23. ◇山岳地帯で遭遇したヤバい探索者
狩り場を移して十日になるが、かなり順調に稼げている。毎日の収入はクレアテ結晶体だけで30000エルネに近い。同じレベル帯の狩り場に比べればドロップ素材の金銭的価値が小さいとはいえ、量があれば売却価格もそれなりに大きい。加えて、不要なスキル結晶体をエルネに変えるので収入はさらに増える。この十日の稼ぎは合計で60万エルネほど。以前の四倍くらいのペースで稼いでいる計算だ。これなら一年で2000万エルネほどは稼げるはず。五年で1億エルネの借金を返すのも不可能ではない。無論、新たな借金をしなければの話だが。
スキル集めも順調だ。山岳地帯で得られるスキル結晶体で有用そうなのは、こんなところか。
【突撃】<スキル結晶体 Lv6>
移動しながら前方に攻撃するとき、威力にプラス補正
【潜伏】<スキル結晶体 Lv5>
地形に紛れて身を隠すとき、発見されづらくなる
【土魔術】<スキル結晶体 Lv8>
土属性魔術の威力・判定にプラス補正
【渇水耐性】<スキル結晶体 Lv5>
体内水分量の低下によるペナルティを軽減する
※種族適性によって弱体化
【格闘】<スキル結晶体 Lv4>
格闘技能の威力・判定にプラス補正
【鉄壁の構え】<スキル結晶体 Lv5>
攻撃に対して身構えることでダメージを軽減する
【突撃】の結晶体は岩鼠から獲得できる。アーツを取得せず、勝手に発動するタイプのスキルらしい。効果のほどは、今のところ不明。そもそも、移動しながら攻撃というのが慣れないと難しい。従って、あまり試す機会のないスキルとなっている。
【潜伏】の結晶体も、入手先は岩鼠だ。奴らのカモフラージュは、擬態ではなく潜伏という扱いらしい。使う機会があるかどうかは不明だが、使えそうなスキルではある。
ちなみに、同じく潜伏タイプのサボテンもどきは【サボテン擬態】というスキルを持っていた。こちらは種族適性の関係で取得できないので、チャージ対象だ。一つ4500エルネくらいになる。
【土魔術】は狙い通りサボテンもどきから入手できた。基本的に他の魔法スキルと変わらない。今のところ〈ストーンバレット〉と〈バーストストーンズ〉という攻撃アーツが使える。岩鼠相手に使った感触では威力が今ひとつという印象。ただ、これは耐性的な問題である気がする。山岳地帯は、土属性に強そうな魔物ばかりなので、他の狩り場で試してみなければ正当な評価は出せない。
少し興味深いのが【渇水耐性】だ。耐性系は特性につくのかと思えば、スキルにも存在するらしい。キャラメイク時の初期スキル候補のリストにはなかったはずだ。【咆哮】や【生命活性】も見た覚えがない。種族適性が低いスキルは表示されないのか、それともリストに記載されているのは基本的なスキルだけなのか。【突進】もなかった気がするので、後者かもしれない。
さて、【渇水耐性】は脱水症状に起因する身体能力の低下を抑えるという効果らしい。弱体化している上、ペナルティが軽減されるだけで辛さが軽減されるわけではなさそうなので、できるだけそんな目に遭わないようにしたいものだ。
【格闘】の結晶体は石人形のような魔物から獲得した。巨猿から奪った物に比べるとレベルが低い。そのせいか三つ使ってもレベルが上昇しなかった。やはり、スキルにも経験値のようなものがあるのだろう。スキルはレベル5くらいまでは結構簡単に上がるので、得られる経験値が少ないと考えれば納得がいく。
最後の【鉄壁の構え】は防御スキルのようだ。今のところ、使えるアーツは〈防御〉のみ。身構えているときに物理防御が上がるそうだが……敵の攻撃は回避するのが基本の俺にはあまり意味がない。アイリのような騎士職向けのスキルなのだろうな。
経験値の獲得効率も断然良い。狩り場を移してから、すでにレベルが2上がった。巨猿の経験値もあるのだろうが、間違いなく経験値の取得量は増えている。やはり、白猿の森は格下の狩り場となっていたのだろうな。
名 前:ファントム(偽装)
戦闘職業:盗賊
レベル:12
生命: 294/ 294
マナ: 276/ 276
筋力: 136 魔力: 136
体力: 114 精神: 117
器用: 170 抗力: 114
敏捷: 172 幸運: 170
スキル:
【盗む Lv11】【幻惑 Lv5】
【格闘 Lv10】【剣術 Lv8】
【突撃 Lv7】【鉄壁の構え Lv8】
【跳躍 Lv9】【潜伏 Lv6】
【▼生命活性 Lv5】【火魔術 Lv9】
【水魔術Lv9】【闇魔術 Lv5】
【土魔術 Lv9】【▼咆哮 Lv9】
【解錠 Lv5】【罠解除 Lv6】
【▼渇水耐性 Lv6】
特性:
【痛覚耐性++】【頑強+】
【状態異常耐性++】【精密動作+】
【魔術威力UP+】
そんな俺にとっては稼ぎやすい狩り場に、見慣れぬ探索者がやってきたのは狩り場を移して十一日目のことだった。
「なんだ、あれは? めちゃくちゃだな」
その探索者は、気配察知のスキルも特性も持たない俺でもすぐに気がつくほどに騒がしかった。少しずつ移動しながら、ズガンと重たい衝撃音を響かせている。狩り場によっては挑発系のスキルがなくても魔物が寄ってくること間違いなしだ。幸か不幸か、この狩り場は潜伏したり擬態したりする魔物が多いので集られることはないようだが。
「騒音はともかく、あの攻撃力は驚異的だな」
その探索者はソロなのか、周囲に仲間らしき人影はない。遠目なのではっきりはしないが、おそらく女性だ。特に目立つ武装は巨大ハンマー。それをブンブンと振り回している。察知系の能力でも持っているのか、的確に岩鼠を叩いているらしい。ハンマーを振り下ろすたびに、岩のようなものが光の粒に変わっている。つまり、物理攻撃に強いはずの岩鼠を一撃で倒しているというわけだ。
あり得ないことではない。この世界では筋肉など飾りに過ぎないのだ。高レベルで筋力値が十分に高ければ魔法職でも同じことができるだろう。とはいえ、それを為せるほどの高レベル探索者が初心者エリアとも言えるアースリル周辺にいるとも思えないが……。
そんなことをぼんやりと考えていたのが悪かったのか。その探索者から距離を取り損ねてしまった。普通ならば何の問題もないのだが――……
「……え、人がいる? た、大変!? そこの人、逃げてくださ~い!」
俺の存在に気が付いたらしい女性探索者が、そんな警告を発しながら、駆け寄ってくるではないか。しかも、言葉とは裏腹に両手で持ったハンマーを振り回しながら。
いったい、どうなってるんだ!




