9.本末転倒
ササレに言われた通り、その日からメイはぱったりと来なくなった。
次の日も、そのまた次の日も。1週間、1か月経っても、メイは影1つ見せてくれなかった。
メイが来なくなればぼくの生活は元通りな筈だった。起きたら動物達とお喋りして、日の当たる縁側で本を読んだり日向ぼっこをしたりして、カコが来た日は2柱でご飯を食べる。前と変わらない。その筈なのに、何故かそのどれもに物足りなさを感じている。
アイツのいう通り、自分や神とは何かってのも考えてもみた。でもそんな哲学的なことに対する答えをぼくなんかが見出せる訳もなく、ただぼんやりと時の流れの前に佇むしかなかった。
それからまた数日後。
太陽も高く昇り、静かで暖かい時間帯。ぼくはいつも通り太陽が眩しくない縁側に腰を掛けていた。隣では最近毎日ここへ来ているカコがお茶を飲んでいる。
信仰の多い神社なのに空けている時間が多くていいのかと聞けば、狛犬達に願いの記憶を任せているから大丈夫らしい。カコの神社の狛犬達はとても真面目で頼んだことは完璧に遂行してくれるらしく、カコも安心して神社を任せられるんだって。ウチの殆ど無い信仰をより一層下げてきそうな狛狐とは大違いだ。
そして今日はカコだけでなく、もう1柱、神がぼく達の横に腰を掛けていた。というより、寝そべっていた。……イミナジだ。カコよりも信仰が多いイミナジも、自分が神社を空けている際は神使に番を頼んだり、境内にある祠を通して管理したりしてるらしい。
「……で、カコはともかく、イミナジは何しに来たの?」
面倒くさがりなイミナジが来たってことは、どうせまたぼくやメイのことだろうけど。もしかして、最近メイが来なくなっちゃったことについて何か知ってるのかな。
「どうせ察し付いてんだろ? 態々聞くなよなぁ。面倒くせぇ」
「具体的な内容まで全部察せる訳ないじゃんか。態々来たんだったら教えてよ」
「あァ?」
「こういう問答を続ける方が面倒だと思うんだけど」
そう言うと、イミナジは大きなため息を吐いてから舌打ちをした。
「今日はロトの方が1枚上手でしたね」
「これだから面倒くせぇガキどもは。ったくよ~、説明すれぁ良いんだろぉ、説明すれァ」
縁側に着けていた付けていた背中をはがし、重たそうに腰をあげる。不機嫌そうな顔でぼくを見下ろしながらイミナジは言った。
「ロト、お前のせいで面倒なことになってるぞ」
「……面倒なこと?」
「最近、岸花メイって人間のガキが来なくなったんだってなあ」
空気が重くなったのを感じながら、静かに頷く。
「ぼくが自分と神について理解しないと2度と会えないって、ササレが」
「嗚呼、その通りだ。で? お前はちゃんと分かったのかぁ」
首を横に振る。イミナジは再び溜息を吐いた。
「ま、だろうなぁ。分かりきってんのに面倒なことしちまった。お前はササレの野郎の言葉の意味を考えると同時に、毎日毎日あの人間のガキに会うのを願ったろ」
今度は縦に振る。
「それが悪ぃんだよ」
「……どういうこと?」
立ってるのもそろそろ面倒になったのか、本日3度目ともなる溜息を吐きながら、再び縁側にドカッという音を立てて寝そべった。
「本来神は自分の神社へ参拝しに来た奴らのために力を使うだろ。だけどよぉ、考えたこと無かったか? 自分のために使ったらどうなるか」
それは、確かに。言われてみれば考えたこともなかった。そもそも力を使う理由が無かったし。そういえば、カコが自分のために力を使っているのも見たこと無いかも知れない。
カコの力は相呼守の名の通り、参拝者が会いたい人を“呼ぶ”ことが出来る力だ。でも時たま「あの子に会いたかったけど、いないなら仕方ない」と言っていた覚えがある。何か理由があったのだろうか。
「自分のために使うと、どうなるの?」
「カコ~、説明してやれ」
丸投げって、面倒くさがりめ。
「私ですか……。まあ、答えを言うと、その時々の神の精神状態によると言えるわ。自分のために力を使ったとき、気分が高揚してたら使った力が暴発する。私の場合だったら、力で呼ばれた子が私から離れられなくなったりするんじゃないかしら」
「へえ、じゃあ気分が沈んでたら?」
「呪いが出る」
「呪い?」
「そ。こっちは分かりやすくて、どんな神でも共通して同じ結果になるわ。昔から存在する偉大な神でも、ロトみたいに無名の神でもね」
