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原初のネクロマンサー〜いかにして死霊術は生まれ、いかにして魔王は生まれたか〜  作者: 犬型大


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黒い心、黒い魔力3

「この魔族野郎!」


 ブラウが激しく剣を振り回す。

 しかしケーランは冷静に剣を見切ってかわす。


「ぎゃああっ!」


「ドンケ!?」


 森の中から男性の悲鳴が聞こえてきた。

 スケルトンが森の中に隠れていた相手を見つけ出して倒したのである。


「……くそっ!」


 イヴェールとカティナの方も優位に立ち回っていてブラウたちの方が明らかに状況は悪かった。

 このままではマズイとブラウはミューナに目をつけた。


 お嬢様と呼んでいるのは聞こえていた。

 ならばきっと大事なのだろうと思った。


 無理矢理ケーランのことを押し返してブラウはミューナに向かって走り出す。

 

「やめろ!」


「クリャウ!」


 血走った目をしたブラウの前にクリャウが飛び出して立ちはだかった。


「この悪魔め!」


 むしろ好都合だとブラウは思った。

 最初から狙いはクリャウであり、自ら死ににきてくれるのならそのまま切り捨ててしまおうと剣を振り上げる。


「死ねー!」


「させるか!」


 振り下ろされたブラウの剣がクリャウに届くよりも早くケーランの剣がブラウの背中を切り裂いた。


「ぐふっ……」


 ブラウは剣を手放して前のめりに倒れる。

 同時にイヴェールとカティナも襲いかかってきた男たちを倒して、森の中から返り血を浴びたスケルトンが戻ってくる。


「く……そ……」


 背中を深々と切られてブラウは身動きが取れなくなっている。

 ブラウが顔を上げると目の前にはクリャウがいて、複雑な感情を映した目で見下ろしていた。


「お父さんに……何をしたの?」


 血が出ているとかそんなことは今のクリャウにはどうでもよかった。

 父親のことを殺したというブラウの発言がずっと気になっていた。


「ふっ……そのまんまの意味……うっ!?」


「話があるようだからな。そのまま死なせはしない」


 傷はかなり深い。

 そのまま放置しておけばブラウは遠からずに死んでしまう。


 だがクリャウには積もる話もありそうだった。

 ケーランは荷物から傷を治すポーションを取り出すとブラウの背中に振りかけた。


 傷にポーションが染みてブラウは呻き声を上げた。


「何をしたのか教えて」


「死ね……この悪魔……」


「黙って答えろ。敗者のお前に偉そうな口をきく権利はない」


「うがっ!?」


 ケーランがブラウの足に剣を突き刺した。

 なんの感情も見られない目をしたケーランの冷徹な行為であった。


「教えて! お父さんをどうしたの!」


「……殺したのさ! 俺が……いや、俺だけでなくみんなでクシャアンをな!」


 痛みだけでない不思議な歪みを持った笑みを浮かべてブラウは答えた。


「なんで……お父さんは魔物にやられたって……」


「あいつが不吉な力を持っていたからだ! それに……それにあんな美人な嫁を連れていたから……」


「もっとしっかり答えるんだ」


「ぐあああっ!」


 ケーランが突き刺した剣をグリっとねじるとブラウの足に激痛が走る。


「お前の父親はお前と同じ黒い魔力を持っていたんだ!」


「父さんが?」


「うまく隠していたけれどある時にその力を使った……気味の悪い力だ……そのうちみんなの害になると思った。だから殺した。俺が声をみんな従った……魔物の討伐だって言って呼び出し、クシャアンを殺して森の中に放置した。魔物にやられたわけじゃないが魔物の腹の中に収まっただろうよ」


「力ってなんだ……!」


「お前の父親は黒い魔力で魔物を呼び出した!」


「魔物を?」


 なぜそんなことをと思った。

 攻撃するつもりだったのならブラウは生きていないはずだし無闇に人に見せる力ではない。


「危機に陥って俺たちを助けるために仕方なくなんて言っていたな。感謝はしたさ……だがあの不吉な力を頭から離れなかった!」


 ある時村の近くの森に普段見ないような魔物が出現した。

 村でも腕利きのブラウやクリャウの父親であるクシャアンを含めて討伐に向かった。


 しかし魔物は強く狡猾で罠をはっていた。

 罠に引っかかってしまってブラウたちは全滅しかけたのであるがその時にクシャアンが力を使った。


 普段隠していた黒い魔力を解放し、アンデッド系の魔物を呼び出して魔物を倒してしまったのである。

 仲間たちのため仕方なく力を使ったクシャアンは秘密にするようにブラウたちにお願いした。


 その場ではブラウも感謝してクシャアンの力のことを秘密にすると約束した。

 けれども時間が経って冷静になるとブラウの力が黒い魔力によるものであり、魔物を操るという力が非常に不吉なものだと思い始めた。


 だが助けてもらった恩はある。

 ブラウは己の感情に揺れていた。


「なんであんな奴がシャテラなんて良い女と……」


 力のことだけだったならブラウは大人しく墓場まで秘密を持って行ったかもしれない。

 しかしブラウには暗い感情が一つあった。


 ブラウはクリャウの母親であるシャテラに恋心を抱いていた。

 シャテラとクシャアンは元々村の外から来た人で村に来た時にはすでに夫婦であった。


 なのにブラウはシャテラの美貌に惚れていたのである。


「不吉な力を持つクシャアンがいなくなればシャテラも……お前のこと可愛がるつもりだった」


 日頃からブラウはシャテラに対する思いを募らせていた。

 気づけばクリャウも生まれていたけれど子供がいても構わないと思うほどに思いは強くなっていた。

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