32. 泣かした!
狂える精霊の攻撃を躱しつつ、遠巻きに囲むゴウルたちへと駆け寄る。うるさく騒ぐ緑鬼の中から、生意気にも杖を所持している奴を選んで背後に回った。ゴウルの体格は人間とほぼ同じ。魔術師はやや小柄なため、その首に左手を回し、動きを封じるのも容易い。
「ガァ、ガァア!」
拘束から逃れようとするゴウルを抑えつけ、スキルドレインを発動。狂える精霊とは比べるべくもないほど、あっさりとスキル結晶体が手に入った。
システムカードで確認している余裕はない。一瞬、【サボテン擬態】のことが頭によぎるが……ゴウルは人型魔物だ。目的のスキルではなくても、そこまでおかしなことにはなるまい。おそらく。
「ペルフェ」
『いただきまーす!』
手にした結晶体を長剣に近づけると、ご機嫌な声とともにすぐにパキリと砕けた。
「どうだ?」
『んー、外れ! 杖術!』
残念ながら、目的の【火魔術】ではなかったらしい。しかも、杖術……ペルフェが持っていても役に立ちそうにないスキルである。
「っと!」
当たり前だが、ドレイン中にも、狂える精霊の攻撃は止まらない。奴が蔦攻撃を仕掛けてくるのを見て、すぐにその場を離れる。置き去りにされたゴウルが、その餌食となった。
「それは俺たちの獲物だぞ」
『そうだそうだ!』
さて、蔦に囚われたゴウルはそのまま見捨てもいいのだが……それは少し面白くない。先程のスキルドレインでスキルが減っている個体だ。その分、【火魔術】の排出率がアップしている。できれば、こちらで確保しておきたい。
ならば、対処は簡単。ゴウルが事切れる前に蔦を断ち切れば良いのだ。蔦を切る時に、多少はゴウルを傷つけることになるが、死にさえしなければ問題がない。
さて、どうにか確保できたゴウルだが、すでに半死半生といった有様だ。憐みを誘うが、所詮は魔物。さきほどまで敵愾心むき出しで襲い掛かってきたものに同情する必要性はない。さっさとマナを吸い出してスキルを奪うまでだ。
ゴウル魔術師はマナ補給源としては非常に優秀であった。最初のマナドレインで俺のマナ総量の半分ほど、二度目でさらに三割ほど回復することができる。俺のマナ総量は300弱なので、ゴウル魔術師一体で200以上……つまり、スキルドレインを一度使えるほどのマナが補給できるのだ。実に素晴らしい。
「グゲ……ゲ!」
「げっ!?」
そうこうしているうちに、狂える精霊が次の攻撃を仕掛けてきた。今度は無数の葉を刃のようにして飛ばしてくる攻撃だ。威力はさほどでもないが、広範囲に飛ばしてくるので完全に避けるのは難しい。俺は耐えられるが、果たしてボロキレのようなゴウルに耐えられるかどうか。
「最後にもう一度!」
ゴウルを生かすのは難しいと判断した俺は、その体を盾にしつつ、再度スキルドレインを発動する。度重なる攻撃に耐えかねたゴウルの肉体が光の粒へと姿を変えるが、その直前にスキル結晶体を手にすることができた。それをただちにペルフェに使わせる。
『大当たり~! あはは~!』
今度こそ、当たりを引いたらしい。よほど嬉しいのか、ペルフェが笑いながら火球を放つ。大した威力はないはずだが、狂える精霊は明らかにその攻撃に怯んだ。これなら、うまくいきそうだ。
「さあ、俺ごとやれ!」
などと、大袈裟なことを言ってみる……が、別に大層なことではない。さっきのゴウルと同じく、狂える精霊に背後から組み付いた状態で、ペルフェに火魔術を使わせるというだけの話だ。
『えい! えい!』
「ゲゲ……グゲゲ……!」
ペルフェが精霊に向けて火球を放つと、組み付いている俺にも熱と爆風が届く。が、大したダメージにはならない。やはり、ペルフェの魔法は威力が小さすぎる。
だが、そんな攻撃でも十分に有効らしい。樹精は子供のようにいやいやと首を振った。動きは激しいが、その間は攻撃が止むので、かなりの時間が稼げる。おかげで、どうにかスキル結晶体を確保することができるのだ。
この方法で、すでに二個の結晶体を手に入れた。ちなみに、それらのスキル結晶体はインベントリ行きだ。レアスキルをいきなりペルフェに使わせるほど甘やかしてはいない。
一つ目の結晶体は何のスキルだったのか、はっきりとしない。少なくとも、敵の行動に変化は見られなかった。だが、心なしかドレイン系のスキルの通りがよくなった気がする。強化系のスキルである可能性が高い。
二つ目の結晶体は、おそらく例の蔦攻撃に関連したスキルだろう。ドレイン後に、蔦攻撃を使ってこなくなった。
そして、今回が三度目だ。少々、面倒なことに、これまで蔦攻撃に巻き込まれるのを恐れて取り囲むだけであったゴウルたちが、乱入するようになっている。こうなるのなら、蔦攻撃は最後まで残しておきたかったが、奪うスキルはランダムなので仕方がない。
「よし、盗れた!」
『やった!』
三つ目の結晶体も無事に確保できた。それを確認して、一旦精霊から距離を取ろうとしたそのとき、予想外の変化が起きた。樹精に寄生していた瘤が――ぽろりと剥がれたのだ。
「……なんだ?」
『うぇ?』
剥がれた瘤が不気味に蠢く。何か不穏な気配を感じる。まさか、別の何かに取りつき、第二形態になるのか? そんな考えが頭を過ったが――意外なほどあっさりと幕切れとなった。
「うおっ!?」
『ぎゃー』
空気を読まないゴウルが俺たちに襲いかかろうとして、その途中にあった瘤を蹴飛ばしたのだ。真っすぐ飛んでくる謎の瘤。反射的に剣を振ってしまったことを誰が責められようか。
「あっ……」
寄生していない状態だと力を発揮できないのか、瘤はあっさりと真っ二つになり……消えた。精霊を狂わせていた元凶だと思うのだが、あまりにも情けない最後だ。しかも、そんな倒され方をしたせいか、ドロップアイテムすら落とさない。残ったのは通常の魔物よりも少しだけ大きめのクレアテ結晶体だけだ。
いや、まあ、それはいい。残念だが、仕方がない。それよりも困ったのは――……
「うぅ……うぅ……」
戦意を失った樹精が、座り込んで泣いていることだ。樹精が人間の女性に似た姿をしているのが非常に良くない。こんなところ誰かに見られたら、どんな誤解をされるかわかったものではなかった。
『あーあ。泣かしたー』
ペルフェが他人事のように言っているが……お前も共犯だからな?




