26. 棘だらけになる
「どうするかな」
置き去りにされたハンマーを前に考え込む。
一度手にすると外せないという呪いのような効果はすでにないのだ。所持しておくだけなら別段構わない。とはいえ、狂戦士化を引き起こすマイナススキルはそのまま。何かの拍子に発動してしまうと困る。スキルドレインで奪っておきたいところだが、マナが回復するにはしばらく時間がかかりそうだ。
とりあえずインベントリに収納しておく、というのも一つの手だが。
「アレが使えるか?」
さっき、手に入れた【武装誓約】のスキル結晶体を手に取る。説明を見る限り、種族適性による制限がなかった。だとすれば、俺にも習得可能なはず。試してみれば、問題なくスキルを覚えることができた。
さて、あとはアーマニアとの誓約だ。
まず、アーマニアの名前を知る必要がある。それについては難しくない。アーマニアの性能の詳細を知ることはできないが、名前についてはシステムカードによる簡易鑑定で識別できるのだ。
【破壊の黒槌】<アーマニア:ペルフェ>
◆分類◆
武器・鈍器(槌)
アーマニア
◆攻撃性能◆
物理補正:D
◆特殊効果◆
敏捷と器用がわずかにダウン
俺の持つ白鉄の長剣に比べると攻撃性能は高いが、極端な差はなさそうだ。一方で、能力値へのマイナス補正がある。武器種を別にしても、俺には合わない武器だ。
「武器名の隣のが、名前か?」
普通のアイテムにはない表記がある。おそらく、この“ペルフェ”がアーマニアの名前と考えていいだろう。
名前が分かれば他に準備は不要。【武装誓約】のアーツ<誓約>を使えばいいだけだ。対象はペルフェと俺。誓約内容は“所有者が明示的にスキル名を宣言しないかぎり、アーマニアはスキルを使わない”だ。アーマニアのメリットを大きく損ねる誓約だが、狂戦士化を勝手に使われないことが目的なので問題ない。
アーツが成功したのか、手にしたハンマーとの間に繋がりを感じる。おまけに、不服げな感情までもが流れ込んできた。たしかに、アーマニアには意志があるようだ。
どうせなら、ちょっと実験をしてみるか。
「ほら、使ってみろ」
インベントリから、残していたスキル結晶体を取り出して、ぐりぐりとハンマーに押しつけた。すると、不快そうな気配が伝わってくる。
「やはりアーマニアには使えないか。それとも種族適性の問題か? それとも俺以外には使えない? もし、使えるようなら他のスキルも覚えさせることも考えたんだが……」
スキルドレインでスキルが奪うことができる。ならば、逆に取得させることもできるのではないか。有用なスキルを取得させることができれば、強力なアーマニアを作り出すことができるのでは、と思っての実験だった。
とはいえ、現状で失敗と判断するのは早計だ。種族適性の問題かもしれない。できれば、他のスキル結晶体でも試してみたいところだが、手元にあるスキル結晶体はこれしかなかった。取得済みのスキルでも複数使えばレベルが上昇していくので、有用そうなスキル結晶体はすぐに使ってしまうのだ。
「ん?」
この実験はまた別の不要なスキル結晶体が手に入ったときにやろうかと考えていると、またもやハンマーから感情が伝わってきた。言葉にはしづらいが、モヤモヤとしたもどかしさを感じる。
……いや、これは葛藤か?
もしかして、スキル結晶体を使うか否か迷っている?