瞬間、ぼくの頭に嫌な映像が流れた。それは出来れば、現実にならないでほしいものだった。だって……。
「メイに会いたいなって思ってたのは事実だけど、その為に力を使ってないよ!」
しかし、その言葉はイミナジによって一蹴される。
「アホ、カコやオレみたいに固有の力が無え奴ぁ、無意識に作用させちまうんだよ。っつっても、弱っちいから残るのは呪いだけだけどな」
「ロトはあの子に会いたいってずーっと思ってたでしょ? だから、無意識に“自分の為”に力を使っちゃったってこと」
今、ようやく分かった。ぼくが必要無いって決めつけて破り続けてた規則の存在理由が。メイがいつになっても来てくれない理由が。
ぼくのせいで、ぼくが、メイを、メイを……。
「メイを、呪った?」
カコがぼくの耳に口を寄せて言った。
「だから言ったでしょ? 神の力はロトが思うより人間に厄があるんだって」
「その呪いがどんなのかは知らねえがぁ、自分が呪われたくねえなら、罰を受けることだなあ。確か、今の罰則は……忘れちまったなぁ。昔ァ、火だったがな」
「どのくらい昔の話をしてるんですか。火と水の罰は大昔に変えられてますよ」
「あー? そうだっけか? 覚えなおすのも面倒で忘れちまったなぁ。分かりやすくて良かったじゃねえか。罪を穢れとしそれを清めるって意味で火炙りと水責めは。パッと終わって楽だろ」
「私も生まれてないので知りませんし恐ろしいですよ。今はもうちょっと軽かった筈です」
カコも生まれてないってことはぼくが知らなくても当然か……。昔で良かった、そんな罰則。だってイミナジが言った意味でやられてたんだったら、今では注意くらいで済まされる罪も即火あぶりって感じだったんだろうし。
それが良かったなんて言えるのは、きっとイミナジが面倒くさがりで神としても必要最低限のことしかしてなくって、罪を犯す心配が無かったからなんだろうな。
いや、でも、メイを呪ったのなら……。
「あれ、でも今の罰則ってなんでしたっけ。罪の種類によって罰も多様になって来てるから、ロトの場合はどんなだったか」
「さあなぁ」
「____知りたいか?」
今、この場にいる3柱以外の声が返答した。この声には聞き覚えがある。何とも機を伺ったみたいな現れ方だ。
ぼく達は声のした方に顔を向ける。
「ササレ……」
そこには、この前と同じようにササレが赤い鳥居の下に立っていた。
「ササレさん、この間ぶりです」
「よ~、何しに来たんだよ」
顔を顰めるぼくを他所に2柱がアイツに声をかける。口ぶりからして、2柱はササレと顔見知りらしい。
「ロトがようやく事の重大さに気付いたようだからな。記念に“手土産”を持ってきてやったんだ」
それを聞いて、面倒臭い野郎だ、とイミナジが悪態をついた。カコは強張った顔をしている。
よく見るとササレは腕を組んでいるように見えて、両腕に、着物の袖に隠れてよく見えないが何かを抱えていた。
「何を抱えてるの?」
何となく気になってしまい、ササレにそうやって聞いてみる。しかし、アイツは何故か口角を上げるだけで何にも言わない。
「ねえ何を抱えてるの?」
さっきまでのことで気が立ってしまったぼくは、語気を強めて再び問いかけた。すると、ササレはようやく動き出し、それを隠す主な原因となっていた左腕をどかして右腕のみでそれを支えた。
腕がどいたおかげで、あまり見えなかったそれが見えるようになる。ササレが抱えていたもの。____メイだった。
瞬間、ぼくはササレに……いや、メイに飛びつこうとした。
「メイ!」
ぼくはそう叫びながらササレの右腕をつかみメイの状態を見る。眠っているのか気を失っているのか、ただ目を閉じたままぐったりとしていることは分かる。
「はぁー。ササレも面倒なことをするなぁ。だがなぁ、ロト。この面倒はお前の責任だ。後のことは自分で考えるんだなぁ。必要なものはそいつの友人に聞け」
そう言い残して、イミナジはぼく達の横を通り過ぎてから消えた。
「ねぇ! メイ、どうしたの!?」
イミナジに返事をする余裕もなく、ぼくは必死にメイの名前を呼ぶ。それに合わせて、掴んでいる腕も揺れる。
ぼくのせいで、ぼくが呪いをかけたから! ぼくがメイに会いたいって思ったから……!
