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原初のネクロマンサー〜いかにして死霊術は生まれ、いかにして魔王は生まれたか〜  作者: 犬型大


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魔の一族

「バルエラ様、何か問題でもありましたか?」


 デーミュント族のバルエラは部族の有力者を集めた。

 バルエラは部族長ではない。


 元部族長であり、今は一つ下の世代に席を譲っている。

 しかしやはり元部族長たるバルエラの魔法の実力は高く、いまだに部族の中における発言力は強かった。


 バルエラが話があるといえばデーミュント族の現部族長であるヤラーガも含めて集まるしかない。


「先日のテルシアンとブリネイレルでの争いからお戻りになられてから何かお考えのようですが」


「どちらかがバルエラ様にご無礼を?」


「ふん、ブリネイレルが失礼なのは今に始まったことじゃないよ」


「やはりあいつらが……」


「そうじゃない」


「……では何があったのですか? 皆を集めるほどのことがあったのでしょう?」


 ヤラーガが問いかけるとバルエラは悩むように目を閉じる。

 何かを思案している。


 ヤラーガたちは黙したままバルエラの言葉を待つ。


「私たちが私たちの役割を果たす時が来たのかもしれない」


「それはどういうことですか?」


 場がざわつく。

 バルエラが発した言葉はデーミュント族にとって非常に重たいものだった。


「今や魔のデーミュントと呼ばれているが、元来我らは知のデーミュント。深く広い知識と深謀遠慮たる知略を持って魔王様をお支えしてきた一族が集まりである」


 バルエラはクリャウの戦いを見た時から考えていた。


「初代魔王様は黒き力によって魔族をまとめ人間に負けぬ国を作り上げた。その知恵知識も我々は持っている」


「……しかし今は失われて」


「失われていない。ただ我々の手元にないだけだ」


 声のトーンは落ち着いているがバルエラは叱責するような目をヤラーガに向けた。


「確かにそうかもしれませんが、それになぜそのようなことを……」


「黒き力を扱うものが現れた」


「まさか! では……」


「近く我々にも話があるだろう」


「テルシアン族から使者が参りました!」


 会議を行う部屋の中にバーミュント族の若者が入ってきて膝をつく。


「ちょうど来たようだね」


 まさかこのことを予想して今人を集めたのではないかとヤラーガが思うほどのタイミングである。


「……あっ、通しなさい!」


 今の部族長はヤラーガである。

 しかし思わずバルエラの言葉を待ってしまった。


 バルエラから視線を向けられてヤラーガはようやく自分が部族長であるということを思い出して指示を出す。


「イヴェールです」


「カティナです」


「この度テルシアン族からのご協力のお願いに参りました」


 部屋に入ってきたのはイヴェールとカティナであった。

 二人は深々と頭を下げる。


 イヴェールはイレヲラが書いた書簡を取り出して二人を案内した若い魔族に渡す。


「先日魂視者であるイレヲラ様が神託をお受けになりました。“我々魔族を覆う闇を飲み込み、魔族を導く黒き光の標となる死の王が現れる”というもので我々は死の王である探しました」


「……それがあの人間の子だね?」


「……その通りです」


 若い魔族は書簡をヤラーガに渡す。

 ヤラーガは書簡の内容をサッと確認する。


「死の王たるお方は黒い魔力の持ち主です。しかし黒い魔力の使い方は知らない……ですのでデーミュント族ならば魔法の知識があるのではないかと思いましてこうして協力をお願いしに参りました」


「なんと……」


「だからバルエラ様は……」


「しかし先ほど人間の子だと言わなかったか?」


 他の魔族たちがざわつき始める。

 イヴェールはどうして自分たちが到着する前からこうして人が集まっているのだと疑問に思うが、一人冷静なバルエラを見れば何か察していたのだと気がついた。


「……用件は分かった。だがすぐに返事を出せるものではない。しばし皆で話し合う時間をくれないか?」


「もちろんです」


「いちいち使いを出すのも面倒だ。数日泊まっていくといい。月を見ると魔物が活発になるタイミングであるしな」


 書簡を読み終えたヤラーガがイヴェールとカティナに目を向ける。

 内容が内容だけにすぐに答えが出るものではなかった。


 大森林の魔物は一定周期で凶暴になる。

 テルシアン族の集落からデーミュント族の集落までは少し距離があって一日では着かない。


 少し日を置いてから出発する方が安全である。

 ついでにその間に話し合いを終えて返事を書いて持っていってもらうことにしようと考えた。


「イヴェール、楽しくやっているかい?」


 頭を下げていたイヴェールが顔を上げるとバルエラが顔を向けていた。

 昔からバルエラに見つめられると少し体が強張るような感じがするとイヴェールは思っていた。


「……楽しくやらせていただいております。自分を必要としてくれています」


「そうかい。ならよかったよ」


 バルエラは目を細めた。

 笑っているようにも、少し心配しているようにも見えた。


「良い人はいるかい? 隣のお嬢さんなんかは違うのかい?」


「い、いえ! 彼女とはそのような関係ではございません!」


 予想外の言葉にイヴェールは思わず声が上ずる。

 クスクスと笑い声が聞こえて珍しくイヴェールは顔を赤くした。


「そ、それでは失礼します」


 イヴェールが足早にその場を後にしてカティナも一度頭を下げて追いかける。


「……元気そうですね」


「そうね。たとえ私たちの元でなくとも達者にやっているのならそれでいいわね」

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