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18. 白猿たちの狂宴

 白猿たちの吼え声が木霊(こだま)のように響く中、まずは十体ほどが姿を表した。相手がこれだけなら、『疾風爪牙』のメンバーでもどうにか対処できるだろう。危なそうなら俺がフォローすればいい。


 だが、十中八九、こいつらは尖兵にすぎない。討伐に手間取れば、後続が現れることだろう。そして、おそらくはボス格の白猿も。


 ボス猿に関しては見てみたい気もするが……そんな個人的な理由で彼らを危険に晒すわけにもいかないか。


「撤退した方がいい。数が多すぎる!」

「あ、ああ、そうだな! みんな、逃げるぞ!」


 少し強めの口調で告げると、放心していたコウヘイが撤退の指示を出す。状況は正しく理解出来ているようだ。自信家に見えたので無謀な戦いを挑むのではないかと少し危惧していたのだが、その心配は杞憂だったらしい。


 各人、(きびす)を返して逃げに徹しようとするが――……


「止まって! 木の陰からの奇襲だ!」


 すぐにリュウトから警告が発せられた。間を置かずに、近くの木の上から四体の白猿が飛び降りてくる。どうやら、連鎖する叫び声に気を取られている間に回り込まれていたらしい。


「嘘だろ!」

「くそ、マズいぞ!」

「後ろからも来てるわよ!」


 徐々に包囲されていく状況にコウヘイたちも少しずつ余裕を失っているようだ。状況が状況だけに無理もない……が、それに飲まれてしまえば生き残ることはできない。


 ここは俺が指示を出すべきか。パーティー外の人間が差し出がましい真似をすれば混乱の要因になりかねない。本来なら慎むべき行為だが、さすがにそんなことを気にしている場合ではなさそうだ。


「しっかりしろ、前の四体を突破するぞ! リュウトとアイリは少しの間、後ろの奴らを相手にしててくれ!」

「わかりました!」

「はい!」


 幸いなことに、俺の指示にリュウトとアイリは異論を差し挟むことなく従ってくれた。二人でも十体余りの白猿の相手は困難だろうが、少しの間引きつけてくれればそれでいい。


「おい!」

「文句なら後で聞く! 範囲攻撃を仕掛けるので、それが終わったら一斉突撃だ」


 コウヘイは不服そうだが、それに構っている時間はない。返事を待たずに、前方の白猿たちの中央に向けてアーツを放つ。発動と同時に爆炎が生じ、四体を巻き込んで爆発した。


 放ったのは火魔法レベル5で習得した〈バーストフレイム〉。広範囲を巻き込むので、数を相手にする場合にはダメージ効率が良い。爆炎に焼かれた白猿は即死こそ免れたが、一目で瀕死だとわかる。


「すごい……!」


 その威力に、レイナが目を丸くした。バースト系の魔法は効果範囲が広い分、単体へのダメージは控えめだ。それを知っているからこそ驚いているのだろう。手加減している場合ではないと、全力で放った結果だ。


「仕留めるぞ!」


 宣言してから瀕死の白猿へと駆け寄る。その勢いのまま、近くにいた一体に全力で剣を振り下ろした。レベルアップによって強化された筋力に任せた強引な一撃は、消えかけた命を刈り取るには十分であったらしい。目の前で白猿が光の粒となり消えた。


 遅れてコウヘイが別の白猿に斬りかかるのが見える。さらに、飛来する矢が、風の刃が、別々の白猿を襲う。これらの攻撃で、さらに一体の白猿が倒れる。残る二体も時間の問題だろう。


