14. 一ヶ月ぶりの再会
アースリルにやってきた。仮面をつけずに歩くことは滅多にないので道行く人々の反応が新鮮だ。夕刻が近いとはいえ、まだ明るい時分だというのに、あからさまに距離を取られた上でこちらを見てひそひそと内緒話をされないとは。
……いや、当たり前か。いかんな、感覚がバグっている。怪人スタイルのときの反応を普通と思ってはいけない。
今は普段の格好から仮面と外套を外した状態。長剣を腰に佩いて革鎧を身に着けているので、おそらくは戦士のような近接戦闘職に見られることだろう。そのまま戦士を装ってもいいのだが、それでは魔法技能が使いづらいので魔法戦士に偽装するつもりだ。
ちなみに、システムカードの表記通りに盗賊を名乗れば偽装の必要はないのだが、あえて別の戦闘職業に偽装するのは、バグ盗賊に【気配察知】の特性がないからだ。盗賊に求められる能力の一つが索敵能力なので、役割を果たせなければ怪しまれてしまう。
システムカードでの表記はこんな感じだ。
名 前:ジンヤ(偽装)
戦闘職業:魔法戦士(偽装)
レベル:10
本名なのに“偽装”がついていることに複雑な思いはあるが、俺以外には見えないらしいから気にすまい。
さて、俺がやってきたのは探索者のギルドの建物だ。
ギルドの主な役割は、ドロップアイテムの買い取り。素材であろうと、武器の類だろうと、魔物からドロップしたものは何でも買い取ってくれる。便利な反面、手数料を取られるので売却価格は相場よりも安めだ。
それでも、多くの探索者はギルドでの売却を選ぶ。何故なら、探索者のメイン収入源はあくまでクレアテ結晶体だからだ。
ドロップアイテムの入手には運が絡む。臨時収入としては嬉しいが、日常的な収入源とするには不安定と言わざるを得ない。一方で、クレアテ結晶体は魔物を倒すと確定で入手できるので、非常に安定している。収入を増やす方法もわかりやすい。単純に多くの魔物を倒せば良いのだから。
結果として、ドロップアイテムの取引交渉に時間をかけるよりも、その時間で魔物を倒す方が、多くの場合で収入は増える。自分の持つ素材を求める商人に心当たりがなければそもそも交渉すらできないので、直接交渉はハードルが高いのだ。
そんなわけで、よほど特殊な事情がない限り、ほとんどの探索者はギルドを訪れる。その結果として生じるのが、ギルドの副次的な役割だ。
多くの探索者が集まるということは、仲間を探すにも都合が良いと言うこと。ギルド自体が仲間の斡旋をすることはないが、酒場を併設して探索者たちが交流できる場所を提供している。システムカードやギルドの制度としてパーティーという概念があるわけではないが、探索効率の観点から複数人で組むことを推奨しているらしい。
つまり、ギルドが仲間探しの場所としても機能しているわけだ。今日の俺の目的は、こちらだな。
買い取り待ちの探索者で混雑する受付カウンターを横目に隣の建物に入ると、そちらも多くの探索者で賑わっている。俺のように仲間を探している者もいれば、次の探索の相談なんかをしているパーティーもいるようだ。
さて、誰に声をかけるか。
俺の目的は、他の探索者と比較して、自分の能力を把握すること。俺と同期――転生歴一ヶ月ほどの探索者のパーティーが望ましい。さらに言えば、魔法戦士がいないパーティーが良いだろうな。役割が被るし、本物がいると偽装がバレる恐れがある。
「ジンヤさん!」
「ん?」
酒場をぐるりと見回して、良さそうなパーティーを見繕っていると、ふいに背後から声をかけられた。日頃はファントムとして活動しているので、俺に知り合いはほとんどいないはずなのに。
不思議に思いながら振りかえると、そこには見覚えのある少女たちが立っていた。キャラメイクのときに、相談に乗った二人だ。
「ええと、アイリさんとレイナさん……だったかな?」
「はい、そうです!」
「お久しぶりです」