どうしよう、このままメイが目覚めなかったら。どうやって呪いは解けるんだろう。ぼくが罰を受ければメイは助かる?
「メイ! ねえ、メイったら!」
もしこれが本棚であれば、すべての本を落としてしまいそうな程揺すっていた思う。眠っている理由が呪いなのであれば、こんなことで起きる訳がないのに。実際にいくら呼び掛けてもメイは起きない。
起きないという事実を確認させられるたび、余計に不安が増してより一層強く揺する。
どうしよう、どうしよう、どうしよう。そんな言葉が頭の中を支配する。焦りと不安でぐちゃぐちゃになりそうで苦しくて、でも1番苦しいのはメイって分かってるから、ぼくが悪いって分かってるから何も言えなくて。
そんなぼくに対して、ササレは腕ごと揺すられても足をちょっとずつ動かすくらいだった。
だけど、ぼくが掴んでる右腕は違かった。何度も揺らしているうちに、耐えきれずササレの右腕が押されてしまった。____押されてしまった?
ぼくが掴んでいた腕は、メイを抱えていたにも関わらずササレの胴体にぶつかった。
「え、え? どういうこと?」
メイはそこにいる筈なのに、まるでお化けみたいに透けてて、ササレの腕による支えが無くてもその場に留まっている。メイがお化けになった? いやそんなまさか。触って透けるお化けをササレはどうやって連れて来るんだよ。
ぼくは混乱した。頭の中が疑問符だらけでぐちゃぐちゃになる。
そんなぼくの様子を見かねてか、カコが後ろから説明してくれた。
「ロト、ササレさんは私達よりもウンと位の高い神なの。役割は学問だけど、ササレさん辺りになると、幻術を操れるようになるのよ」
カコの説明をササレが引き継ぐ。
「その通り。この力は参拝者の願いに対して上手く扱うことが出来れば頗る便利な力だ。やろうと思えばカコの扱う能力に似せたり、本来なら逢うことのなかった者に会わせ、参拝者の精神の安寧を図ることが出来る」
てことは、今ここにいるメイは本物じゃなくてササレによる幻ってこと?
