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25. お礼の品

 名前のことでイラッとさせられたが、こちらも大人だ。ひとまずはスルーして話を続ける。


 何はともあれ、見知らぬ人間から襲われるという理不尽な目にあったのだ。迷惑料ではないが、元を取っておきたかった。何も金銭の類を要求しようというのではない。欲しいのは情報だ。


 コルネリアの暴走がハンマーのせいなのだとしたら、エルネマインには呪いのアイテムのような物が存在しているということになる。生憎とその手の情報は持っていないので、この機会に是非仕入れておきたい。


「で? 自分の意志に反した行動を強いられていたのは、どういった理由なんだ?」

「実はこのハンマー、性格の悪いアーマニアでして」


 率直に問えば、コルネリアは景気の悪い顔で応じた。特に隠すつもりはないようだ。


「アーマニア?」

「簡単に言えば意志を持つ装備品ですね」

「そんなものがあるのか」

「ええ、かなり珍しい物ですが」


 コルネリアの説明によれば、アーマニアはかなりレアな装備品で、その多くは優秀な能力を有しているらしい。一番の特徴は、アーマニア自身がスキルを持ち、それを自己判断で使用する点にある。


 例えば、とある有名な探索者が持つ杖型のアーマニアは多様な魔法スキルを保持しているのだとか。アーマニアが火魔法のアーツを使っている最中に、探索者本人は別のアーツを放てるのだという。つまり、攻撃機会が二倍になるわけだ。消費コストは所持者のマナから差し引かれるので消耗も激しくなるが、瞬間火力が二倍になるのは単純に強い。


「ふぅん。そのハンマーはどんな能力があるんだ?」

「狂戦士化と言いましょうか……攻撃力が劇的に上昇する代わりに本人の意志に関係なく敵味方に襲いかかるようになります」

「呪いの武器じゃないか……」

「呪われた装備品というのは、それはそれであるんですけど……まあ似たようなものですね」


 厄介なことに“狂戦士化”の発動を自分で制御することはできないらしい。スキルを使うのはあくまでアーマニアであって、所有者ではないので当然ではあるが。


 自力で解除できるのなら使い道もありそうだが、マナ切れまでそのままとなれば使いづらい。特に、パーティー活動では致命的な欠点だ。ソロならば……と使った結果が現状だろう。つまり、全く使えない。


「そんな武器、よく使う気になるな」

「私だって、好きで使ってるわけじゃありませんよ!」


 涙ながらにコルネリアが語るところによると、このアーマニアはまさに呪いの品というべき性悪さを備えている。狂戦士化も厄介だが、それ以上に厄介なのが、最初に手にした者を強制的に所持者としてしまう点だ。


「手放そうとしても体が言うことが聞かないんです! お風呂も寝るときもですよ! 他の武器を持つことも許されないんです……」


 それでも、武器として優秀なら少し不便さを感じるだけに留まったんだろうが、武器としてもまともに使えない有様なのだ。嘆きたくなる気持ちも理解できる。


 何より、(たち)が悪いのは、そういった特性がシステムカードの簡易鑑定では読み取ることができないところだ。呪いの装備は簡易鑑定で識別できるが、アーマニアに関しては詳細を読み取ることができないそうだ。


「私はヒーラーですから、それでも問題ないと思ったのですが……」


 なんと、狂戦士化の効果は他者が近くで戦闘を始めただけでも発動してしまうらしい。そんな発動条件だ。パーティーでの活動においては、発動を避けられない。しかも、彼女のような後衛職の場合、最も近くにいるのは仲間の探索者だ。アーマニアを手にした次の戦闘で、彼女は背後から仲間に襲いかかったらしい。幸いなことに死者は出なかったが、仲間との関係は悪化。最終的にパーティーから追放されてしまったそうだ。


「解除するスキルとかは……?」

「あるにはあるらしいんですが、特殊なスキルらしく……」


 足元を見られたのか、莫大な解除手数料を請求されたのだとか。彼女は転生四年目で、俺よりもレベルが高い。これまで蓄えたエルネを放出すれば解除手数料はギリギリで支払えなくもないらしい。だが、そうなると借金返済が覚束なくなる。解除を依頼する踏ん切りがつかず、ソロでの活動ができないかと模索していたところだったらしい。


「狂戦士化の影響で、このくらいのレベル帯の魔物なら私でも倒せますから」

「なるほど。だが、不人気な狩り場だからといって、全く人がいないわけじゃないぞ」

「……そうなんですよねぇ」


 不人気狩り場といえども、全く人と出会わないわけではない。今だってそうだが、俺が一ヶ月白猿の森で狩りをしていたときも、たびたび他の探索者を目撃した。つまり、幾ら人気(ひとけ)のない場所を選ぼうと、事故は起こりうるということだ。