「ああ、久しぶりだね」
アイリは革鎧を身につけた前衛職の格好をしている。戦闘職業は聖騎士に設定したと記憶している。レイナは特殊な刺繍が施された服装で、両手で抱くように杖を持っている。彼女の戦闘職業は精霊術士だったはず。
「今までどうしてたんですか? 全然見かけないから心配してたんですよ」
「……会えてホッとしました」
叱責するような口調だが、その言葉に偽りはないようだ。アイリの表情には安堵したような色が見て取れる。それは、レイナも同じだった。
「そうだったのか。すまないね」
二人の様子に少しだけ申し訳なくなる。実は、彼女たちの姿は何度か見かけていたのだ。
相談を聞いた手前、二人のことは少し気にしていた。が、無事パーティーを組み、問題なく活動していたので声をかけなかったのだ。
いや、どちらかといえば、怪人スタイルだったので声をかけづらかったという理由が大きいか。さすがに、あの格好が怪しいという自覚はある。もし話し掛けていたら、二人も迷惑していたことだろう。おそらく。
とはいえ、無事を伝えるくらいはしておけば良かったか。まさか、二人が俺を気にかけていたとは思わなかった。少し相談を聞いただけの男を気にかけるとは、彼女たちはなかなかお人好しなのかもしれない。
だが、まあ心配くらいするか。よく考えれば、彼女たちは俺のキャラメイクにトラブルが起きていたことを知っていたわけだからな。だとすれば、余計に声をかけてあげるべきだったという結論になるわけだが……過ぎたことを気にしても仕方あるまい。
「ジンヤさんは今までどうしてたんですか?」
「どうって……、普通に魔物を狩っていたよ」
「そうなんですか? それにしては全然見かけませんでしたけど……」
「あ、ああ、そうだね」
アイリの疑問は当然といえば当然のものだ。
このエルネマインには幾つもの街が存在している。それでも、俺たちのように地球から転生したばかりの駆け出し探索者が稼げる拠点となるとアースリルくらいのものだ。その上、探索者として活動するならギルドを利用しない者はほとんどいない。一ヶ月も活動をして一度も見かけないとなると不思議に思うのは無理もないだろう。
だというのに、その辺りの言い訳は全く考えていなかった。俺の動向を気にする人間などいないだろうと高を括っていたのだ。
幸いなことに、彼女たちに俺の曖昧な返事を気にした様子はない。それどころか、他に気がかりなことがあるのかソワソワとしている。
「アイリ」
「うん、わかってる」
レイナがアイリの腕を引っ張りながら名前を呼ぶ。それで決心がついたのか、アイリが俺の目を見て言った。
「あの、ジンヤさん! もし、ジンヤさんがソロで活動しているなら、私たちのパーティーに入りませんか?」
「え、俺?」
「そうです」
唐突な提案に、間抜けにも問い返してしまった。そのくらい意外な提案だったのだ。
パーティー人数に制限はないが、多くは四人前後で組むことが多い。何故なら、人数が増えれば一人当たりの取り分が減るからだ。無論、魔物の討伐数も増やせれば問題ないが、それも簡単ではない。人が増えたところで移動時間は縮まらないし、移動距離は伸びないからだ。安全と収入を天秤にかけて、バランスが取れるのが四人前後ということらしい。
以前見かけた彼女たちのパーティーは五人だったはず。となると、増員する必要はないように思える。
とはいえ、提案自体は俺にとっても都合がいい。彼女たちは同級生たちとパーティーを組んでいたはず。つまり、全員、俺と同時期に転生してきた者たちだ。能力を比較するには都合が良い。
それに俺が欲しているのは能力を探るための一時的な仲間だ。できれば、目的を果たした後は、適当なところでフェードアウトしたい。そう言う意味でも人数が多いのは都合が良かった。抜けたいと言い出しても、強く引き留められることはないだろうからな。




