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原初のネクロマンサー〜いかにして死霊術は生まれ、いかにして魔王は生まれたか〜  作者: 犬型大


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最初のスケルトンは1

「初めまして、足腰悪く跪けないことお許しください」


「そ、そんな。そんなこといいですよ! ミューナのおばあちゃんですし」


「ふっふ、どうやら孫と良い関係を築いているようですね」


 フェリデオに勝った。

 多少ずるいかもしれないと思う手は使ったけれど、あれはあれでクリャウの全力である。


 無事ミューナはブリネイレル族に狙われることもなくなった。

 スタットを始めとしてケーランやカティナのおかげでクリャウの戦い方はともかく、ミューナのためにフェリデオに立ち向かったというような印象をテルシアン族のみんなに与えることもできた。


 まだまだみんなに馴染むには時間もかかりそうだけどほんの少しだけ周りの空気感も柔らかくなった。

 そしてちょうど決闘のタイミングでミューナの祖母であるイレヲラがご祈祷という儀式から出てきていたのである。


 クリャウの勝利を祝いつつイレヲラにご挨拶することになった。


「あなたが神託の人で間違いないでしょう」


「でしょ! 私の言った通り!」


 ミューナがドヤ顔で胸を張る。

 違ったらどうしようなんて思っていたことなんて忘れているかのようだ。


「あなたには死を操る力がある。どうかその力で我々魔族を導いてください」


「……スケルトンを操る力があるってことは分かったけど、魔族を導くとかどうしたらいいのか分からないよ」


 死を操る力というのもまだまだよく分かっていない。


「今はそれでいいのです」


 イレヲラは優しく笑顔を浮かべた。

 正直こんな子供が死の王だとは思わなかった。


 しかし魔族を柔軟に受け入れられる子供が死の王であることはよくよく考えてみるとよかったことかもしれない。

 ミューナとも良い関係になっている。


 能力を知って伸ばしていくのだって子供のうちからやったほうがいい。

 少なくともクリャウは今魔族のために戦おうとしてくれている。


「新たな神託があった」


「神託が? それはなんですか」


「死の王は我々を導いてくれる。しかし我々もただ導かれるだけではないのだ」


「どういうことでしょうか?」


「死の王を死の王たる器になり、そして器が満ちるまで導くこともまた我々に課された義務なのだ」


「つまりは……」


「互いに助け合えということ。クリャウ様、まだ何も分からないでしょうがそれでいいのです。きっとあなたはいつか我々を導く存在になる。それまで私たちがあなたを導きましょう」


 イレヲラは死の王と魔族の関係は決して一方通行ではないとご祈祷の中で神の意思を聞いた。

 何も分からないのは当然だ。


 これから共に成長していくのだから。

 すでに器として出来上がった大人だったなら共に歩むことも難しいかもしれない。


 だがまだ子供のクリャウならばゆっくりと歩幅を合わせて目標を見つけていける。


「すでに心強い味方もいるようだ」


 イレヲラはスケルトンのことを見る。

 未成熟の器であるがそれを守ろうとする意思をスケルトンから感じる。


「奇縁……親愛の情……このスケルトンはどこで?」


「スケルトンさんは俺の村で……」


 クリャウは最初のスケルトンと出会った経緯を簡単に説明した。


「村の死体捨て場にあった死体から生まれたスケルトンか。父親はどうした?」


「父さんは……殺された」


「殺された?」


「俺が小さい頃に他の人に殺されちゃったらしいんだ。父さんも俺と同じような力があったみたい……」


 クリャウは悲しそうな目をする。

 ブラウの話を思い出した。


 父親はブラウによって殺された。

 その後村から離れた森の中に放置されたという話なので死体がどうなったのかは分からない。


「ふむ……父親に会いたいか?」


「会えるなら……会いたいよ」


 イレヲラはスケルトンのことを見つめる。


「こちらに来なさい」


 おもむろにイレヲラは椅子から立ち上がってゆっくりと歩き始めた。

 杖をつきながらなので少し歩くスピードは遅い。


 クリャウは何が何だか分からないけれどとりあえずついていく。

 ミューナの家の裏手に丸い小屋があった。


 そこにイレヲラは入る。

 中は薬草っぽい独特の香りがしている。


「そこにそのスケルトンを座らせなさい」


 イレヲラは小屋の真ん中を杖で指した。

 クリャウが軽く頷いて最初のスケルトンにお願いするとスケルトンは小屋の真ん中にあぐらをかくようにして座る。


「今からやるのは魂をクリャウ様の目にも見えるようにして呼び出す儀式だ」


 イレヲラは壁にかけられた松明に火をつけると窓を閉めて光が入らないように布を下ろす。

 薄暗くなった小屋の中でイレヲラは不思議な模様が描かれた木の板を取り出した。


「クリャウ様こちらに」


 木の板を挟んでイレヲラが最初のスケルトンの正面に座り、隣にクリャウを呼ぶ。

 小屋の中には残る二体のスケルトンとミューナもいた。


「始めるよ」


 イレヲラは木の板の上に青い石を置いた。

 そして石に触れながら何かを呟くと木の板に絵が描かれている模様が光り出す。


 風もないのに松明の炎が揺れ、なんだかクリャウも不思議な気分になってきた。

 イレヲラが何かの呪文を呟き続けると木の板の光が強くなり、最初のスケルトンの体も淡く発光し始めた。


「…………これは」


 最初のスケルトンの体から光だけがふわりと抜け出して木の板の上に移動した。

 光は人の形を作り出すと少しずつ形が鮮明になっていく。


「……父さん?」


 やがて光は人になった。

 うっすらと透けているけれど、確かに男の人の顔をしていた。


 昔母親が父親の顔を描いてくれたことがある。

 意外と絵がうまくて、こんな感じなんだとクリャウは思った。


 家が燃えた時に似顔絵も失われたが記憶には確かに残っていた。

 光の人はクリャウの父親によく似ている。

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