「便利ではあるが、使い方によっては今貴様にやってみせた様に惑に使うことも出来る」
惑、コトが悪戯をしてきた時に惑使ってやり返してみろって言われたのを覚えてる。神の力による子供騙しの悪戯全般を指してた気がする。
「惑に使えば、今の貴様のみならず、より多くの神々を混乱に落とし込むことが出来るだろう。子供騙しと言っても、使い手によってはかなり危険だ。故に、貴様のような私情で規則を乱すような愚か者では、決して扱うことが出来ないようになっているのだ!」
「……何だよ、じゃあただぼくに嫌がらせをしただけか!? 位が上の奴は下の奴に対して最悪な揶揄い方をして良いっていう規則があるんだな!」
本気で質の悪い嫌がらせだ。何でこんなのが信仰されてんのさ。そう思いながら嚙みつくと、ササレは鼻で笑いながら言ってきた。
「ふん、口だけはよく回るようだな。頭は全く回っていないようだが! しかし、俺がした惑はあくまでもあの娘がここにいる、ということだけだ。……つまり」
「メイが、今どっかで本当に倒れてるってこと?」
「その通り! ヒントを出せば分かるじゃないか!」
言葉的には褒められている筈だけど、この状況でのそれは、十中八九ぼくを煽るためだろう。本当に神の神経を逆撫でする奴だ。ササレは腹を立てるぼくなんてお構いなしに続ける。
「してロト、貴様はこの娘を助けたいか?」
「当たり前だろ!」
即答すると、こいつはまた鼻で笑ってきた。そして、本当に不快なことを言った。
「あの娘は見捨てろ。ロト」
「……何で」
「何でだと? 当たり前だろう。今までの重大な規則違反の罰だ」
「は? 規則違反をしたのはぼくだけだ。メイはなんの規則も破ってないじゃん! なのに何でメイを見捨てなきゃいけないんだよ。ぼくがメイを呪ってしまったのなら、ぼく自身が罰を受ければメイは助かっても良いだろ!」
言うと、ササレは左手を顎に添え、考える素振りを見せた。
「ふむ、そうだな。……であれば、その娘は今まで友人を心配させてきた罪の罰、ということにでもするか?」
「ふざけんな!」
叫んだ勢いで、掴んだままだった腕が揺らされササレもよろける。
「チッ。全く礼儀のなっていない奴だな、貴様は」
そう不機嫌そうに言ってくるササレ。良い気味だ。これに対してぼくはもっと何か言ってやろうと思った。しかし、それは思っただけで実際にはできなかった。
先にカコが口を開いたからだった。
「ロト、助けたい気持ちは分からない訳でもないわ。でも、メイちゃん以外にも呪いや厄を被る子はたくさんいる。貴方以外にも無意識に人を呪ってしまう神はいくらでもいるからね。それは分かるでしょう?」
「……うん」
「にもかかわらず、ただでさえ規則違反をしてメイちゃんと関わってたロトがその子を救うとなると、それは明らかな贔屓で、不平等なの。何でルールを破った上に救いたい人だけ救うのってなるでしょ? だから、諦めて」
「そんなの、そんなの納得行かない。ぼくのせいでメイが弱ってるんだったらぼくが助けるのが筋でしょ! 本にだってそう書いてあった!」
言い終わると同時に、以前にもこんなふうに怒鳴りながら反論してカコを傷つけてしまったことがあるのを思い出した。____やばい。
そう思って振り返ると、カコが今まで抑えていたものが、爆発する音がした。
「本当に貴方はいつもいつも自分勝手なことばかり……。あのねえ、自分のことすら大事にできない貴方が誰かを救うなんて出来る訳ないでしょう! かっこつけてんじゃないわよ。私が今何でその子を諦めてって言ったか分かんない? その贔屓によって生まれるのも規則違反だからよ! その子は1度でも貴方に救いを求めた? 不可抗力とはいえ求めてないでしょ? 救いを求めてない人間に力を使うのだって、重大な規則違反なの。そんなことも知らないで一丁前に偉そうなこと言ってんじゃないわよ! もうこれ以上は貴方の身の安全を保障できないわ。これ聞いて自分はどうなっても良いからこの子を救いたいって思った? 私からすれば冗談じゃないわ。ロトが救われるならこの子なんてどうなっても良い! 手遅れになって死んでしまえば良い!」
