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5−3 「口、勝手に借りて悪かったね」

前回の粗筋。


掃除の為に部室に向かった野田を、見慣れぬ男が出迎えた。

柳橋 実。少年の様な外見に死人の様な肌色、真っ青な髪をもつその男は、杵柄高校三年にして、助っ人部の部員であるという。

オカルト分野のスペシャリストと言う胡散臭さ大爆発なその部員の実力や如何に。


ちなみに野田は、現在根本の触れるべからざる領域に触れてしまったようで……?

 ……学先輩の怒り顔怖いよ。鬼みたいな形相だよ。目とか真っ赤だし。背中を見れば多分『天』って書いてあるね、コレ。

 骨を粉砕する様な勢いで俺の両肩を掴み、そのまま握りつぶさんばかりの握力で締め上げる。先程痛感した彼の怪力は、どうやら我を失うと加減が利かないらしく、俺の肩は臨界点突破のギリギリアラームを最大音量で喧しく鳴らしている。

 ヤバい……コレはマジでぶっ壊れる……!

 痛みに耐えながらも顔を学先輩の目に向ける。眼鏡越しに見えた血眼が、憤怒の光を帯びて俺を貫いた。


「……いやだなぁ、野田君。僕がそんな事する筈ないだろ?」

「え?いや、それは……」

「する筈……ないだろぉ!?」


 普段大人しい人程、本気で怒ると怖いものだ、なんてよくある話だけど、痛みを伴った恐怖だとは聞いてないぜ。

 ここは俺としても早く解放されたいがまさか新聞部の相川さんに聞きました、とも言えん。相川が大変な目に遭ってしまう可能性がある。学先輩の性格上それはないと思っていたが、今のこの殺意の波動に目覚めた学先輩なら相川を滅殺してしまうかもしれない。

 俺は咄嗟に頭を巡らせ、嘘を言った。相川曰く、大体こんな感じだった筈だ。


「……火曜日の昼に部室に行こうと思ったら声が聞こえてきまして」

「おいおい、学……お前流石に学校でそれはアウトだろ」


 俺と学先輩のヒソヒソ話に割り込んでくる実先輩。耳良いな、この人。

 学先輩は俺への凝視を中止、耳を小指でほじりながらどうでも良さそうに俺達を見やる実先輩に固い微笑みを向けた。


「い、いやだなぁ……実先輩、この僕がそんなことする訳ないじゃないですか」

「どうだかな……お前がその気じゃなくても、隼弥からって事もありえるし。

 ボクの脳味噌は未だに土曜日での出来事を克明に記憶してあるんだぜ」


 そう言えば、土曜日にも部長の口から実先輩の名前が出てきてた様な気がする。

 もっと言えば、土曜日に茶香子が学校で見た少年ってのはもしかしてこの人だったのだろうか?


「言いがかりは止めて下さいよ。土曜のアレはちょっとした事故だったって言ったじゃないですか。

 隼弥ちゃんはそんな子じゃないし、第一、証拠でもあるんですか?」

「お前らがいかがわしい事をやったと言う証拠はない……。

 だが、お前ならやっていないとも限らない。だってお前ロリコ」

「ストーップ!」


 学先輩は俺の肩から手を離して、実先輩に飛びかかる。二人の先輩は、実先輩が自分の脇に積んでいた本の山を崩しながら倒れ伏す。マウントポジションを取るのは学先輩。必死に実先輩の口を抑えつける。実先輩は上に乗っかる巨漢の学先輩の下敷きになりつつも、冷静な顔で学先輩の目を見ていた。

 むしろその目は楽しんでいるかの様な嗜虐的な余裕さえ浮かんでいる。


「それだけは!後生だから言わないで下さい!」

「…………もがもが」

「『だってお前ロリコンじゃん』」


 突然聞こえてきたその声は、学先輩のものでも実先輩のものでも無論俺のものでもない。

 声のする方を見ると、そこには居たのは、自分の口を抑えた、驚愕に目を剥く茶香子だった。今の声は確かに茶香子の声だったが、口調はまるで違うし、彼女がロリコンとか口にするなんて俺個人としても信じたくない。俺はまだまだ異性に夢を抱いていたい年頃なのだ。

 茶香子自身も自分が何を言ったのか理解出来ていないようで、暫く固まっていた。


「あれ?今の、私が言ったの?」

「……もがもが」

「『違うなら違うって言ってみてよ』……や、やだ……私、何を……。

 『隼弥みたいなペッタペタの幼児体型、毛程も興味は無いって言ってみなよ』」

「……そ、それは……!」

「く、ちが勝手に……『言えないんなら認めたも同然だね』」

「は……隼弥ちゃんみたいな幼児体型には……毛、程も興味はない……」


 呻くように、そして苦しそうに声を裏返らせながらも、学先輩は茶香子の言葉を復唱した。そう、飽くまで茶香子の言葉である。茶香子の様子があまりにもおかしいのには俺にだってわかる。しかし喋っているのは俺の眼がいかれてない限り、どうやったって茶香子なんだ。

