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20. 巨猿討伐の結果

「……っと、そろそろ、ケリをつけるべきか」


 スキルドレインによって追加で得た青い結晶体は四つ。最初の一つと合わせて五つだ。さすがに、マナコスト200は重い。マナの補給源としていた取り巻きの白猿もずいぶんと数が減った。限界までスキルドレイン用にマナを確保すれば、あと一度や二度なら使えなくはないだろうが、そうなると巨猿討伐に必要なマナが不足する恐れがある。欲に負けて討伐失敗では格好がつかない。


「こうなると、お前も哀れだな」


 スキルを奪った影響か、巨猿の行動はすっかり単調なものとなっている。身体能力に影響はないはずなので、【格闘】スキルか何かで動きが補助されていたのだろう。馬鹿力は健在なので当たれば痛いはずだが、すでに当たる気がしない。


「問題はタフさだな」


 長剣を見失ったせいで、物理的なダメージを与える術がない。【格闘】スキルは保持しているが、素手で殴るのは少々無謀らしい。試してみたら、巨猿の体は丸太を殴っているかのように硬かった。俺の拳が先に駄目になりそうだ。


 有効な攻撃手段となると、やはり魔法だ。攻撃威力が高いのは火魔法なのだが、“ジンヤ”のときによく使っていたので、イメージが被る恐れがある。せっかく『疾風双牙』が別人と認識してくれているので、できれば違うアーツをメインとしたいところだ。とはいえ、水魔法は威力が低め。闇魔法も持っているが、初期アーツが攻撃アーツではないのでスキルレベルが上がっていない。


 となれば、頼みはエナジードレインだ。奴の攻撃の隙を見て、生命力を吸い取ること数度。まだまだ巨猿は元気に暴れまわっている。想像以上のタフネスだ。


 取り巻きの白猿だけでは不足しそうだったので、奴自身のマナも奪いながら、エナジードレインを繰り返すこと数十度。百には届かないが、その半分には到達したのではないかというところで、ようやく巨猿は倒れた。【盗む】由来のチートアーツがなければ、とても勝てなかったな。


 強敵であったが、消滅するときは白猿と変わらないらしい。特別な演出もなく、あっさりと光の粒になって消えていく。そこに残されていたのは、巨大なクレアテ結晶体と、巨猿の大きな腕を彷彿とさせるような白いガントレットだ。とりあえず、インベントリに収納しておく。


 ボスを倒したことで、僅かに残った白猿たちも狼狽えているようだ。反応は様々だが、多くは逃走を選んだらしい。逆上して襲いかかってくるような奴は少ない。


 『疾風爪牙』も誰一人欠けることなく生き残っている。多くの白猿は巨猿とともに俺へと襲いかかってきたが、一部は彼らのもとへと向かっていたはず。それでも、無難にやり過ごせたようだ。まだ白猿の残党と戦っているようだが、じきに決着もつくだろう。


「ファントムさん!」

「おい、アイリ!」


 さて、ファントムとしてはどう振る舞うべきか。少し考えていると、巨猿を倒したことに気が付いてアイリが声を掛けてきた。しかも、白猿の残党との戦いを放り出して、こちらに駆け寄ってくるではないか。コウヘイが止める声も気にすることはない。戦力的には十分に足りているので、問題ないといえば問題ないのだろうが。


 何事かと少し身構えてしまうが……ファントムと呼ばれたからには、まだ素性はバレていないはずだ。その前提で、冷たい口調で答える。


「なんだ、まだいたのか? 見ての通りデカいのは俺が頂いた」

「それは別に……いえ、むしろ助かりました。それはともかく! 男の人をみませんでしたか! 私たちの仲間が奴に吹き飛ばされて……」


 おっと、そうだった。巨猿との戦闘はかなり長引いた。その間、ジンヤが出てこないのはさすがに不自然だ。下手したら死んでいると思われてもおかしくはないか。


 一瞬、死んだことにすれば、このままパーティーから離脱できるかとも思った。だが、さすがに却下する。以後、ジンヤとして活動することが難しくなるし、彼女たちの心に傷を負わせることになりかねない。この世界で生きる以上、そういった事態は避けられないかもしれないが……今である必要はないだろう。


