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原初のネクロマンサー〜いかにして死霊術は生まれ、いかにして魔王は生まれたか〜  作者: 犬型大


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君のため、戦う5

「誰か……バルエラ、お前のところのやつなら治せるだろ!」


「高くつくよ?」


「構わん! なんでも差し出すから治してくれ!」


 父親に認められないなら意味はないようなことを言っていたけど、父親は大切にしてくれているじゃないかとクリャウは見ていて羨ましさすら感じた。

 バルエラの後ろに控えていた男性がフェリデオに近づいて手をかざす。


 淡い緑色の光がフェリデオの体を包み込む。


「剣が……」


 荒く呼吸をしていたフェリデオの様子が少し落ち着き、刺さっていた剣が少しずつ抜けていく。

 フェリデオの腹に刺さっていた剣が抜け落ちるとそこに傷は無くなっていた。


「……お前の勝ちだ」


 誓いを立てた以上もう覆すこともできない。


「我々はミューナを諦める。……だが覚えておけ。今日の屈辱は忘れない」


 スルディトはクリャウのことを睨みつける。


「やめなさい。いい大人がみっともない」


「……チッ! 帰るぞ!」


 バルエラに叱責されてスルディトは盛大に舌打ちした。

 そしてフェリデオを抱えてスルディトは足早に去っていく。


 見にきていたブリネイレル族も困惑したような顔をしながらもスルディトについてテルシアン族の領域から出ていった。


「クリャウ!」


「……ミューナ!?」


「ああ……無事でよかった……無事じゃないか?」


 弾丸のように飛んできたミューナがクリャウに抱きついた。

 潤んだ瞳でクリャウの顔を見るミューナには額の小さな傷が目に入った。


 最初の時にやられかけた時のもので、もうすでに血は固まりかけている。


「決闘はクリャウ様が勝った! クリャウ様はミューナのために立ち上がり、テルシアン族のために戦った!」


 いまだに唖然としているような空気の中ヴェールが立ち上がってクリャウを讃える。


「あのような能力で勝っても……」


「人間に任せて勝ったと言えるのか?」


「いいじゃねえか! スルディトのやつが止めなかったんだ。あれはクリャウ様の能力で、クリャウ様はそれでフェリデオを打ち破ったんだ!」


 クリャウの能力も分からなくて魔族たちは困惑している。

 それに苛立ったようにスタットが声を上げる。


「何が問題なんだ? あのいけすかねぇ奴が負けを認めたんだ。それ以上何がある? 俺たちが勝ったんだ」


 わざとらしくスタットは拍手し始める。


「そうね。あいつの顔見たでしょ? 悔しさで泣きそうだった」


 カティナもスタットに続いて拍手を送る。


「ふっ! 確かにそうだな。帰る時泣いてたんじゃないか?」


「そうだな……俺たちの代わりに戦ってくれたんだ。そしてブリネイレル族を倒したんだ」


 次に拍手したのはケーランだった。

 そしてイヴェールもクリャウに拍手を送る。


「ミューナに笑顔が戻ったんだもんな」


「……確かにスルディトのやつは嫌いだからな」


「よくやったな、人間……名前忘れちまった」


「クリャウって呼んでたな」


 魔族のみんなもまばらに拍手し始めて、やがてみんながクリャウを口々に褒め始めた。


「少し見ない間に色々あったようだね」


「母さん。もうご祈祷は終わったのですか?」


 クリャウが部族のみんなに受け入れられるか心配だったが、意外と上手くいきそうだとヴェールは拍手するみんなを見て思った。

 そしていつの間にかヴェールの隣に杖をついた老婆が一人立っていた。


 ミューナの祖母、ヴェールの母親であり魂視者のイレヲラであった。


「よく見つけたね」


「ではやはりクリャウ様が……」


「そう、我々を導いてくれる死の王さ」


 ヴェールはクリャウのことを見る。


「へへ……クリャウありがとう!」


「うん。ミューナは笑ってるほうがいいよ」


「う……うん!」


 ミューナはクリャウに抱きついたまま顔を赤くしている。

 フェリデオにミューナをやるつもりは毛頭ないがクリャウにだってミューナのことはやらないぞとヴェールは一人思っていたのであった。

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