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17. 森の奥に響く咆哮

 翌朝、ギルド前でアイリたちのパーティーと合流した。ちなみに、彼女たちは『疾風爪牙』と名乗っているそうだ。


 ギルドで登録するわけでもないので、本来ならばパーティーに名前をつける必要はない。だが、呼び名がなければやはり不便だ。自分たちで名付けなくても、他人が好き勝手呼んだ名前が定着することが多いらしい。問題は、そういった名前は大概酷いということか。『疾風爪牙』も『虫取りキッズ』という名前で定着しかけたので慌ててつけた名前らしい。


「試験は南の森でやるぞ! 相手はザックバルだ!」


 アースリルを西の門から出てから、コウヘイが宣言した。南の森というのは、俺が白猿の森と呼んでいる場所だろう。ザックバルというのは白猿の正式名称だな。


 魔物の名前は【看破】などの特定のスキルを使って知ることができるほか、ドロップする素材アイテムからも識別可能だ。例えば、白猿が時々ドロップする毛皮をシステムカードで確認すると“ザックバルの毛皮”と表示される。


 それはさておき。


「ちょっとコウヘイ君!?」

「試験としては……相手が強すぎると思う……」


 知らされていなかったらしいアイリとレイナが抗議の声を上げた。何も言わないが、リュウトも困惑の表情を浮かべている。彼も試験としては不適だと思っているようだ。


「ソイツはソロでレベル6まで上げたんだろう? だったら、ザックバルぐらい倒せるんじゃないか?」


 一方、キョウヤはニヤニヤと笑っている。彼は知っていたのだろう。とはいえ、そのにやけ顔も長くは続かない。彼の顔色を変えさせたのはアイリの言葉だ。


「だったら、あなたは一人でザックバルを倒せるの?」


 ソロだろうとパーティーだろうと同じレベル6なら、ステータス的な成長度に変わりはない。それならば、お前に出来るのかと指摘したわけだ。


「お、俺は相性が悪いんだ!」


 キョウヤは顔を赤くして言い訳をしている。


 とはいえ、彼の言葉も嘘ではない。弓使いは白猿と相性が悪いのは確かだ。奴らは素早く、正面から矢で射貫くのは難しい。不意打ちで射貫こうとも、レベル6のステータスでは一撃必殺とはいかないだろう。


「あー、アイリさん。別に俺は構わないよ」

「ですが……」

「本人が良いって言ってるんだから構わないだろ! さっさと行くぞ」


 最終的にコウヘイが押し切ることで行く先は白猿の森に決まった。俺としてはありがたいくらいだ。白猿の能力はかなり正確に把握できているので、適度に手を抜きやすいからな。




 白猿が出るのは森の奥だ。当然ながら道中でも別の魔物と遭遇する。俺からすれば慣れた魔物だ。倒すのに時間はかからないが、折角なので『疾風爪牙』の実力も見たい。ほどほどに手を出しつつ、彼らの戦いぶりを観察した。


「レイナ!」

「うん!」


 アイリとレイナが相手をしているのは、青甲虫。正式名称は……ブロラムとか何とかだったはず。ともかく、二人は息の合った連携で、青甲虫と戦っている。アイリが引きつけて、レイナの魔法で攻撃する形だ。レイナがとどめに放ったのは〈ウインドカッター〉という風魔法のアーツだな。


 彼女たちは基本的に二人一組で戦うことが多いようだ。魔法職であるが故に耐久力に難のあるレイナをアイリが庇いつつ敵を引きつける。それをレイナの魔法で倒すという戦術だ。


 そして、もう一人の盾役がリュウト。彼は盗賊職の俊敏さを活かして、魔物の注意を引きつけつつ、その攻撃を躱している。いわゆる回避盾だな。攻撃面では火力不足だが、パーティーにおける貢献度は高い。


