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ミューナの問題1

「お母様は今ご祈祷の最中だ」


 食事を終えて今後について話し合う。

 ミューナの父親である族長は名前をヴェールといい、ミューナのことさえなければ優しくて良い人だった。


 次に挨拶すべきは魂を見ることができる能力を持つ魂視者と呼ばれるミューナの祖母であるイレヲラなのだが、今イレヲラは祈祷という誰とも会わずに祈りを捧げる儀式に入ってしまったのだ。


「また? ちょっと前にも入ったばっかりじゃない?」


「魔族にとっても多くのことが起こるタイミングなのだろう。ご祈祷の最中は誰にも会わないし、邪魔もできない。終わるのを待つしかないな」


 そうしたルールがあるので会えないのも仕方ない。


「まずは神託のことを話してみんなにクリャウ様を紹介しようか」


 ヴェールもクリャウのことを様をつけて呼ぶ。

 いらないとクリャウというのだけど予言のお方ならそうはいきませんと突っぱねられてしまった。


 集落の人たちはクリャウのことをまだ何も知らない。

 イレヲラの予言のことも知らないので急に連れてこられた怪しい人間という目でクリャウを見ていた。


 せめてなんの目的で連れてきたのか紹介しておかねば周りも安心しておけない。


「あとは住むところか。今空いている家はあったか?」


「いいえ、なかったはずよ」


「じゃあ……」


「うちでいいじゃない」


「なに?」


「どうせ大きくて部屋余ってるんだし」


 村や町ではないので宿屋なんてものもない。

 呼んでおいて外に寝かせるわけにもいかない。


 クリャウのことは秘密だったしいつ見つかるかも分からない状態だった。

 集落に手紙を送ることも簡単ではないので情報の共有ができておらずクリャウのための住処を用意はしていなかった。


 村に慣れるまでは誰かの家にお世話になってもいいだろう。

 そんなことをヴェールは考えていた。


 今いるメンバーの誰かと考えていたらミューナがさらりと口を挟んだ。


「いいじゃない。大切なお客様だって分かりやすいしね」


「トゥーラまで……」


「ねっ! クリャウもその方がいいでしょ?」


「俺はどこでも……」


 ボロボロの家、ボロボロの布団で寝ていたのだ、家に泊めてもらえるだけありがたい。


「あなた」


 トゥーラが諭すような目でヴェールのことを見つめる。


「……分かった。君がよければうちに泊まっていってくれないか? そのうちちゃんとした家を用意しよう」


「お世話になります」


「死の王なんて聞いていたからどんな怖い人かと思っていたけれど良い子じゃない」


「まあまだ確定ではないがな……」


 本当なら魂視者であるイレヲラに先に会わせてクリャウが本当に神託の人物なのか見極めたいところではある。

 しかしスケルトンを操り黒い魔力を持っているのならば神託の人物である可能性はとても高い。


「その……仮に違ったら……?」


 もしクリャウが神託の人物でなかったら。

 クリャウの中でずっとその不安は付き纏っている。


 違っていたら捨てられる。

 グッとクリャウの顔が暗くなってしまう。


「違っていたら、か」


「それならうちにいればいいじゃない」


「えっ?」


 トゥーラはにっこりと笑う。


「ここまで連れてきて人違いだからと投げ出す、そんな冷たい人間のようなことはしないわよ」


 トゥーラはまだクリャウの事情を何も聞いていない。

 しかし子供が一人でここに来るということには何かの事情があることは察していた。


 クリャウの性質は悪い子ではない。

 けれどもどこか自信なさげで下手に触れると壊れてしまいそうな雰囲気があった。


 クリャウは傷ついている。

 体ではなく心に何かの傷を負っているのだとトゥーラは見抜いていた。


「ありがとう……ございます……」


 トゥーラが頭を撫でてあげるとクリャウはもじもじとしながらも拒絶することはなかった。


「少なくともスケルトンを操る能力は役に立ちますからね」


 カティナが助け舟を出す。

 旅の中でもスケルトンは戦ってきた。


 ブラウたちの襲撃でも相手を一人仕留めたし、水賊に至ってはクリャウたちで全滅させてしまった。

 たとえ死の王でないとしてもクリャウの能力がすごいものであることは間違いない。


 クリャウにその気があるのなら神託の人物でないとしてもいてもらえればありがたいと思う。


「そうだな。お嬢も気に入ってるし……」


「ほぅ?」


「スタットのバカ!」


「いで!」


 ほんのり顔を赤くしたミューナがテーブルの下でスタットの足を蹴飛ばす。


「やっぱり別のところに……」


「一度吐いた言葉は引っ込めないものよ?」


「ぐっ……若い男女が同じ屋根の下というのは……」


「いいじゃない。あのこともあるし」


「それはまた別の話だろう」


「子供ぐらい作っちゃえば向こうも文句言えないじゃない?」


「ブフッ!? お母様!?」


 トゥーラが笑顔でとんでもないことを言うものだからミューナが水を吐き出してしまった。


「まだちょっと早いかもしれないわね」


「も、もう!」


「……みんな仲良いんだね」


 クリャウも少し顔を赤くしながら親子の会話を眺めていた。


「部族の中でもみんな仲が良いですよ。クリャウ様も受けて入れてもらえば家族として接してくれるはずです」


「人間が受け入れてもらうのは難しいかもしれないけれどクリャウ様ならきっとできるよ」


 人間に比べて少数の部族なのでトゥーラ、ミューナ親子だけでなく部族の中でもみんな絆が強い。

 クリャウは家族として受けてもらえればいいなと仲が良さそうな様子を見て思った。

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