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原初のネクロマンサー〜いかにして死霊術は生まれ、いかにして魔王は生まれたか〜  作者: 犬型大


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君のため、戦う1

「さてどうする?」


 三日後スルディトは息子であるフェリデオを伴って約束通り集落にやってきた。

 トゥーラもスルディトのことは嫌いで飲み物すら出さないがスルディトは意に介した様子もない。


「ミューナを我が息子の相手と認めるか……それとも戦争かだ」


 フェリデオはスルディトによく似て体つきのがっしりとした青年だった。

 スルディトよりも目が細くて少し狡猾にも見える顔立ちをしている。


 ミューナとのことをもう考えているのか口の端が緩んでいてそれもまた気に入らないとヴェールは思った。


「もう引き延ばしは無しだ。答えをここで出してもらおう」


「結婚か、戦争か!」


「……決闘だ」


「けっ……決闘だと?」


 確かに決闘も条件としては提示した。

 しかし実際に決闘という選択肢を取るとは思っておらずスルディトは驚いた。


「誓いを立てて決闘を行おう」


「ほぅ?」


 まさかそちらから提案してくれるとはとスルディトはほくそ笑んだ。


「どう条件をつけるつもりだ? 大人も戦うというのなら俺も出るぞ?」


「そのようなつもりはない。子供同士、自分の能力のみを使って戦うのだ。周りが助けに入れば命を失う強い誓いを立てよう」


「なんだと?」


「その代わり負けたら我々は大人しく引き下がる。このことはミューナも承諾済みだ」


「命をかけたらこちらが引き下がるとでも?」


 スルディトは鼻で笑う。

 命すら賭けることはかなり重たいことである。


 だがヴェールが敢えて命をかけさせることで自分を引き下がらせようとしているのだと思った。

 浅はかな作戦である。


 決闘で負けるはずもないのに命をかけるということで引き下がるはずがない。


「自分の力のみ、周りの助け無し、命をかけること、それが条件か?」


「そうだ」


「ふん……どうだ、フェリデオ?」


「もちろん引き受けますよ、父さん。俺が負けるはずがありませんから」


 フェリデオは自信ありげに笑みを浮かべる。


「では今すぐに誓いを立てよう」


「ははっ、今すぐにだと?」


「そうだ。お願いします」


 ヴェールが声をかけると部屋の中に一人の老婆が入ってきた。


「デーミュント族の……」


「バルエラだよ。立会人、そして誓いの締結者としてここに来させてもらったよ」


「……用意がいいな」


 この場の会話における誓いとは魔法である。

 互いの条件を魔法によって保証するもので、どのような中身になるかは誓いの内容によって様々だ。


 ただ誓いは誇りをかけた約束という側面も大きいので誓いを交わす場には第三者の立ち会いも重要となる。

 誓いの魔法を使える人も必要なので誓いの魔法を使える人が立会人となることも多い。


 あまりに用意がいいとスルディトは内心で訝しんだ。

 立会人となるバルエラまで呼んでいるということは突発的なことではなくスルディトが来るまでの三日の早い段階から決めていたことに違いない。


「さて、誓いを交わそう」


「待て、誰が決闘に応じるのだ?」


 テルシアン族にはフェリデオに勝てるような同年代の子はいない。

 命をかける誓いを交わす以上決闘で死んでもおかしくないのだがそんなことに命を投げ出す人がいるとは思えない。


「クリャウ様」


「クリャウ……様?」


 ヴェールに呼ばれてクリャウも部屋の中に入る。


「まさか……人間のガキに決闘を任せようというのか?」


 クリャウを見てスルディトは驚きに目を見開いた。

 大切な決闘を少し前に来たばかりの人間に任せようなどヴェールの気が狂ったのか信じられないように視線を向ける。


「本気だ。私もミューナも、そして本人も全員が同意している」


「あんなに細くて小さいガキ、しかも人間に戦わせるとは……なんだ? ちっぽけなプライドでも守りたいのか?」


 散々ゴネて結婚を先送りにしてきた。

 今更あっさりとミューナを引き渡すということができずに決闘で負けたという体面を保とうとしているのだとスルディトは笑った。


 人間を犠牲にして決闘に負けたから仕方ないとミューナの結婚を認めるつもりなのだと可笑しくてたまらなかった。


「いいから誓いを交わそう」


 バカにしたようなスルディトのことをヴェールは冷ややかな目で見る。


「相手の気が変わらないうちにさっさとやってしまえ」


「そうですね、父さん」


 もはやミューナを手にすることは確実。

 その先のテルシアン族掌握までスルディトの頭には浮かんでいる。


「それでは誓いを交わそう」


 バルエラは小さな器を取り出した。


「手を出して」


 クリャウとフェリデオはバルエラに言われた通りに手を出す。


「いてっ」


「血を器に」


 バルエラはナイフを取り出すとクリャウとフェリデオの指先を切った。

 指先を切ったぐらいで痛いと弱音を吐くとはと情けないとフェリデオは笑う。


 クリャウとフェリデオは指から流れ落ちる血を器に垂らす。

 器の中で二人の血が混ざり合う。


「では誓いを立てる。血を混ぜしもの、互いに誓いの下に約束を交わさん。戦いにおいて己の力のみを使い、他者の助けを借りず、勝ったものがミューナと婚姻し、約束違うことに命をかける」


 あれっ、とクリャウは思った。

 このままでは勝ったらミューナと結婚することになるのではないかとバルエラの言い方では聞こえたのだ。


 しかし口を挟めるような雰囲気でもない。

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