「だが、ふむ……」

「な、なんですか? 私の体を見て……。まさか、迷惑料を体で払えと言うんじゃ!?」

「人聞きの悪いことを言うな……」


 断じてそんなつもりはない。そもそも、コルネリアを見ていたわけではなく、彼女が抱えているハンマーを見ていたのだ。完全な誤解である。


 ふと思ったのだ。意志を持ち、スキルまで持っている。それならばスキルドレインを使えばどうなるのかと。


 都合良く狂戦士化に関係するスキルが奪えるとも限らない。そもそも、アーマニアを対象とした場合、効果が発動するか否かも不明だ。それでもやってみる価値はあるだろう。もし失敗しても、俺が困ることはないからな。


「上手くいくかはわからんが、試してみたいことがある。少しハンマー貸してくれ」

「はい? まあ、構いませんが、私の手からは離れませんよ」


 首を傾げつつも、コルネリアがハンマーを差し出してきた。それに触れてスキルドレインを発動する。


「うわ!? 何ですか?」

「すぐに終わる。じっとしてろ」


 驚きの声を上げるコルネリアをなだめ、待つこと数秒。手応えを感じて手を離すと、それに応じてハンマーから青い結晶体がスルリと抜け出してきた。狙い通り、スキルを奪えたらしい。


 すぐさま、システムカードで結晶体を確認する。



【武装誓約】<スキル結晶体 lv10>

アーマニアと所有者が誓約を交わすことによって、アーマニアの性能を引き出す



 簡易的な説明だけでは断定できないが、どうも狂戦士化とは関連のないスキルのように思える。アーマニアにスキルドレインを使うという実験としては成功だが、迷惑武器への対処という意味では失敗だ。


 そう思ったのだが――……


「は、外れました! 手を離しても、何ともありません! ありがとうございます! ありがとうございます!」

「あ、ああ。良かったな」


 狂戦士化ではなく、ハンマーを手放せない呪いのような効果が無効化されたらしい。感極まったコルネリアが、俺の手を掴んでブンブンと振ってくるのを適当にいなしつつ考える。


 おそらく、この【武装誓約】というスキルで、所持者変更不可という誓約を交わすことによって、ハンマーの威力が激増していたのではないだろうか。しかも、コルネリアに誓約を交わした自覚がないことから、アーマニアが一方的に取り決めた可能性がある。全てのアーマニアがこのスキルを所持しているとは限らないが、なかなか厄介な存在だな。


 ひとしきり喜びの感情をあらわにし、ようやく落ち着いてきたところで、コルネリアは大きく頭を下げた。


「本当にありがとうございます! あなたのおかげで、ハンマーから解放されました! お礼というわけじゃないですが……」


 そう言って、こちらをチラチラと見てくるコルネリア。何事か小さく呟いているので、声を拾ってみれば「仲間って必要だと思います」だとか、「私って結構優秀なんです」だとかの自己アピールだった。


 つまり、礼に|かこつけて、仲間に加えてくれと要求しているのだろう。まあ、パーティーを追放されたと言っていたからな。戻れないのか、戻りたくないのか知らないが。


 とはいえ、俺が彼女を仲間に加えるという選択肢はない。“ファントム”という名前を笑ったこと、忘れていないからな! ……というのは冗談としても、やはり他人と行動を共にするとチートアーツを使いづらい。今の限られた情報では、俺が使ったアーツがどれほど規格外なものかわかっていないだろうが、長い間一緒にいればそうもいかない。


 ただ、仲間と聞いて少しだけ思いついたことがある。


「礼は不要だ。仲間が欲しいのなら、アースリルで“精霊の守護者”という二人組を当たってみればいい。お前と比べるとレベルは低いが、見所はあると思うぞ」

「ふふっ。そうですか」


 コルネリアは少しの間、俺を意味ありげに見つめてから微笑を浮かべた。二人を見守って欲しいという思惑が見透かされたのかもしれない。


「せっかくのお勧めですから、さっそく声をかけてみたいと思います! それでは!」


 善は急げとばかりに、コルネリアが駆けだした。あまりに唐突な出来事にあっけにとられてしまう。それが敗因だった。


「あ、おい! このハンマー!」

「それはお礼に差し上げます! ありがとうございました~」


 こちらを振り返りもせずに、コルネリアは去って行く。その速度は凄まじく、とても追いつける気がしないほどだった。考えてみれば当たり前か。ハンマーを振りながら、俺に追いついてきたんだからな。


 それにしても、アイツ……(てい)よく厄介な物を押しつけていきやがったな。



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