27. 湖畔エリア
ペルフェと出会ってから、既に五日。昨日まで山岳地帯で狩りを続けていたが、今日は珍しく別の狩り場へとやってきた。アースリルの西に位置する湖畔だ。
俺の格好はジンヤスタイル。即ち、外套と白面と籠手は身に着けていない。
「やはり、人が多いな」
『魔物より人間の方が多いんじゃない?』
「さすがに、それはないと思うが」
ペルフェの言葉を否定したものの、視界に入るのは探索者ばかり。さすがに人気の狩り場だけある。レベル帯としては山岳地帯とほとんど変わらない。物理攻撃が通りやすい魔物が多いので、物理職が活躍できる狩り場である。
狩り場を移した理由は至極単純。ペルフェから苦情が入ったからだ。というのも、山岳地帯での狩りでは、長剣の出番がほとんどないのである。サボテンもどきと戦うときには長剣を使うのだが、出現頻度は他の魔物に比べると低い。成長機会が少ないとご立腹であった。
とはいっても、ペルフェも全く成長してないわけではないのだが。たしかに、存在値とやらは蓄積していないかもしれないが、スキル構成が大きく変わった。今ならば間違っても呪いの装備と言われたりはしないだろう。
まず、新たなスキルを習得させる前に、既存のスキルは全てスキルドレインで引っこ抜いた。全てと言っても、【サボテン擬態】と狂戦士化のスキルの二つだけだが。狂戦士化のスキルの正式名称は【殲滅衝動】だ。何というか、狂戦士化よりも字面が良くない。
【殲滅衝動】<スキル結晶体 lv3>
所有者に狂乱の精神異常を付与すると同時に能力を向上させるアーマニアの特殊スキル
※種族適性によって習得不可
一方、ペルフェが新たに習得したのは【土魔術】【格闘】【突撃】【鉄壁の構え】の四つ。いずれも山岳地帯で入手できるもので目新しくはない。が、実際に実用的なスキルが習得できるとわかったからか、ペルフェの機嫌は悪くなかった。おかげで、比較的素直にこちらの言うことに従ってくれるのでありがたい。
俺がペルフェに利益をもたらす限り、おかしな真似はしないだろうということで、【武装誓約】による誓約も見直した。今は、“互いに不利益を与えない”という緩やかな縛りになっている。そのせいか、アーマニアの性能向上効果はほぼない状態だ。
さて、ペルフェが習得したスキルだが、はっきり言って今のところ【土魔術】はあまり役に立っていない。何故なら、俺が使った方が、ペルフェが使うよりも威力が高いからだ。にもかかわらず、マナの消費は同じ。瞬間的に高火力を出したいとき以外は自分で使った方が良いと結論に達した。
原因はペルフェの存在値の低さにあるのだと思う。逆を言えば、存在値が蓄積していけば、評価は変わる可能性が高い。
さて、【格闘】はというと――……
「ガウッ!」
『強打!』
不意打ち気味に背後から襲いかかってきた狼型魔物に長剣の柄頭でカウンターを入れてやると、それに合わせてペルフェが〈強打〉のアーツを使った。これは【格闘】の初期アーツだ。額に直撃を受けた狼は短く悲鳴を上げて、のたうっている。
「やっぱり、アーツの効果が出ているみたいだな」
『そうだね! まあ、斬った方が強いけど……』
「そりゃ、まあな」
長剣に【格闘】スキル。無用の長物に思えるが、意外にも無意味ではないらしい。斬りつけるときには関係ないが、剣の腹や柄頭で殴るようなときには、スキルが適用されているようだ。一応はアーツも使える。
アーツを使っても、本来の用途である斬撃には及ばない威力ではあるが……無意味とは限らない。魔物によっては斬撃には強く殴打には弱いようなタイプもいるのだ。そんな魔物と戦う場合には使えなくもない。まあ、素直に武器を持ち替えた方が良いとは思うが。
今のところ最も恩恵が大きいスキルは、これまた意外にも【突撃】である。
「はっ!」
「ギャッ!」
柄頭の殴打を受けて悶えていた狼が、怒りの形相で飛びかかってきたところで、長剣を振り抜く。多少の抵抗はあったものの、驚くほどあっさりとその一撃は狼の体躯を切り裂いた。大きなダメージに狼が怯む。その隙を見逃さず、更に一突き。最初の殴打を含めて、三度の攻撃を受け、狼はその存在を光の粒へと変じた。
『ふひひ! ねえ、僕強いでしょ? ねえ!』
「ああ、そうだな」
ダメージの大部分を与えた斬撃と刺突はアーツすら使っていない通常攻撃だ。その威力に貢献したのがペルフェであることに間違いはない。もっと言えば、これこそが【突撃】の恩恵である。
【突撃】は移動攻撃のときに前方への攻撃力がアップするという効果だ。これが、剣を振ったり刺したりするときに適用されているらしい。たしかに、剣が移動しながら前方に攻撃していると解釈できなくもない。特に、刺突の場合、かなり威力が向上しているように思える。
また、同じように【鉄壁の構え】も有効だ。ペルフェがタイミングよく〈防御〉のアーツを使ってくれれば、大きく衝撃を殺せることがわかっている。盾代わりに使うときはかなり便利だった。
さて、今倒した狼が、湖畔エリアで脅威度が高めとされる魔物だったはず。俊敏な動きで探索者を翻弄する厄介な相手と聞いていたのだが。
「特に手応えはないな」
『もうちょっと強い魔物でもいいんじゃない?』
「とはいえ、ソロだからな。この程度がちょうどいいんだろう」
『そういうもの?』
チートアーツを解禁するなら、もっと上の狩り場でも対応できるとは思う。だが、それらなしでは回復手段が限られる以上、効率的に魔物を倒すことは難しくなるはず。ポーションのような不思議な回復薬も存在するが、当然ながら費用がかかる。ダメージが多い狩り場では場合によっては収支がマイナスになる恐れがあった。加えて、この狩り場でも、転生して二ヶ月にも満たない俺がソロで活動するには早いのだ。これ以上の場所で狩りをするとなれば、目立つことになる。ほどほどの実力者として振る舞うならば、このぐらいにしておく必要があった。
『まあいいや。何か良いスキルは見つかるかな?』
「今日は下見だけだぞ。スキルの入手は後日だ」
『えぇ? 何でだよ』
「人間には色々あるんだよ」
ジンヤとして振る舞っているときに、スキルドレインを使うのは控えたいというだけの話なのだが。その辺りの機微はアーマニアには理解できないらしい。
まあ、種族が異なるのだ。相互理解が進むには時間がかかる。仕方がないことだろうな。




