16. とある新人探索者の噂
俺のレベルが予想外だったのか、コウヘイは動揺しているようだ。だが、すぐに気を持ち直したらしく、嘲るような笑みを浮かべた。
「わかった! アンタ、ソロと言いつつ、誰かにパワーレベリングしてもらったんだな? 良くないぞ? そんなんじゃレベルだけ上がって、実際の戦闘能力がついてこない」
パワーレベリング。ゲームであれば、高レベルプレイヤーの戦闘に混ぜてもらい経験値のおこぼれをもらってレベルアップを図る行為だ。つまり、コウヘイは「お前のレベルは、高レベル探索者の補助を受けて得たものだろう」と言っているわけだな。そう決めつけることで、受け入れがたい事実をひとまず納得させたらしい。
さて、エルネマインでもパワーレベリングができるかといえば――おそらく可能だ。
システムカードには経験値の記載がない。なので、エルネマインに経験値という概念が存在するという明確な証拠もない。だが、魔物にとどめを刺したときに、それに類するものを得ているのではないかと言われている。そして、その経験値だが、魔物を直接倒した者以外にも分配されているらしい。実際、治癒専門の術士でも、パーティー内の他のメンバーとほとんど変わらずにレベルアップするそうだ。
とはいえ、パワーレベリングの大前提として、協力してくれる高レベル探索者が必要だ。残念ながら、俺にそんな知り合いはいない。いや、俺じゃなくても同じだろう。
エルネマインにおいて、モンスターを狩るという行為は趣味や遊びではなく、収入に直結する仕事だ。普通に考えて、自分の稼ぎを減らしてまで、縁もゆかりもない駆け出しのレベリングに付き合ってくれる人間はまずいない。そういう意味では転生初日にエルネマインの説明をしてくれたハルヨシさんはかなり希有なお人好しであると言える。
「いや、俺は……」
「言い訳は必要ない。何を言っても証明できない以上無駄だ。そうだな、それじゃあ実地試験で確認してやろう。たとえ、パワーレベリングだったとしても、実力が伴っているのなら問題はないからな」
否定しようとした言葉はすぐに遮られてしまう。端から話を聞く気がないのだろう。
とはいえ、一緒に狩りをする展開にはなりそうだ。実地試験らしいが、手本を見せろとでも言えば、彼らの実力を見る機会もできるだろう。ならば、パワーレベリングだと思われても問題はないかと、それ以上は何も言わなかった。
すでに、外は暗くなり始めている。実地試験も今すぐにとはいかないので、明日、改めてギルドで落ち合うことになった。
あの場は一旦解散したものの、アイリとレイナが少し話をしたいというので、場所を変えることにした。入ったのは近場の喫茶店だ。人気店なのか客は多いが、酒場と違って落ち着いた雰囲気である。マスターは穏やかな老紳士という風貌。マスター自身は転生者ではなく、両親がそうだったらしい。
「すみませんでした、ジンヤさん」
暖かい飲み物でひと息ついたところで、アイリが謝罪する。同時に、レイナも申し訳なさそうに頭を下げた。彼女たちが謝っているのはコウヘイの態度のことだろう。
「コウヘイ君のことなら、君たちが謝る必要はないよ。態度はともかく、おかしなことを言っていたわけではないし」
むしろ、全く面識のない人間を無条件に信じる方が危うい。一ヶ月の間、全く目立つことのなかった人間が、有望株と目される自分たちと同レベルと聞かされれば何か裏があると疑ってかかるのは当然だろう。実際、裏……といえば語弊があるが、バグ職のことを考えると彼らと同じ条件とは言えない。
態度にしても、仕方がない部分はある。彼らはもともと高校生だったのだ。精神的に成熟しているとは言い難い。周囲の反応から判断するに、転生一ヶ月でレベル6というのは中々の快挙らしいので、調子に乗ってしまうのも無理もないだろう。
「今は舞い上がってしまっているようだけど、いつかは落ち着くと思うよ」
「そうだといいんですけど……」
俺のフォローも、彼女たちの心を晴らすには至らないようだ。二人して、大きなため息をついている。よほど、コウヘイの態度に思うところがあるらしい。
俺をパーティーに加えようとしたのも、彼を諫める役割を期待してのことなのかもしれないな。もし、それが事実だったとしても、有効な策とは思えないが。身近で説教されようものなら、かえって反発しそうな気がする。
「それはそうと転生一ヶ月でレベル6というのはハイペースなのかな?」
雰囲気を変えるためにも別の話題を振った。周囲の反応から概ね察しがついているが、アイリたちの口から直接聞きたいと思っていたのでちょうど良い。
「レベル4くらいが平均的だと聞いています。レベル6まで上がるのは珍しいらしいですね。とはいえ、私たちの他にもレベル6パーティーはいますし、過去にはもっと成長が早い探索者もいたそうです」
沈んだ表情を微笑に変えて、アイリが答える。考える素振りすらなく淀みなく答えたところを見ると、彼女も自分の才能を把握するためにきっちりと調べたのだろう。
「ジンヤさんみたいに、知られていないだけの人も……いると思います」
さらに、呟くような声でレイナが補足した。
秘匿する者は間違いなくいるだろう。ステータスは基本的に人に明かすものではないのだ。互いの状況を話すついでにレベルくらいは教えあう探索者は多いようだが、全員がそうではあるまい。まあ、普通は狩り場なんかで概ね想像がつくらしいが。
「同期にも明らかにレベルが高そうな人もいますしね!」
「へえ? そうなんだ?」
アイリが言うには、その手の探索者が同期にもいるらしい。興味を引かれて、軽い気持ちで話を聞いたのがマズかったのか。
曰く、その探索者はアイリたちと同時期に目撃されはじめた。ソロで活動しているのか、常に単独でいるところを目撃されている。隠密能力に優れていて、近くにいても視認できないことがある。頻繁にザックバルの毛皮を売却しに現れることから、活動歴に比して高レベルである可能性が高い、などなど。とても心当たりのある特徴が上がってくる。
そして、ついに確定的な言葉を聞いてしまった。
「ファントムっていう人なんですけどね」
やはり、その探索者とはファントムのことだったらしい。
「そ、そうなんだね? 変わった名前だね」
「それも不思議なんですよね。名前は自動的に決まっちゃいますから、変更はできませんし」
「正体を隠した御使いなんじゃないかって……噂もあります」
「へ、へぇ……?」
初日の宿屋で“ミツカイ・セプテト”という名前で決済してしまったので、それを打ち消すようにインパクトのある名前にしたのだが……失敗だったか?