さきほどまでは不快一色だったのに何故と思ったが、よく考えれば結晶体がどういったものか説明をしていなかったのを思い出す。意志があるからといって、無条件にアイテムを使うわけではない……というより、意志があるからこそ知らないアイテムを警戒するということか。
「いいか。これはスキル結晶体というものだ。使えば、結晶体に宿るスキルを取得することができる。アーマニアにも使えるかどうかはわからんが、これは確認のための実験だ」
言い聞かせてやると、だんだんと乗り気になってくるのが伝わってくる。良い傾向だ。このまま押し切ろう。
「幾つものスキルを身につけていけば、いずれは最強のアーマニアと呼ばれるようになるかもしれんな」
アーマニアに欲望のようなものがあるのかはわからないが、あるとすれば武器として強くなる方面だろうと当たりをつけて適当に煽ってみる。その推測は正解だったらしく、アーマニアの心は決まったようだ。俺が差し出したスキル結晶体が砕けて消える。
……まさか、本当に使えるとは。あれ、【サボテン擬態】の結晶体だったんだが。
もしかして、アーマニアは種族適性を無視して習得できるのかもしれない。サボテン擬態をアーマニアが習得したところで意味があるとも思えないが。
驚いている間にも事態は動く。なんと、ハンマーに変化が起きたのだ。
持ち手部分がやや太くなり、全体的に棘が生えてきた。他にも、黒一色だったボディが、やや緑色がかった色合いになっている。頑張ればサボテンに見えなくも……いや、やっぱり無理があるな。率直に言えば、不格好なハンマーだ。それ以上でもそれ以下でもない。
『って、何これ!? 騙された!』
突然、頭に響く謎の声。少し甲高い子供のような声だ。実際に音を伴っているわけではないというのに、甲高さを感じるのも不思議なものだが。
状況から考えれば、このアーマニア――ペルフェの声なのだろう
「お前、喋れたのか」
『げっ、声が漏れてる?』
「漏れてるな」
『何だよ、もう! アナタが騙すからでしょ!』
「いや、騙した覚えはないが」
まあ、話が出来るなら助かる。伝わってくる感情だけでは意思疎通が難しいからな。
ペルフェが言うには、アーマニアならば誰でも所持者に語りかける能力を持っているそうだ。
「そうなのか? だが、コルネリアはそんなことを言っていなかったぞ」
『んー、わざわざ人間に話し掛ける物好きは少ないからね。僕たち、基本的にはアナタたちのこと、便利な道具としか思ってないから。あ、怒らないでよ? アナタたちだって、僕たちをそんな風に思ってるでしょ?』
「まあ、そんなものか」
武器は自分の命を預ける相棒である、と言ったところであくまで比喩的表現。本当の意味で対等な扱いをする人間は、いたとしても僅かだろう。こちらが対等に見ていない以上、向こうから同じ扱いをされても文句は言えない。
最初から対話できるとわかっていれば、本当の意味で相棒として遇してくれる人間もいると思うが……考え方はそれぞれだ。アーマニアの思想を変えていくつもりなどないので、黙っておく。
『って、そうじゃないよ! 僕を最強にしてくれるって言ったじゃない! なのに、何だよ、あのスキル! とげとげになるだけじゃないか!』
「最強にしてやるとは言っていないが……まあ、棘があって、強そうだったぞ」
『いや、持てないでしょ! どうやって使うんだよ』
「……穴を掘って、置いておくか?」
『罠にするつもり!? 武器として使ってよ!』
わがままな奴だ。まあ、武器には武器としての矜持があるということだろう。
ペルフェ曰く、アーマニアは武装として経験を積み、成長することを存在目的としているらしい。罠として使われてはそれを果たせないということか。
「しかし、話せるとなると置き去りにするのは少し気が咎めるな」
『えぇ!? 置き去りにするって何さ! 僕はアーマニアだよ? レアで高性能な武器なんだよ?』
「人を狂戦士化するようなハンマーはいらんなぁ」
『し、仕方がないじゃないか! 僕にはアレしかできないんだから! 他に使えるスキルがあるなら、それを使うよ!』
なるほど。何も嫌がらせで使っていたわけではないらしい。ペルフェが唯一使える攻撃向きのスキルが狂戦士化だったようだ。
スキルを使わなければ、アーマニアとしての優位性をわかりやすく示すことはできない。長く使っていけばアーマニアも成長するので、スキルなしでもただのハンマーよりはよほど優秀だ。だが、所有者がそれを待ってくれる保証はない。そのため、ペルフェは狂戦士化のスキルを使わざるを得なかったそうだ。
……いや、武装誓約で外せない状態だったのだから、あえて優位性を示す必要もなかったのではないかと思うが。そもそも、最初から話しておけば誤解もなかったろうに。
まあ、狂戦士化スキルの使用が悪意によるものではなく、こうして対話もできるのなら、上手く付き合っていくことはできそうだ。ただ、問題はある。
「ハンマーはなぁ……」
俺の戦闘スタイルは回避重視。大きく、重量もあるハンマーとは相性が悪い。
『他の武器がいいの? ……うーん、わかった! どうせ大して存在値も集まってないし、乗り換えてもいいよ!』
「乗り換える? そんなことができるのか。存在値というのは?」
『アナタたちが言うところの、レベルかな? 存在値が集まれば僕らの体は強化されていくんだよ。でも、乗り換えたら無駄になっちゃうから、ほいほいと出来るわけじゃないんだ』
「ほう?」
存在値というのは、どちらかといえば経験値のようなものに思えるな。ともかく、そういうことなら、候補は白鉄の長剣か白鬼長の籠手だ。籠手はジンヤのときに使うつもりはないから、長剣にしておくか。
というわけで、白鉄の長剣に乗り換えてもらったのだが――……
「棘だらけだな……」
『アナタのせいでしょ! ちゃんと元に戻してよね!』
どうやら【サボテン擬態】は常時発動型のスキルだったらしい。ペルフェが乗り換えたことによって、白鉄の長剣は柄の部分も含めて棘が生えてしまった。そのせいで、しばらく白鉄の長剣が使えない。
こんなことなら、別のスキルを習得させれば良かったな……。




