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12. もの問いたげな視線

 御使い男は現れるや否や、こちらを非難してくる。もちろん、俺に心当たりなどない。むしろ、文句が言いたいのは俺の方だ。ステータスの名前表示がコイツのせいでおかしくなってしまったのだから。


「いったい、何の話だ?」

「何の話だ、じゃないよ! 君、僕の名前で支払いをしたでしょ!? 目立つ真似するなって言ったじゃん!」

「はぁ?」


 喚く御使い男から根気よく話を聞いて、事情は概ね理解できた。どうやら、システムカードで決済をするとき、カード所有者の名前が履歴として残るらしい。そして、ついさっき、俺は宿泊料をシステムカードで支払った。当然、“ミツカイ・セプテト”という名が残ったことだろう。カウンターの男性が、騒いでいたのもそれが原因に違いない。つまり――……


「全部、お前が悪い!」

「なんでぇ!?」


 突きつけた指の先で、セプテトが大袈裟に驚いている。どうやら、まるで事情を理解していないらしい。


「ほらよ」

「え、システムカード? これが?」

「いいから、ステータスを見てみろ」

「んー?」


 投げつけたシステムカードを受け取った状態で間抜け面を晒しているセプテトに、ステータスを確認するように指示する。首を傾げながらも指示に従ったセプテトは、すぐに素っ頓狂な声を上げた。


「何これぇ!? 僕の名前じゃん! どうなってるの?」

「いや、それはこっちの台詞なんだが。お前が完了処理をしたせいでこうなったんじゃないのか?」

「……あ!」


 騒ぐセプテトに俺の推測を聞かせてやると、たちまち静かになった。奴の顔には“やばい”と書いてある。正解だったらしい。


「つまり、お前が悪い。そうだろ?」

「……はい」


 確認を取ると、セプテトは項垂れて失敗を認めた。もはや、御使いとしての威厳などないが……まあ、最初から無かったか。


「で、決済のときの名前は、神がチェックしているのか?」

「いや、クレアドルサ様が直接ご覧になることはないよ。見るとしたら、僕ら御使いかな。普段から細かくチェックするわけじゃないけどね」

「そこにお前の名前があるとマズいわけか」

「うん。僕が買い物なんてするわけないし、何事かと思って調べられると思う」


 調べられると……やはり諸々露呈するのだろうな。名前の件がセプテトの不手際だとしても、それが起こる状況が特殊すぎる。突き詰めていけば、俺の戦闘職業がバグ盗賊であることもバレてしまうことだろう。もし、それが神へと報告されると、俺にも被害が及ぶわけか。


「状況はわかった。解決策はあるんだよな? 俺が自らの意思でお前の名前を騙ったと勘違いしていたわけだから」


 セプテトは俺の名前が“ミツカイ・セプテト”になっていたことを知らなかった。だというのに、俺がその名前を騙ったと思い込んだからには、それを成す方法が存在しているはずだ。


 いや、実を言えば、そうであって欲しいという願望に過ぎないのだが。セプテトが無根拠に決めつけるポンコツである可能性も否定できないわけだし。


 幸いなことに、セプテトはそこまでポンコツではなかったようだ。


「ああ、うん。君のスキルに幻惑ってあるでしょ? その初期アーツでカード情報の偽装ができるよ」

「そうなのか?」


 そういえば、幻惑スキルについては気にしてなかったな。返してもらったカードで確認すれば、幻惑スキルで扱える〈誤魔化す〉というアーツの記載があった。


「これか。どうやって使うんだ?」

「カードを手に持って、偽装したい情報を念じれば良いよ」

「ふーん?」


 言われた通りに試してみると、たしかに表記が変わった。



名  前:ハヤカワ ジンヤ(偽装)

戦闘職業:盗賊

レベル:3



「偽装と出ているが?」

「それは本人しか見えない……はず、だよ?」


 表記上の“偽装”の文字が気になって尋ねると、返ってきたのはどうにも頼りない言葉。仕方なくセプテトにも確認させたところ、偽装の表記はたしかに見えていないらしい。


「あ、でも、エルネマインじゃ貴族でなければ、家名は持たないよ。だから、君だとカードの表記はジンヤになるはず」

「なるほど」


 それは聞いておいてよかった。準平民のカードで家名がついていたら、また騒ぎになっていたことだろう。


「だが、このアーツで決済システムを欺くことができるのか?」

「それは大丈夫。ばっちりテストしてあるから!」


 満面の笑みで答えるセプテトに頭痛を覚える。何故、本来選択できない大怪盗のアーツのテストが万全なのか。それならば、キャラメイク強制終了時のバグとか修正すべきところはあったように思える。が、もし修正されていたならば、能力資質最低でスキルも個人特性も無い状態だったかもしれないと思うと、指摘もしづらい。


「まあ、いい。このアーツでできるのは表記を変えることだけか?」

「そうだよ。所持エルネや借金額の数字も表記上は変えられるけど、実際には変わってないから注意してね。特に、決済しようとして不足した、なんてことは絶対無いように。そんなことになると、ほぼ間違いなく御使いのチェックが入るから」


 詳細を聞いてみたが、カードの表記を変えるだけのアーツらしい。とはいえ、バグ職の身としてはありがたい能力だ。基本的に自分のステータスを開示することはないが、絶対とは言い切れないからな。偽装手段があるのは心強い。


 マナ消費は書き換え箇所ごとに5消費する。表記を変えるだけにしては消費が重いが、取り消さない限り効果は持続するので問題はなさそうだ。


「あ、あの……、食事をお持ちしましたが……」


 アーツの使い道について考えている最中、控えめなノックのあと、声がかけられた。声の主は、カウンターの男性だろう。言葉遣いが妙に丁寧なのは……決済履歴に残った名前のせいだろうな。


 責めるような視線をセプテトに送ると、奴は手を合わせたポーズで空間の歪みに飲み込まれていくところだった。逃げたらしい。


 いや、たしかに、この場にいられると余計にややこしくなるのだが。


「入ってくれ」


 頭を抱えたい衝動を抑えつけつつ、ドアの向こうに声をかける。男性が食事を置いて部屋を出て行くまで、彼のもの問いたげな視線にただただ耐えるしかなかった。

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