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30. またもやフィールドボス?

 杵兎を倒した後、しばらくしてアイリたちも素手兎を倒した。三人がかりだが、アタッカーがレイナしかいないので、少し時間がかかったようだ。


「あの、ジンヤさん。また、強くなりました?」

「え、ああ。そうかな」


 初見の相手だったので、どの程度手を抜けばよいかわからなかった。そのせいで、実力差をはっきりと感じてしまったのだろう。さすがに誤魔化すのは無理だ。曖昧に肯定するしかなかった。


「また、差が広がっちゃったかな。もっと頑張らないと」


 同時期に転生した俺とレベル差があることに、アイリは少なからぬショックがあるらしい。だが、それが嫉妬に変わらず向上心につながるのが、彼女の強いところだ。


「大丈夫だよ。精霊さんがいれば、私たちも強くなれるよ!」

「あはは、そうだね」


 そんなアイリをレイナが励ます。俺が知る二人の様子からすると、珍しい光景に見えるが、不自然さは感じられない。それどころか、励まされるアイリは何故か嬉しそうだ。精霊のことでハイになっているのかと思ったが、もしかすると、今のレイナこそが本当の彼女なのかもしれない。


 そんな二人の様子にホッとしつつ、杵兎の落としたアイテムを検分する。システムカードで確認したところ、槌分類の武器だった。


【戦兎の武杵】

◆分類◆

武器・鈍器(槌)

◆攻撃性能◆

物理補正:D

◆特殊効果◆

軟体特性によるダメージ軽減効果を一部貫通する


 さて、パーティーで取り分を決めるとき、クレアテ結晶体に関してはエルネに換金したあと、等分にわけるのが普通だ。ドロップアイテムも同様だが、装備品の場合は多少事情が異なる。パーティー内で使用できる者がいる場合、戦力増強のために譲るのだとか。


「ええと、この杵は……コルネリアさん、使いますか?」

「え、私ですか!?」


 俺は使わないので、コルネリアにと思ったのだが、彼女は驚きの表情を浮かべたあと、睨んできた。


「私は治癒法術士ですよ。基本的に装備は短杖です。メイス程度ならともかく、両手武器を持つのは少し……。いったい、私にどんなイメージを持ってるんですか?」

「あ、いや、あはは……」


 ……そうか、そうだよな。


 彼女は治癒法術士。治癒法術をメインとする支援職だ。黒槌を振り回しているイメージが強すぎて誤認してしまったが、基本的に前に出て戦うタイプではない。そのときのことは、ジンヤとしては知らないことになっているので、言い訳することもできない。また、曖昧な笑みを浮かべて誤魔化すことになってしまう。


「まあ、でも、私たちはアタッカーが少ないので、メンバーが揃うまでは私が前に出る機会もありますか。それじゃあ、使わせて貰いますね~」


 失言を後悔していると、コルネリアは表情を笑顔に変えて、前言を翻した。じゃあ、なんで、睨まれた……と思ったら、彼女の瞳には悪戯な色が見て取れる。どうやら、からかわれたらしい。初対面のときから思っていたが、なかなか良い性格をしている。




 コルネリアがアタッカーとして加わったことで、『精霊の守護者』の攻撃面が強化されたこともあり、探索は思った以上に順調に進んだ。支援職であるはずのコルネリアの攻撃力はなかなかのものだ。思った以上にレベルが高いのかもしれない。俺が提案したものの、よく『精霊の守護者』に加わってくれたものだと思う。


 そして、探索を始めて三時間ほどが経過したころ、精霊を見つけることができたのだが――……


「あ、精霊さん!」

「本当だ! ……あれ?」


 俺たちの前に姿を現したのは樹の精霊ドライアドだ。ドライアドは俺たちの方へと駆け寄ってくる……と見せかけて、俺たちのことなど目もくれず、脇を抜けてそのまま走り去っていった。


「何だったんだ?」

「これは……まずいかもしれません。引き返しましょう!」


 首を捻る俺とは対照的に、コルネリアは普段は緩めの表情をキリリと引き締めて警告を発する。


「わかった、退こう」

「了解です」

「わかりました……うぅ、精霊さん……」


 状況はわからないが、コルネリアが言うのであれば、それだけ危険な状況なのだろう。悠長に理由を尋ねて、時間を浪費する愚を犯すわけにはいかない。レイナは精霊に未練があるようだが、それでも異論を挟まないだけの理性は残っているようだ。


 だが――……


「ガウァ!」

「ちっ! 逃げてるなら、素直に逃げろよ!」

「また、来ました! ゴウル三体です! うち、魔術師が一体」

「あ、ああ! シルフィさんが!」

「レイナ、今は集中しないと!」


 撤退の判断のタイミングが少し遅かったらしい。ドライアドに続いて、次々と魔物が森の奥から逃げ出してくる。多いのは緑の肌をした人型魔物であるゴウル。イメージとしては緑の鬼だ。


 奴らは人間への敵愾心が強い。逃げる途中であったというのに、襲いかかってくるのが厄介だ。無視して逃げようにも、ゴウルの魔術師が混じっているので、処理しておかないと背後から魔法を放たれてしまう。だから、魔術師だけでも倒そうと考えたのが失敗だった。ソイツを倒している間に、後続が次々と現れて収拾がつかない事態になってしまったのだ。


「このままじゃマズいな。俺がしばらく食い止める。コルネリアはアイリたちを連れて退避してくれ」

「そんな! ジンヤさん!」


 足止めを申し出ると、アイリから抗議の声が上がった。彼女の性格的に、一人を残して逃げると言うことができないのだろう。とはいえ、俺としては一人の方がやりやすい。逃げるにしても全力を出せるし、チートアーツも躊躇わず使える。


 困っていると、コルネリアが助け船をくれた。


「駄目ですよ、アイリちゃん。ここは素直に言うことを聞きましょう。見たところ、ジンヤさんは、一人なら逃げるのは難しくないと思います。私たちがいるとかえって足手まといです」

「……わかりました」


 悔しげな表情で頷くアイリ。力不足を痛感しているのかもしれない。俺のようにチートアーツがなければ、地道に強くなるしかないのだ。それに関しては少し申し訳ないが……。


「では、私たちはいきます。おそらく、原因は狂える精霊です。あなたなら大丈夫かもしれませんが……無理をしないようにしてくださいね」

「ああ」


 去り際に、コルネリアがこっそりと伝えてくれた。“狂える精霊”というのは、白猿の森における巨猿のような存在だろう。各狩り場には、時折、強力なボス格の魔物が出現するらしい。


 ボス格モンスターか。

 アイリたちを心配させないためには素直に退くべきなんだろうが……強敵と聞くと戦ってみたくなるのはゲーマーの悪い癖だな。


『どんなスキルを持ってるのかな?』

「ま、奪ってみればわかるさ」

『そうだね!』


 やはり、俺はお人よしではないな。ただのゲーム馬鹿だ。

 相棒も乗り気のようだし、試しに戦ってみるか。

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