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原初のネクロマンサー〜いかにして死霊術は生まれ、いかにして魔王は生まれたか〜  作者: 犬型大


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知を従えるためには1

 毎日努力を重ねているクリャウを周りの魔族たちはいまだに冷ややかに見ていたけれど、ほんの少し受け入れてもらい始めた。

 日々の鍛錬で行われる手合わせは基本的にケーランが相手になってくれていたのだが、時にスタットが相手になってくれたりスタットが集落の子供たちを連れてきて子供たちと手合わせする機会も増えたりした。


 大人は人間に対して頑なだが子供はまだ価値観が柔軟である。

 みんなの友達でもあったミューナを助けて、集落で嫌われていたフェデリオを倒したクリャウと接するようになって子供たちの態度が柔らかくなり始めたのだ。


 朝走ってれば挨拶ぐらいするようになったし鍛錬も見学に来てスタットに言われずともクリャウと手合わせする子供もチラホラ出てき始めた。


「やああああっ!」


「まだまだぁ!」


「うわっ!」


「また俺の勝ちだな!」


「ふぅ……ニクスは強いな……」


 中でもよくクリャウに付き合ってくれるようになったのがニクスという少年だった。

 クリャウよりも二つ上の子で、背が高くて体つきのいい子であった。


「そんなんじゃフェデリオなんかに一生勝てないぞ!」


「むむ……もう一回!」


 ニクスがクリャウに対して付き合ってくれるようになったのには理由がある。

 ニクスはフェデリオにやられた一人だった。


 クリャウが集落に来る前フェデリオはミューナを手に入れようとミューナに近づく男の子に決闘を挑んだ。

 近づかないからと受けなかった子もいるし、中にはミューナのこと関係なく勝負に応じた子もいた。


 その一人がニクスなのである。

 ただニクスはフェデリオに負けて腕を折られた。


 正直すごく悔しくて、恨みにすら思っている。

 そんな奴が友達でもあるミューナを力尽くで奪っていくことにも納得がいっていなかった。


 どんな手段であれフェデリオを打ち負かしたクリャウのことをすごいと感心していた。

 加えて今はフェデリオを負かした能力ではなく自分自身でもフェデリオを倒せるようにと頑張っている。


 だからちょっとぐらい応援してやろうと思ったのだ。


「みんなにとってもいい刺激となっているようだな」


「族長」


 クリャウとニクスの戦いを監督していたケーランにヴェールが声をかける。

 ケーランが振り返るとヴェールは子供たちがお互いに切磋琢磨している光景を優しく見守っていた。


「あの子が我々にどんな影響を与えるのか心配していたけれど……良い風をもたらしてくれているようだな」


 クリャウという存在が魔族に与える影響は未知数だった。

 もっと強い反発や魔族内部での分裂なども覚悟していた。


 しかしスルディトとフェデリオというより強い反発の相手がいて、クリャウがそれを打ち倒したものだから思ったよりもテルシアン族での反発はなかった。

 むしろ停滞しているみんなの中に新たな風を起こしてくれている。

 

 ミューナを守るための実力はまだまだ足りておらずミューナの相手としては認めていないが、クリャウが新たなる魔族の中心になりそうだということは認めていた。


「族長!」


「むっ? ……イヴェール、カティナ!」


 そろそろ剣の鍛錬は終わりにしようとケーランが考えているとイヴェールとカティナがデーミュント族の集落から帰還した。


「無事に任務終えてきました」


「ご苦労だった。里帰りはどうだった?」


「特に何もないですよ……」


 イヴェールは困ったように笑う。


「ふふ、そうか。少し遅かったな」


「向こうではもうこちらの動きを予想していたようですぐに返事を用意するから少し待ってくれと」


「ということはすでに返事を?」


「はい、こちらに」


 イヴェールは荷物の中から手紙を取り出してヴェールに渡した。

 

「ありがとう。内容は聞いているか?」


「いえ、聞いてはいませんが……予想して準備していたということは単に断るつもりではないと考えています」


「だといいがな。二人は休んでくれ。俺は内容を確かめてどんなものか見てみるとしよう」


 ーーーーー


「クリャウ様、きてもらって悪いな」


 最近ヴェールとも多少は話すようになった。

 明らかにクリャウの方がお世話になっているのだから敬語もおかしいだろうとクリャウは遠慮した。


 大人からそんなふうに話しかけられるとクリャウ自身もどうしていいのか分からないのだ。

 だが未来の死の王に不敬なことはできないとヴェールの方も引き下がらず、様付けで呼ぶことは許す代わりに話し方は砕けてもいいなんて変な感じに落ち着いてしまったのである。


 今や他の人も様付けなのに割と砕けた話し方という不思議な感じになっている。

 子供たちは普通にクリャウと呼び捨てで普通に砕けても話してくれるようになってきた。


 クリャウはお勉強はお休みでヴェールに呼び出された。

 部屋の中には部族の中でも有力な人が集まっていて、イレヲラやケーランもいる。


「それでは始めよう」


 クリャウはヴェールの隣に座らせれて話し合いが始まった。


「先日デーミュント族に協力を要請した。クリャウ様の黒い魔力について知っていることがあれば教えてほしいとな」


 話し合いの内容はクリャウについてであった。

 テルシアン族は黒い魔力についての知識を持たない。


 クリャウの父親であるクシャアンにもある程度の知識はあるが、それは体得したものでありどこまでのものか不明である。

 なので広く魔法の知識を持つデーミュント族に協力を要請する手紙を出していたのである。

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