「ああ、あの男か。それなら、向こうで伸びていたな」

「生きているんですね!」


 吹き飛ばされた方を見て言いやると、アイリは喜びの声を上げた。心配してくれるのはありがたい。が、このまま確認しにいきそうな勢いだ。今、そちらに行かれても誰もいないので困るのだが。素早く戻る必要があるな。


「さて、俺の用事は済んだ。そこらの結晶体は君たちの取り分とするといい。ではな」

「あっ!」


 長居は無用だ。目眩(めくら)ましのために、闇魔法のアーツ〈ダークミスト〉を発動する。煙幕代わりの黒い霧が発生して、視界を遮った。俺自身も見通しがきかなくなる戦闘向きではないが、今のように逃げるときには便利だ。宵闇の外套との相性が良く、一度霧の中に入ると、魔物も気配を見失うようだからな。




 黒い霧に紛れて、その場を離れた俺は、巨猿に吹き飛ばされた場所まで戻ると、大急ぎで外套と白面をインベントリに納めた。運良く白鉄の長剣も見つけることができたので、そちらも回収。そのあと、意識を取り戻した(てい)で、慌てて合流したのだった。


「肝心なところで気絶していて申し訳なかったね」


 巨猿との戦闘時、気絶していた……ということになっているので、合流後、すぐに頭を下げた。


「いや、本当だよ。役に立たない奴だな」


 悪態をつくのはキョウヤだ。

 正体を隠している後ろめたさもあるので、謝罪する意志は本物なのだが……ここまで言われると多少はむっとくるな。まあ、相手は高校生だと思えば、苛立つと言うほどのことでもない。それよりも、生きづらそうな性格をしているなという気持ちが強いな。


 実際、その言葉で、一同のキョウヤを見る目が冷えた。あのコウヘイでさえ“何を言っているんだ”という目で彼を見ている。さすがに、空気の変化に気がついたのか、キョウヤは慌てて言い訳をする。


「な、なんだよ。ちょっとした冗談だろ!」

「冗談にしても最悪よ! ジンヤさんがいなかったら、ザックバルに取り囲まれた時点で取り返しの付かないことになってたのよ!」

「それは……わかってるよ」

「だったら、なんでそんなことを言うのよ! 大体、あなたが不用意に攻撃をするから……」


 態度が悪いキョウヤにアイリが怒りを爆発させた。口調に容赦がない。何となくだが、性格的に相容れないように感じるので、日ごろから鬱憤が溜まっていたのだろう。


 アイリの言うのは正論だ。命のやり取りとなる以上、魔物への対応は慎重にならなければいけない。だが、正論を主張すればいいというわけではないのが、人間関係の難しいところだ。本人にも自覚はあるだろうが、それを真っ向から指摘されて、キョウヤは激昂した。


「ああ!? 俺が悪いって言うのかよ! リュウトの警告が遅かったのが悪いんだろ!」

「それは……ごめん」


 リュウトに責任を転嫁するような物言い。だが、当のリュウトは言い訳もせずに謝罪する。彼は彼で、落ち込んでいるようだ。


 たしかに、リュウトの警告が遅くなったのは事実だが、だからといって彼を責めることはできない。気配察知がどういうものなのかわからないが、慎重に探ってこそ察知できるということもあるだろう。やはり、あの場は攻撃を控えるべきだったのだと思う。ただ、いずれにせよ――……


「すまない。ここでする話ではなかったな。反省会は街に帰ってからにしよう。また、魔物がやってきたら危ない」

「……そうだな」


 巨猿の脅威が去ったとはいえ、ここは森の中。新たな脅威が出現しないとは限らない。俺の言葉にコウヘイが同意し、キョウヤとアイリは言葉を飲み込んだ。


 すぐさま撤収したいところだが、そこら中に転がるクレアテ結晶体やドロップアイテムをそのままにしておくのはもったいない。全部拾ってから、帰路を目指す。全て集めれば……おそらくは30000エルネくらいにはなるだろう。巨猿のドロップは別にあるとしても、これだけ倒して一人頭5000エルネか。パーティーでの稼ぎはなかなか大変そうだ。


 今回の探索は思わぬ展開となったが、同期探索者の実力も探れたし、スキルドレインを試せた。個人的には悪くはない結果だったと言えるが……代わりに『疾風爪牙』がギスギスとしてしまった。俺が原因と言えなくもないが、元々抱えていた問題でもあるように思える。


 人間関係の問題は難しいな。ゲームとは違うのだと改めて実感した。



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