 さて、残る二人、コウヘイとキョウヤだが……どうも奮わない。実力不足というよりは、相性の問題のようだ。


「苦戦しているな」

「この周辺に出現する魔物は物理職の天敵ですからね。でも、手は出さない方がいいですよ。不機嫌になりますから。それにマナは節約しないと」

「それもそうか」


 青甲虫相手に手間取る二人に助太刀するかどうか迷っていると、アイリに止められた。言われてみればもっともな言葉だ。


 俺はマナドレインが使えるので、アーツを使うことに躊躇いがない。だが、普通はマナの残量と戦闘効率を天秤にかけて慎重に使うものなのだろう。ある程度安全が確保できたなら、マナを節約して魔物を倒すのが一般的な戦術なのだ。


 そして、それこそが白猿の森を不人気たらしめる最大の要因のようだ。


 この森は青甲虫や白猿を筆頭に、素早くて物理的な耐久力が高い魔物が多い。物理アタッカーにとっては戦いづらい相手だ。攻撃は当たりづらく、当たってもダメージは少ないのだから、どうしても戦いが長引く。


 一方で、魔法攻撃は有効。だが、今度はマナ消費が問題となる。魔法職と言えども、低レベル帯ではアーツを連発とはいかない。魔法頼りの戦い方だと、必然的にマナ回復のための休息が頻繁に必要となるわけだ。


 どちらにせよ、一戦ごとにかかる時間が長くなるので、数を倒すには向かない――つまり稼げない狩り場というのが低レベル探索者の認識らしい。


 十分ほどかけてコウヘイたちはようやく青甲虫を倒した。大きな傷は一つもないが、それでも軽いダメージはもらっているらしく、アイリに治癒法術を使ってもらっている。結局マナを消費することになっているが、レイナ一人に集中するよりは二人に分散した方が良いので、判断としては間違っていないのだろう。


 適切な役割分担とマナの管理。『疾風爪牙』の戦いはしっかりと効率が考えられている。だからこそ、新人転生者の中では優秀な成果を上げているのだろう。それでも、俺に比べると戦闘時間も長い上、継戦能力も大きく劣る。やはり〈エナジードレイン〉や〈マナドレイン〉は破格の性能だということだろう。レベル差も開くわけだ。


 その後も、少しもどかしくなるペースで進み、ようやく森の奥へと辿り着いた。


「お、いたな! さあ、早速試験だ。あんたにアレが倒せるか?」


 早々にコウヘイが声を上げる。たしかに、遠方のやや開けた場所に白猿がいることは確認できた。だが――……


「様子がおかしくないか?」


 間違いなく、奴も俺たちを認識している。だというのに、こちらを睨み付けるだけで襲いかかってこないのだ。この一ヶ月、白猿を狩り続けた俺すら初めて見る行動パターンだった。


「ほら、さっさとしろよ。何なら俺が手伝ってやろう」


 警戒する俺を怖じ気づいたと勘違いしたのか、キョウヤが急かしてくる。それだけならまだしも、白猿に射かけようと、彼は矢をつがえた。


「おい!」

「キョウヤ、待って! この気配、一体だけじゃ――……」


 制止する俺とリュウトの声も一足遅く、放たれた矢は白猿へと真っ直ぐに飛んでいく。距離がある上に、視認された状態だ。白猿は余裕げに矢を避け――そして吼えた。


「なっ!? なんだ?」

「仲間を呼んでいるんだ! 群れが来るぞ!」


 狼狽の声を上げるキョウヤに、状況を知らせてやる。敵の接近を知らせる叫び。それ自体は、白猿が時々見せる行動だ。だが、それにしても呼応する声が異常に多い。


「何体……いるの?」

「まずいわね……」


 レイナとアイリは身を寄せ合って、周囲の様子を窺っている。気丈な彼女たちでも、この状況で平静を保つのは難しいようだ。その声は不安げに揺れている。


 周囲にどれだけの白猿が潜んでいたのか。吠え声が吠え声を呼び、轟音となって森に響いている。少なくとも一ヶ月で遭遇したことがないほどの、群れが潜んでいるのは間違いない。


 特に怖気を誘うのは、騒がしい中でもはっきりと聞こえる猛々しい咆哮だ。未だ姿は見えないが、ひょっとしたら白猿たちのボスでもいるのか?


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