コツコツと2
「ですが……まだまだですね」
将来性はある。
ただ現段階では力も弱いし技術もまだまだである。
「ああっ!?」
ケーランが手首を柔らかく動かすとクリャウの剣がケーランの剣に絡め取られ、クリャウの手から弾き飛ばされてしまった。
「筋は良いのでこのまま精進していけばお父上にも負けない戦士になれることでしょう」
「ほんと?」
「私は下手なお世辞を言いません」
クリャウは目がいい。
やる気があるなら剣の腕は成長が見込める。
「基礎を忘れずに日々の鍛錬を継続してください」
「はい、先生!」
大変だけど体を動かすのは楽しい。
たとえ嘘でも強くなれると言ってもらえてクリャウはやる気になっている。
「私も行くよー!」
クリャウの休憩も兼ねて次はミューナがケーランと戦う。
お嬢様として大事にされているミューナであるけれど意外と体も動かしている。
まともに剣術を競って戦えばクリャウはまだミューナにも勝てないだろう。
「おりゃー!」
ミューナは苛烈に攻め立てる。
ケーランは冷静にミューナの攻撃をさばく。
「すごいな」
見ているだけでも勉強になるなとクリャウは思った。
「ふふ、お嬢様も腕を上げられましたね」
「くぅ〜ぐやじい!」
首に剣を突きつけられてミューナは悔しそうな声を上げる。
「今日はこれぐらいにしておきましょうか」
クリャウとミューナは汗をかいているけれどケーランはサラッとしている。
いつかケーランも倒せるかな、なんてことをクリャウは考え始めていた。
「お嬢様に魔力があれば……と思わざるを得ませんね」
「それは言わない約束でしょ?」
「ミューナには魔力がないの?」
「……うん、そうなんだ。私には魂を見る力がある。その代わりに魔力がなくなっちゃったんだ」
生まれた時にはミューナにも魔力があった。
しかし魂視者の力が目覚めた時に魔力が全てそちらの力になってしまった。
だからミューナは魔法が使えない。
さらには魔力が使えないということは魔力による体の強化なども行えないということになる。
「だから……私は戦えないんだ」
いかに技術があろうと魔力がないと戦うのは厳しい。
ミューナは少し寂しそうな顔をした。
「じゃ、じゃあ俺が守るよ。ミューナが危なくなったら俺が戦って守るから」
「……ふふ、ありがと」
ミューナは少し頬を赤らめて笑顔を浮かべる。
「戦えないのは残念だけど他の人にはない魂視の力があるからね。この力でクリャウの助けになれるように私も頑張るから」
「うん、お互い頑張って……お互いに助け合おう」
「うん!」
何かのために頑張る。
クリャウに強い目標があるならより強くなれるだろうとケーランは優しい目をして二人のことを見ていた。
「次は勉強だね!」
「休む間もないね」
体の鍛錬が終わったら次は頭の鍛錬である。
大きな町ならば学校があったり、貴族が通うアカデミーと呼ばれる教育機関がある。
小さな町でも知識のあるものが周りの子供を集めて勉強を教えていることも多い。
クリャウがいた村でも同じように子供を集めて勉強を教えていたのだけど、クリャウは混ぜてもらえなかった。
クリャウに一般的な常識がないとは言わないが、知識はいつかどこかで武器になる。
黒い魔力についてどうするのか決まるまではクリャウはお勉強なのだ。
「んじゃ私も頑張るから!」
ミューナも一緒にお勉強ではない。
クリャウが学んでいることは基礎的なことでもうすでにミューナの頭の中には入っている。
ただミューナはミューナでお勉強があった。
クリャウと別れたミューナが向かった先は家の裏手にあるご祈祷場だった。
「おばあちゃん、来たよ」
「よーきた。クリャウ様とはよくやっているかい?」
ご祈祷場にはミューナの祖母であるイレヲラがいた。
薬草をいぶす独特の香りがご祈祷場には広がっている。
匂いを嫌がる人もいるけれどミューナは何となく落ち着く気がしてご祈祷場が好きだった。
ミューナが来るとイレヲラは嬉しそうな顔をしてお菓子を出してくれる。
「仲良くやってるよ」
「そうかそうか。ならよかった」
「今日は何のお勉強?」
「前回の続き、陣の練習をしようか」
ミューナのお勉強とは魂視者としてのお勉強であった。
ほんの少しだけミューナにも魂視者としての道を歩むことに迷いがあった。
魂視者の道は他の誰とも違う孤独な道である。
ミューナの心が決まるまでと魂視者としての本格的な教育は先延ばしにされていたのだが、クリャウと出会ってクリャウの力が魂に関わりそうだと分かった。
クリャウの力になれるならとミューナの心は決まった。
そこで魂視者としての道を進むことを決心し、クリャウが勉強している間ミューナもイレヲラに色々と習っていた。
「いつか私もクリャウのお父様とお話しできるかな?」
「ふふふ、ミューナは飲み込みが早い。このまま続けていけばできるだろう」
「じゃあ頑張る! いつか……いつかお父様の言葉をクリャウに伝えてあげるんだ」
「ふっふっふっ! そうかそうかそうか……良い目標だ。では頑張らねばな」




