28. 『精霊の守護者』
「強くはないが……思うように倒せないな」
『人間が多過ぎるんだよ……』
「たしかにな」
湖畔エリアの魔物はソロでも労なく倒せる。時折貰うダメージも自然回復で十分に間に合う程度のものだ。安全に狩るには適正な狩り場と言ってもいいはずだが、どうしても美味しくないと感じてしまうのだった。普段は不人気狩り場を主戦場としているせいか、遭遇する魔物の数が物足りなく感じる。倒した魔物の数は、三時間ほどかけて十にも満たない。
周囲の探索者も似たようなものだ。だが、彼らに不満げな様子はない。おそらく、これが彼らの日常なのだろう。パーティーを組んだ上で、この討伐数なのだから、成長速度に差が出るのも納得である。
いっそ、ファントムスタイルで少し強敵に挑むか……と考えたときだった。
『あ! アイツだ!』
「アイツ?」
『ジンヤの前の所持者だよ!』
「ああ、コルネリアか」
不意にペルフェが声を上げた。何かと思えば、偶然にもコルネリアの姿を見つけたらしい。そちらに視線を向けると、たしかに彼女の姿があった。他に、見知った二人の姿も。どうやら、ファントムの言葉に従って、コルネリアは『精霊の守護者』に合流したようだ。
「ジンヤさ~ん!」
手を振りながら駆け寄ってきたのはその中の一人、アイリだ。もう一人、レイナもニッコリと笑顔を浮かべて頭を下げた。
「やあ、アイリさん。レイナさんも。久しぶりだね。一週間ぶりくらいかな?」
「そうですね。ジンヤさん、本当にギルドにも現れないんですから」
「……フィールドで見たのは……初めてです」
「ははは。元気そうでやってるみたいだね。安心したよ」
巨猿の騒動のあと、『疾風爪牙』の仲に亀裂が入った。その結果、アイリとレイナの二人が『疾風爪牙』を離れ、『精霊の守護者』を結成したのだ。
自分が関わった件でもあるので、話を聞いたときには俺も心配した。チートアーツのこともあるので躊躇ったが、パーティーを組もうかと提案したくらいだ。しかし、それについては彼女たちから断られた。
先日の戦いで、俺が申告通りのレベルではないと感づいたらしい。俺が心から仲間を望んでいるのならともかく、そうでないなら足手まといにはなりたくないと言われた。
そう言われると、なかなか難しいというのが正直なところだ。無論、彼女たちが俺の足を引っ張ると考えているわけではない。だが、実際問題として彼女たちと俺にはレベル差があり、何より借金額の差がある。彼女たちのペースに合わせて魔物の討伐をやっていては、俺の借金は返済できないかもしれない。それが焦りとなって彼女たちに伝われば、彼女たちはどう思うか。足手まといになっていると感じるのではないか。
そう考えた俺は、彼女たちの意見を尊重することにした。本格的に困難にぶつかるようなら手を貸すことに躊躇はしないが、それまでは二人の意志に任せることにしたのだ。
少なくとも、今のところは上手くいっているようだ。もともと、『疾風爪牙』のときも、二人で組んでいるようなものだった。当然といえば、当然か。
むしろ、『疾風爪牙』として残った三人――特に、リュウトが困っているかもしれない。元の世界では仲が良かったらしいが、エルネマインではあの三人の仲で彼だけ少し浮いている。それが心配だった。
「ずいぶん、仲が良さそうですね~」
「ああ、ネル。この人がジンヤさん。前に話したと思うけど……」
「知ってますよ。大声で呼んでましたからね。しっかりと聞こえてました」
「アイリ、大きな声だったね」
「え? あはは、そうだったかな……」
ここで、コルネリアが会話に入ってきた。ネルというのは彼女の愛称だろうか。
「初めまして、ですよね~? 私はコルネリアと申します」
少々わざとらしく強調するようなアクセントに、面白がるような視線。意味ありげな行動を考えるに、俺がファントムであることがバレている可能性が高い。
もちろん、決定的な証拠はないだろう。とはいえ、彼女とはペルフェに関連して少々長く話しすぎたので、こうなる可能性は考えていた。姿はともかく、声に関してはそのままだからな。おまけに、露骨に『精霊の守護者』を勧めたのも悟られる要因となっただろう。
まあ、大丈夫だ。確定的な証拠がない以上、言い訳はできる。声なんて、似ている人間がいてもおかしくはないのだ。システムカードの偽装ができるので、最終手段としてカードの記載を見せてやれば、言い逃れはできるはず。
「ええ、初めましてですね。ジンヤです。よろしく」
できるだけ自然に対応したつもりだが、少し身構えてしまったらしい。彼女は苦笑いを浮かべて首を横に振った。
「二人のことが心配ですかぁ? こう見えて、私は義理堅い方なんです。|恩を仇で返したりはしません《・・・・・・・・・・・・》から安心してください。二人には拾って貰った恩がありますから!」
表面上は二人を心配する俺に向けた言葉だが、意味ありげな流し目を含めて考えれば意味合いも変わる。おそらく、俺がファントムであることを隠していると察した上で、それを明かすつもりはないと言っているのだろう。
「あ、ああ、すみません。疑っていたわけではないのですが」
「そうですか」
ペルフェを押しつけていった彼女が義理堅いかどうかはともかく、黙っていてくれるのならば、その方が面倒はない。
「どうかしたの?」
「……何かあった?」
「何でもありませんよ~」
不思議そうな顔をするアイリとレイナを、コルネリアが適当にあしらっている。とりあえず、今のところ、彼女の言葉を信じても良さそうだ。
さて、ファントムの素性に関する問題は解決したが、ペルフェも少し様子がおかしい。
「……どうした?」
『んー。ちょっとだけ、アイツに悪いことしちゃったかな、って』
「そうか」
小声で尋ねると、そんな答えが返ってきた。
ペルフェが自らの優秀さをアピールするために、殲滅衝動のスキルを発動させたせいで、コルネリアはパーティーを追放されることになった。人間を道具と言っていたわりに、元相棒に申し訳なさを感じているようだ。意外と繊細なのかもしれない。武器と考えれば少々不安になるところはあるが、相棒と考えれば人情味があって悪くは無い。
まあ、そうだな。ペルフェが気になると言うのなら、コイツの現相棒として、コルネリアのことも気にかけておこう。罪滅ぼしではないが、いずれ俺たちが助けになれる時がくるかもしれない。