そこまで言って、息を切らすカコ。その目には涙が浮かんでいる。カコには今までに何度も叱られたことがあったけど、ここまで感情的に怒ったことなんて1度だって無い。いつもだったらもっと、落ち着いて、怒っててもぼくがしっかり理解出来るようにしてた。
だけど今のそれは、傷口が痛いって泣き叫ぶような感じで……。それだけ、ぼくはずっとカコを傷付けてたということがすぐに分かるものだった。
それが分かると罪悪感が込み上げてきて、それ抜きにも言い返すなんて出来る筈も無く、ただただ黙っているしか出来なかった。
少しの沈黙の中、最初に口を開いたのはササレだった。
「はっはっは! 弱気な娘だと思っていたが、カコもそのくらいのことは言えるではないか!」
ただ死んでしまえば良いという言葉は言霊になり、それこそ呪いを発してしまいかねないからってちょっとばかりの注意を付け足した。
「良いか、ロト。この状況下においてはカコの言っていることが正しい。あの娘は貴様にも他の神にも救いを求めていない。つまり信仰が無いのだ」
「……うん」
「信仰無き者に俺達の力は本来届かない。信仰も無ければ特段善行を重ねていない者に我々の力を使って救うとなれば、それは何度も言うように“不平等”なのだ。このまま無理にあの娘を救おうとしたところで窮途末路に変わりはない。むしろ本末転倒だ」
「あの子にかかるだけで終わった呪いが、今度はロトにもかかっちゃうだけよ。だったらどちらか一方が助かった方が良い」
「カコ、言って過ぎるなよ。イミナジではないが、お前まで呪いが出れば面倒だ」
すみませんと、カコは涙を拭いながら細い声で言う。
でも、やっぱりこのままメイを見捨てなきゃいけないのだろうか。メイだけは助からないのだろうか。でもそしたらカコはどうする。……人間のお医者さんはすごいって動物達からよく聞くけど、そんな呪いすら解くことが出来るのとかいないのかな。
厄除けの神にでも手伝ってもらってる人間とかだったら出来る気もするけど。
……あれ、そういえばさっき、イミナジが去り際に「必要なものはそいつの友人に聞け」って言ってなかったっけ。面倒くさがりなイミナジは何に必要なものなのかを教えてくれなかったけど、もしかして、「呪いを解くのに必要なもの」ってことだったりしないかな。
「ね、ねえ、そのなんだけど。ぼくが直接メイを助けるのが無理なら、メイの友人のコヨノって子は駄目かな」
「ほう、というと?」
「ほら、さっきイミナジが言ってたやつ。メイの友人であるコヨノがイミナジからその、イミナジから解呪のための何かを受け取ったとしたらさ」
「本当に受け取っていたとして、どうやってそれを使わせるんだ? 力を使って誘導することも、現人神になり教えることも規則に反するぞ?」
「それは……えっと、動物達に協力してもらう」
「どうやって」
「言葉が分かんなくても引っ張ったりして手伝ってもらったり……」
「随分と御伽噺にでも出てきそうなやり方だな。そもそもあの臆病娘が得体の知れないものを己の友人に使用すると思うのか?」
イミナジのことだから説明も無しに物を押し付けたに決まっている、とまで付け足されると、ぼくは簡単に言い淀んでしまった。せっかく振り絞って出した案だったのに。というか接触が不可だっていうのに何であんなこと言ったんだあいつ。本当に苦手だ。あいつも嫌がらせのつもりで言ってきたのかな。面倒くさがりのくせに。
ぼくは感情が顔に出やすいのだろう。いつの間にか寄せていた眉間のシワに、ササレが指を差し込んで来てぐいと押してくる。
「本当にお前は、口が回っても頭は全く回らないようだな」
そう言って、もう何度目かになる溜息を大きくこぼした。
「頭の回らぬ阿呆に知恵を授けてやるのも俺の仕事だからな。どうしても、お前があの娘を救いたいというなら1つだけ手がある」
「ササレさん!」
カコが泣きながら叫んでササレを制止する。ササレが何を言うか察しがついているのだろうか。止めるってことはカコにとってあまり良くないこと、また心配をかけてしまいそうなものなのかもしれないけど……。
ササレはカコの制止も聞かず続けた。
「もし、もしお前が人間になるというのであれば、今まで俺やカコが話したことは全てひっくり返る」