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原初のネクロマンサー〜いかにして死霊術は生まれ、いかにして魔王は生まれたか〜  作者: 犬型大


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君のため、戦う2

「では、血に指の傷をつけよ」


 ミューナのこといいのかと困惑しながらクリャウは器の中の血に指をつけた。


「互いの体に誓いを刻む」


 バルエラが血に手をかざして何かを呟いた。

 するとバルエラの手が光って、血も同じく一瞬光を帯びた。


「うっ……」


 血がクリャウとフェリデオの傷に吸い込まれていく。

 少しむず痒いような感覚があった。


「これで誓いはなされた。あとは好きに決闘するがいい」


 クリャウが指を見ると切られたはずの傷も治っている。

 特に体に変化があったようには感じないけれど誓いとやらが終わったらしい。


「決闘はいつにする? 今すぐでも構わんぞ?」


 誓いがなされればもう取り消しはできない。

 スルディトはもう勝ったような顔をしていた。


「二日後、家の前の広場で行おう」


「二日後だな。逃げるなよ? フェリデオ、帰って剣を研ぐぞ。婚姻の準備もせねばな」


「はい、父上」


 最後まで鼻につくとヴェールは思った。


「私も帰るよ。二日後だね」


「ご足労ありがとうございました。ご見学なさるつもりなのですか?」


「なんだい? 見にきちゃダメかい?」


「いえ、そういうことでは……」


 バルエラはヴェールに対しても物怖じしない態度を取っている。

 デーミュント族はテルシアン族とは別の部族であるがテルシアン族との関係は悪くなかった。


 年長者でもあるバルエラはヴェールのことも昔から知っているぐらいであり、ヴェールもあまり強気には出られない相手である。


「何をするつもりなのか知らないが……結果の見える戦いに挑むなんてバカだねぇ」


「まだ戦いはわかりませんよ?」


「ふっふっふっ……何も分かってないのはお前さんも同じのようだね」


 ーーーーー


「降参するなら今のうちだぞ?」


「……俺は逃げないよ」


 二日後、ミューナの家の前の広場には囲いが建てられ、その中でクリャウはフェリデオと向き合った。

 手には剣を持ち、動きやすい格好をしたクリャウは緊張して少し顔色が悪かった。


 対してフェリデオの方は余裕たっぷりで、決闘の対象になっているミューナのことをチラチラと見ては顔を赤らめたりしている。

 父親のスルディトの思惑はともかくミューナのことが好きというのはウソではなそうだ。


 戦いの前の態度としては良くないが、好きでもないのに要求しているわけじゃないことはちょっとだけ安心した。


「それでは決闘を始める!」


 審判はスルディト。

 後から文句をつけられても困るのでヴェールが逆に指名したのである。


「クリャウ……頑張れ!」


 ミューナの応援を受けてクリャウは剣を構える。

 見た目はそれっぽいが決闘までの数日で叩き込まれた付け焼き刃の構えである。


「始め!」


「さて……どんなものかな!」


 フェリデオがクリャウに切り掛かる。

 持っている剣は刃潰しもしていない切れるものだ。


 当たれば痛いどころじゃ済まない。

 振り下ろされたフェリデオの攻撃をクリャウはなんとか防いだが力の差も大きくて転びそうになりながら後ろに押される。


 一撃でクリャウがど素人なことがフェリデオにも周りで見ていた人にも分かった。


「大丈夫なのか?」


「ミューナ様が……」


「やはり人間などに任せるべきではなかったのだ」


 クリャウではとても勝てそうにない。

 そう思ったテルシアン族の人たちが諦めたような表情を浮かべる。


「ほら、どうした!」


 余裕の相手だと悟ったフェリデオがクリャウのことを弄び始める。

 ギリギリで防御できそうな攻撃を繰り返してクリャウを追い詰めていく。


「ふん……基礎すらなっていないな」


 全くもって剣術を練習してことのないことは見ていれば分かる。

 審判をしているスルディトは止める気もない。


 しかしスルディトにも気になることはあった。


「どうしてあんな顔をしていられる……」


 ミューナは必死の顔をしてクリャウのことを応援している。

 そしてその隣にいるヴェールはあくまでも冷静な顔をしてクリャウのことを見ていた。


 焦るわけでもないし諦めたようでもない。

 何かがあるような感じでただ見ているのだ。


「何が狙いだ……」


 早めに試合を止めて終わらせてしまった方がいいのか、それとも徹底的に痛めつけて見せ物にしてやった方がいいのかスルディトは迷っていた。


「ミューナは俺のものだ!」


「グッ! ミューナは……誰のものでもない!」


 振り下ろされた剣をクリャウはなんとか受け止めた。

 けれども少し押されたために額に刃が当たって軽く血が垂れてくる。


「クリャウ……!」


 命をかけるといった以上は決闘で命を落としても仕方ないということである。

 ミューナがブリネイレル族に行くのは嫌だけど人間など死んでしまえと思っている人もいた。


「なぜそんな目をしている?」


 ブリネイレル族の魔族たちによるフェリデオの応援だけが聞こえてきてクリャウに対する応援は少ない。

 それでもクリャウの目は死んでいなかった。


 わざと防御できるように攻撃していることはクリャウにも分かっているはずで、実力の差は歴然である。

 なのにどうしてまだ勝てる希望を持った目をしているのだとフェリデオはイラつく。

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