6.少女との帰路
辺りが薄暗くなり、太陽も西に沈もうとしている頃。メイとコヨノは一緒に同じの通学路を歩いていた。
「メイちゃん、アレルギーは大丈夫だった?」
「大丈夫大丈夫! あの後ちょっと咳しただけだったでしょ?」
ロトとコトが神社に帰った後、彼女らの小学校内では、メイが軽く咳き込みコヨノが大袈裟に心配してしまい、ちょっとした騒ぎになっていた。
「全くコヨノちゃんは心配性だなあ」
先の出来事を思い出したのか、メイはクスリと笑いながら軽口を叩く。
「メイちゃんがいつも無茶なことばかりするからでしょ……⁉︎」
しかしコヨノにとってそれは笑えないおふざけだったようで、メイが予想していたであろう反応とは逆に、大きいとはいえない声を荒げた。
というのも、メイは以前にアレルギーが原因で入院をしたことがあったのだ。その時も先の体育の時間と同じくコヨノに止められていたのだが、「大丈夫大丈夫!」と反対を押し切って触り続け、結果次の日に入院してしまった。
それは完全にメイの自業自得なのだが、本人が大丈夫と言うのならと強く止めなかったコヨノは、責任を感じてそれが今もちょっぴりトラウマになってしまっている。
メイもこう言われてしまうと何も言い返せない。何故なら彼女はここ最近、アレルギーの動物達を触る以外にも“無茶なこと”ばかりしているという自覚があった為だ。とはいえ、好奇心に負けてしまうのかその“無茶”は一向に改善する様子が無い。
「それにこの間だって、木登りして落ちそうになってたじゃん」
この木登りも危ないからやめようと言われていたのにも関わらず、言うことを聞かないでやっていたことだ。足を踏み外して落ちそうになりコヨノが悲鳴を上げたのは、2人にとっても記憶に新しい。
「いや、あれは事故じゃん」
「だからその事故を防ぐ努力をしようって言ってるの……!」
「うっ……。気を付けてるよ」
何十回と聞いて何十回と果たされなかったその言葉にコヨノは納得できる筈もなく、その意を示すように軽くメイを睨みつけた。
その目に弱く居た堪れない気分になったメイは紛らわすために話題を変えようと試みる。
「に、にしてもさー、今日の狐ってすっごいどこかで見たことある様な気がするんだよねぇ」
しかし、メイには急に話題を変えて誤魔化す能力は無い。
「どこか……って?」
「この間コヨノちゃんと2人で行った行った神社ってさ、稲荷神社だったよね!」
バッという音がなりそうな勢いでコヨノの方を見て聞くと、コヨノはゆっくりと頷く。
「もしかしてさ、今日の狐ってその神社から来たんじゃない? 狛狐にもすっごい似てたし!」
「……さぁ」
「もう1回行ってみようよ!」
「言うと思った! 絶対嫌だよ! メイちゃん今の話もう忘れちゃったの⁉︎」
話題を変えるつもりが1周回って戻ってきてしまうことは、メイの頭ではよくあることだった。
「動物達が近づいてきても触らないから……」
「そんなこと言って触って幼稚園の頃何度も入院したくせに!」
「いつの話してるの?」
「そ、そもそもあの神社、なんか変な感じして怖いもん……!」
「えー? 変って何が変なのさぁ」
「上手く説明できないけど、何かお化けの住処みたいな、生きてる感じがしない場所っていうか……」
「どう言うこと? コヨノちゃんは確かにめっちゃ怖がりだし、お化けが嫌いなのは分かるけど、あんな神社にまでお化けがいると思ってるの? 夜に行く訳でもないのに……」
「と、とにかく! 怖いから私は行かないよ!」
「えーっ!」
そう言いながらメイは頬を鳴らす。
メイとコヨノでは、ロトの住まう稲荷神社に対する認識が大きく異なっている様子であった。