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原初のネクロマンサー〜いかにして死霊術は生まれ、いかにして魔王は生まれたか〜  作者: 犬型大


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君のため、戦う3

「なぜだって……? 俺もまだ本気で戦ってないからさ!」


「なっ、なんだこれは!?」


 クリャウから黒い魔力が溢れ出してきた。

 フェリデオは得体の知れない黒い魔力に飛び退いて距離を取る。

 

 もし万が一クリャウが剣で勝てるならそのまま倒すつもりであったが、やはりクリャウの実力でフェリデオには敵わなかった。

 ならば事前に考えていた作戦を使う。


「こ、これは……」


「スケルトンだ!」


「魔物が現れたぞ!」


 黒い魔力が集まって三つの大きな玉になった。

 そしてそれぞれの玉の中からスケルトンが出てきて観客は大騒ぎになった。


「鎮まれ! あれはただの魔物ではない。落ち着くんだ!」


 ヴェールが立ち上がって騒ぎ立てる魔族たちに声をかける。

 剣を持ったスケルトンは好き勝手にどこか行くこともなくフェリデオの方を向いている。


「フェリデオ! ……なんなのだあれは!」


 三体のスケルトンがフェリデオに切り掛かる。


「待て。あれはクリャウ様の能力だ」


 助けに行こうとするスルディトをヴェールが止めた。

 スルディトは睨みつけるようにヴェールのことを振り返る。


「能力だと? あれが?」


 黒い魔力で強化されたスケルトンは連携をとるようにフェリデオを攻め立てている。

 能力でスケルトンを呼び出したなど信じられずスルディトは苛立った顔をする。


「そうだ。あれがクリャウ様の力……」


「あんなもの反則だ!」


「止めるのだ」


「……うっ!」


 スケルトンを呼び出せるなんて聞いていないとスルディトが止めに入ろうとした瞬間フェリデオの胸に痛みが走った。

 スルディトが止まると痛みは収まり、スケルトンの攻撃をギリギリかわした。


「他者の助けは無し。そう誓ったではないか」


 誓いの効果は絶対である。

 スルディトがフェリデオを助けようものなら誓いの効果が発動してフェリデオの命は失われる。


「あいつはスケルトンの助けを借りているじゃないか!」


「スケルトンはクリャウ様が作り出し、クリャウ様が呼び出した。そして操っているのもクリャウ様だ。全てがクリャウ様の能力。それは誓いが認めている」


 スケルトンを行使していてもクリャウにはなんの影響もない。

 誓いに違反する行為ならスルディトが助けに行こうとした時のようにクリャウにも誓いの制約が牙を向くはずなのだ。


 逆に言えばそうなっていないということは誓いがスケルトンをクリャウの能力だと認めているということになる。

 ならばスルディトが何を言おうともルール違反になどならないのである。


「認められた力を使って何が悪い?」


「貴様……! 分かっていて誓いを立てたのか!」


「どうだと思う?」


 スケルトンが己の力のみで戦うという誓いに引っかからないことは分かっていた。

 なぜなら試したからだった。


 ケーランの提案でクリャウが決闘に挑むことになった。

 クリャウにはスケルトンを操ることができる能力があるということを前提にしてケーランは考えていた。


 ただスケルトンを持ち込むことをスルディトが承諾するはずがないことも分かっていた。

 だからケーランは水賊討伐の時にクリャウが最初のスケルトンを呼び出したという話からクリャウがスケルトンを呼び出せるのではないかと予想をつけた。

 

 まずスケルトンを呼び出せるか試した。

 クリャウは黒い魔力を放出し、ある程度集めて呼び出したい相手をイメージすることで離れたところからスケルトンを出すことができるということが判明したのである。

 

 ならば作戦は決まった。

 スケルトンを呼び出して戦う。

 

 しかしスルディトに邪魔されないようにする必要がある。

 そこで目をつけたのが誓いだった。


 上手く条件をつければスルディトが口も手も挟む余地をなくすことができる。

 決闘で他者の助けを禁じ、スケルトンはあくまでもクリャウの能力だとすることにした。


 このように条件をつけることでクリャウがスケルトンを呼んで戦うことにスルディトが手を出さないようにしたのである。

 ちゃんと誓いに引っかからないかどうか事前に命をかけない誓いも立てて確かめてあった。


「卑怯だぞ!」


「卑怯だと? 戦争だと脅しまでかけておいてどの口が言っている。誓いを受けたのはそちらだ」


 確かにクリャウの能力については何も言わなかった。

 けれどもクリャウのことを軽んじて馬鹿にしたように何も考えず誓いを受けたのはスルディトとフェリデオである。


 嫌ならば拒否することも、条件を変えることもできたのにむしろ向こうからさっさと誓いを立てたのだ。

 秘境でもなんでもない。


 互いが認めた条件の中で戦っているのだ、卑怯と言われる筋合いはない。


「グッ!」


「フェリデオ……! くそッ!」


 最初のスケルトンによってフェリデオの腕が浅く切り裂かれた。

 助けに行きたいけれどスルディトが助けに行くとフェリデオは誓いによって死んでしまう。


「ミューナのことは諦めて」


「グッ……諦められるか!」


 自分のため、あるいはブリネイレル族のために諦めるわけにはいかないとフェリデオは必死に戦う。


「ミューナは俺の物なんだ!」


「ミューナは物じゃないんだ。誰かを好きになって……誰かを選ぶ権利がミューナにもある。たとえ君がミューナのことを好きでもこんなやり方はよくないんだ」


「うるさい!」


「……君みたいな人にミューナは渡せない」


「クリャウ……」


 ミューナはクリャウのことを雑に扱わずに尊重してくれる。

 だからクリャウもミューナのことを大切にしたいと思う。


 泣くほど嫌ならば絶対に渡せない。

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