「こっちは任せたぞ! 俺は後ろのフォローに回る!」


 声をかけて、リュウトとアイリのもとへと走った。彼らはどうにか奮戦しているが、状況はよくない。それもそのはずで、群がる白猿は先ほどよりも増えているようだ。


「くぅ……!」

「リュウト君!?」


 俺が助力に入る直前で、ついにリュウトが手傷を負った。白猿たちの連携を捌き切れなかったようだ。盗賊は素早い身のこなしで盾役を務めることはできても、耐久力自体は低い。一撃でも攻撃を受ければ、生命力を大きく削られることになる。さらに、【痛覚耐性】のような特性を持たない限り、痛みは集中力の低下をもたらす。たとえ、それが僅かな差であっても、ギリギリの戦いでは致命的な負傷へとつながりかねない。


 駆け寄っていては間に合わないと判断した俺は、速射性に優れた〈ファイアボール〉で白猿を撃つ。


「ギャッア!?」


 牽制のためにろくに狙いを定めずに放った一撃だったが、偶然にもリュウトに追撃をかけようとした白猿に直撃した。焼かれた白猿が断末魔を上げて消滅する間にも、さらに続けて三発、リュウトに近づこうとした猿どもに火球を飛ばす。


「アイリ、前方はすぐに片が付く。リュウトと一緒に下がってくれ!」

「わかりました!」


 アイリがリュウトに肩を貸し、こちら側へと逃げてくる。それを支援するために、さらに〈ファイアボール〉を数発放つ。


 かなりのマナを消費しているが、まだ最大値の半分は切っていないはずだ。だが、白猿の叫び声は続いている。先は長いと見た方が良いだろう。切り札を伏せたまま、死んでは意味がない。場合によっては〈マナドレイン〉を使うしかないな。


 アイリたちが退避したのを見て、使うアーツを〈バーストフレイム〉に切り替えた。広範囲の爆炎で白猿たちを焼いていく。それを四度繰り返し、そろそろマナが枯渇しそうになったところで、後方から声がかかった。


「ジンヤさん、もう大丈夫です! 退きましょう!」


 一瞬だけ振り返り、そちらの様子を確認する。アイリとリュウトは無事にコウヘイたちと合流できたらしい。リュウトも治癒法術で治療済みのようだ。今も数体の白猿と戦っているが、俺が合流すればすぐに撤退することはできそうだ。


「わかった! すぐに――……」


 返事をしたところで、空から何か巨大な物が降ってきた。着地の衝撃で地が揺れたと錯覚するほどの巨体。それは、巨人と見紛うほどの強大な猿だ。身の丈は少なくとも3m。白い毛皮を持つ猿という点では白猿と変わらないが、存在感は段違いだ。巨体を支えるためか、筋肉が異常に発達しており、その腕周りは丸太のように太い。


「ガルァァァァア!」


 巨猿は続けざまに吼えた。強烈な震動が鼓膜を揺らし、一瞬意識が遠のく。前後不覚になるようなことはなかったものの、それでも僅かな隙ができた。


 突如、左方から襲いかかる凄まじい衝撃。抗うことすらできず、気がつけば俺の体は宙を舞っていた。若干朦朧とした意識で判断するに、おそらく巨猿に横殴りにされたのだろう。


 強制的な飛行体験は唐突に終わりを迎えた。地面に落ちても衝撃を殺しきれず、体がバウンドするのがわかる。笑えるような状況ではないが、何故か笑みが浮かんできた。


「ジンヤさん!」


 アイリの悲鳴が聞こえる。だが、その姿は見えない。周囲が草むらに覆われているのもあるが、かなり吹き飛ばされてしまったようだ。


 強力な一撃を貰ったにもかかわらず、意識ははっきりとしている。おそらく、【痛覚耐性】と【頑強】のおかげだろう。


 だが、ダメージは馬鹿にならない。防御姿勢もとれずに直撃を受けたせいで、大きなダメージを喰らってしまったようだ。システムカードで確認したところ、生命力の半分ほど削れていた。しかも、吹き飛ばされたときに手放してしまったらしく、長剣も見当たらない。


 ……形振(なりふ)り構っている場合ではないな。


 こうなればアーツも完全解禁だ。装備も自重している場合ではない。インベントリから白面と外套を取り出し、身につける。


 さあ、ここからが本番だ!

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