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24. 誤解を招きかねない状況

 逃げろといいつつ追いかけてくるハンマー女。何らかの理由により、本人の意志で行動を制御できないようだ。とはいえ、どんな事情があろうと襲われる側としては堪ったものではない。


「いい加減にしてくれ」

「私だって好きでやってるわけじゃないんですよ~! 迷惑をかけるのがわかってたから、人がいない場所で魔物を倒してたのに~」


 なるほど、不人気狩り場にわざわざやってきたのは、そういう理由か。俺の方が先に目をつけていたと言いたいところだが、そんな主張に何の意味もない。狩り場は誰の物でもないからな。


 こんなやり取りをしている間も、女の攻撃は止まらない。よくもまあ、かなりの重量がありそうなハンマーを軽々と振り回せる物だ。


「ちょ、ちょっと、何処まで逃げるつもりですか?」

「逃げろと言ったのはお前だろ」

「でも、人が多いところは駄目ですよ! 大変なことになっちゃいます!」


 本人の意志ではないなら反撃するわけにもいかない、とひたすら逃げに徹していたのだが、山岳地帯の端まで来たところで、女がおかしなことを言い出した。逃げれば良いのか、逃げては駄目なのか。はっきりしろと言いたいところだが、これにも事情があるらしい。どうやら、彼女は生物を無差別に攻撃してしまう状態なのだそうだ。


 たしかに、そんな状態の彼女を引き連れて街に近づくのはまずい。アースリルの周辺は低レベル探索者の狩り場となっている。


 見たところ、ハンマー女はそれなりにレベルが高い。俊敏さに秀でているはずの俺についてくる以上、少なくとも俺と同レベル……おそらく、俺より幾つか上だろう。大振りの攻撃とは言え、低レベル探索者には避けきれないはずだ。


 仕方なく、大きく円を描くような軌道で移動して、山岳地帯へと引き返していく。とはいえ、いつまでも付き合ってはいられない。


「どうにかならんのか?」

「マナが切れたら効果も切れます。それまで避け続けて頂ければ」

「……どのくらいかかるんだ?」

「あと四時間くらいですかね?」

「付き合ってられるか!」


 エルネマインに転生してから、以前とは比べようがないほど体力に溢れている。四時間くらいなら、このまま避けることも可能だろう。だからといって、悠長に付き合ってやる義理はなかった。時間は有限。その四時間でどれほど稼げるかという話だ。


 これまでは何らかの事情があるのだろうと、女を慮って手荒い真似は控えていた。実際に事情はあったわけだが、それでもこちらの被るデメリットを考えてやり方を変えることにする。


「せい!」

「ぶべっ」


 攻撃の隙を見て、女の足を払う。バランスを崩した彼女は、ハンマーの重みに引っ張られて派手に転倒した。そのままにしていれば、また暴れ出すのは間違いないので、容赦はしない。うつ伏せに倒れた女の背中に座り、両手を押さえることで攻撃を封じる。


「酷いです……」

「酷くはない。妥当な措置だ」


 ハンマーを軽々と振り回していたわりに、本人の筋力は大したことがないようだ。暴れだそうとする彼女を押さえ込むのはそれほど難しくなかった。そんな彼女が岩鼠を粉砕していたのだから、特殊な効果のあるハンマーなのだろう。


「もしかして、私、四時間このままですか?」

「……はぁ。ちょっと待て」


 ひたすら回避を強いられるよりはマシだが、今の状況も身動きがとれないことに変わりがない。何より、絵面がマズい。事情を知らない人間が見れば、いらぬ誤解を招きかねない体勢だ。可及的速やかに状況を改善したいのはこちらも同じだった。


 マナが切れれば暴走が止まるというのなら、マナを奪えば良い。幸いなことに、俺にはその手立てがある。女の両手を押さえつけたまま、マナドレインを発動させた。


「ふわぁ!? 吸われてる! 何か吸われてる感じがしますよ!」

「うるさい。しばらく黙ってろ」


 そういえば、人にドレイン系スキルを使うのは初めてか。使用者である俺に何かが流れこんでくる感覚があるように、対象者にも吸われている感覚があるらしい。


 ともかく、ハンマー女のマナを枯渇すべく、繰り返しアーツを使う。相手のレベルが高いせいか、なかなかマナを空にできず、結局十回以上マナドレインを使うことになった。それだけ、マナの総量と抗力が高いのだろうな。


「ほら、どうだ?」

「あ、問題なさそうです!」


 マナが空になったことで、女の抵抗が弱まった。暴走が止まったと判断して確認すると、無事、体の自由が戻ったようだ。嬉しそうな声で返事をよこした。


 となれば、いつまでも誤解を招く体勢でいる必要はない。すぐさま、彼女の上から離れると、罪滅ぼしというわけではないが、手を貸して助け起こしてやる。


「改めまして、私はコルネリアと申します」

「ああ」


 女――コルネリアは軽く会釈しながら名乗った。肩までの金髪に碧眼。線が細く、まともな出会い方をしていれば華奢で大人しそうな女性という印象を抱いていたことだろう。ハンマーを振り回していた姿が強烈だったので、すでにそんな印象は欠片も持てないが。


「ええと、あなたのお名前は?」


 コルネリアが邪気もなく聞いてくる。だが、これがなかなか返答に困るのだ。通称ならともかく、自分から“ファントム”と名乗るのは気恥ずかしい。別の名前にすれば良かったと後悔が湧き上がるのも仕方がないことだろう。だが、今更名前を変えるのも、また変な憶測を呼ぶ可能性がある。開き直るしかない。


「……ファントムだ」

「ファ、ファントム? それは……独特な名前ですね」


 名前を告げると、コルネリアの顔が一瞬だけ歪んだ。すぐに取り繕ったが俺にはわかる。


 今、失笑しただろう?

 気付いているからな……!

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