術】の範疇。だが、特別なアーツがあるわけではなく、レベルの上昇によって契約成功率や魔法行使の際の威力が上がるというスキルらしい。つまり、契約自体はスキルがなくてもできる。


 とはいえ、スキルなしで精霊と契約するのは困難を極めるそうだ。よほど友好関係を築いていなければ不可能だという。


「じゃあ、なんで俺が?」

『そりゃあ、命の恩人だからでしょ』


 激しく泣かれたので嫌われているのかと思えば、そういうわけではないらしい。あのとき泣いていたのは、寄生された恐怖や解放された安堵が原因だったようだ。


 あの不気味な瘤に寄生され狂える精霊となったドライアドは、本来ならば命を散らすそのときまで、正気に戻ることはないらしい。それなのに、俺と契約した彼女は正気を取り戻した。ドライアドたちの認識では俺が何らかのスキルで正気に戻した……ということになっているようだ。


 果たして、本当に俺がやったことなのかはわからないが……。すでに契約を果たしてしまったので、もはやどうしようもない。


「で、彼女は?」

『呼べば出てくるんじゃない?』

「そうか」


 呼ぶにしても、名前がわからない。その問題はシステムカードで腕輪を簡易鑑定することで解決した。



【ドライアドの宿環(やどわ)】<ドライアド:ルゥルリィ>

◆分類◆

防具・腕装備(軽装)

契約核ドライアド

◆防御性能◆

物理防御:E 魔法防御:E

◆特殊効果◆

契約精霊が帰還している間、生命とマナの自然回復速度が微増



 ペルフェと似たような表記になっている。この“ルゥルリィ”というのが名前だろう。


「ルゥルリィ、出てきてくれ」


 腕輪に呼びかけると、そこから不思議な光球がスルリと飛び出してきた。それはゆっくりと形を変え、ついには人の形を取る。現れたのは紛れもなくドライアドだった。


「……♪」


 ドライアドの少女は、名前を呼ばれて嬉しそうにしている。


 そう、少女だ。一般的なドライアドは成人女性と同じほどの大きさで、契約前のルゥルリィもそこから大きく外れてはいなかった。だというのに、今は明らかに縮んでいる。


 何故と尋ねるまでもなく、その理由はペルフェの呟きによって判明した。


『んー、だいぶ力を落としたみたいだね』


 不気味な瘤に寄生され、俺と戦う中で、精霊としての力を失ってしまったようだ。そのせいで、少女の姿となっているらしい。その代わり、瘤に侵食された傷跡は綺麗に消えている。浮かべる笑顔は自然なもので、調子は悪くなさそうだ。


『いいかい、僕が先輩だからね! 君は僕の子分なんだから、ちゃんと言うことを聞くんだよ!』


 ペルフェが先輩風を吹かせて、子分の心得を語っているようだ。一番の相棒がどうとか確認をとっていたのは、精霊との契約で自分の地位が脅かされるとでも思ったのかもしれない。今も、先輩として振る舞うことでルゥルリィを牽制しているらしい。


 一方で、ルゥルリィはニコニコと笑みを浮かべて、頷いている。ペルフェの言葉を理解しているのか、していないのか。まあ、その辺りの順位付けは自分たちでやってくれれば構わない。そのうち落ち着くだろう、たぶん。

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