 ……って言うか、昼下がりからどんなディープな会話してんだよコイツら。……まぁ、俺も人の事いえないけど。


「『言ったな!?隼弥に当然報告させてもらうぜ。

 ボクの携帯の録音機能もONにしてあるから、証拠もバッチリだしな』」

「……そんな……それだけは……!」

「……もがもが」

「『認めろよ、学……いい加減によぉ!』」

「ぐ……ぐぬぅぅぅ……」


 学先輩は、実先輩のその一言にヘナヘナと脱力し、実先輩の上から、掃除最中の畳の上に腰掛けた。真っ白に燃え尽きてやがる。口からはフフフフフフ……と言う生気の感じられない笑い声が漏れていた。うぅむ、まさか学先輩がこんな可哀想な事態になるとは。言葉攻めをする茶香子か……ないな、コレは無い。

 しかし何となくこの人ならアレくらいの事あっさり受け流すと思ってたんだけど。突ついちゃいけない角度だったのだろうか。あまりの落ち込みように多少なりとも責任を感じたのか、実先輩は学先輩の肩にポンと手を置いて言った。


「そんなに落ち込む事じゃないぜ、学。

 お前は隼弥を愛しているんだろ?

 なら何を気にする必要がある。愛があるなら愛し合え。

 あ、でもちゃっと然るべき場所でな。あと、絶対付けろよ」


 仮にも純情な女の子がこの場に居るんだからそう言う発言はお控え願いたいんですが。学先輩はとうとう眼鏡の奥の血眼から涙を流しだした。……ガラスのハートなんだな、この人。実先輩は、更に傷口に粗塩を塗り込む様な事を口にし始める。


「おいおい、泣く事無いだろ?大丈夫だよ、学。前々からボクはお前の性癖はよぉく知っていた。

 いいじゃないかよ、ペドフィリアでも。世の中にはそれで救われる奴もきっといる」


 どんな奴だ、それは。


「うわああああぁぁぁぁ!」


 実先輩の励ましは、生憎俺にもトドメにしか聞こえない。俺だって前々から気づいてたけど言わないで我慢してたのに。年上って怖い。でも流石にあのチビ助でチンチクリンな部長に手を出したとあっては弁解のしようもないだろう。

 結果として学先輩は叫び声を上げながら部室から走り去ってしまった。あーぁ、可哀想に。


「ボクの言動一つであんなになるなんて、アイツ大丈夫かな?

 世間からの風当たりはもっと強いって言うのに」


 実先輩はいやに冷静だった。人を泣かせておいてこの言動だもんなぁ。しかしそれでも、憂いを帯びたその顔は、本気で心配している顔だった。うぅん、この人後輩思いなのかどうなのかよく分からん。


「あ、茶香子ちゃん。口、勝手に借りて悪かったね」

「えっと、あの……な、何かよく分かんないですけど、どう致しまして」


 口を……借りた?人の口って貸し借り出来るものじゃないだろ。もしかして、さっき言ってたスピリチュアルなパワーの賜物なのか?不思議そうな顔をして悩む俺の思考を、まるで読み取ったかのように俺に向き直る実先輩。


「口寄せの術の応用……って言っても分かりゃしないか。

 学に口を塞がれてたからね、悪いとは思ったけど茶香子ちゃんの口にボクの言葉を代弁してもらったんだ」

「うぅ……なんかまだ口が気持ち悪いです……。

 何か、釣り糸で無理矢理唇とか声帯とかを引っ張られてる様な感じ」


 練習中の劇団員みたいに口をパクパクする茶香子。終いにはアエイウエオアオと、実際の発声練習を始めてしまった。彼女の意志で先程の言葉を発した、とは俺には思えない。言葉の内容的にも。


「ま、これでボクの事も少しは理解してくれたかな?」


 霊体験を間近に見せつけられて信じない訳にもいかないだろうけど、正直理解したくはなかったな。この人の言う事を信じるとはつまり、幽霊とか呪いとかまで信じなけりゃならん。茶香子じゃないけど、信じていなかったからこそ、いざ目の当たりにすると対応に困るな。


「ね、識君」

「ん?どした」

「ロリコンとかベドフィリアとかって、何語?

 あと、付けるって一体何を付けるの?」


 もう一人対応に困る人がここにいました。

 茶香子さん、頼むから穢れ無き天使の如く後光を放つ程に眩しい笑顔でそう言う質問しないでくれないかい。半端ではない自己嫌悪が俺を襲うんですよ。あぁ、俺って汚れちまってるんだなぁ……。やっべ、泣きそうなんだけど。


「茶香子ちゃん。ロリコンって言うのはね」

「コラそこ!何にも知らない無垢な女の子にそんな言葉教えるなんて、お父さん許しませんよ!」

「誰がお父さんなんだよ。

 ……でもさ、高校一年にもなってソッチの知識が欠片も無いんじゃマズいだろ、流石に。

 保健体育の単位、ちゃんと取れるのか彼女?」

「でも、要る知識と要らん知識があるでしょうが」

「付ける、すら分からんのはヤバいぞ、野田君。

 万が一の事があったら、君だって高校にも居られないんだぞ?

 ……いや、コレは隼弥がどうにかすればいいか」

「そんなのは俺が知ってれば良い話でしょうが!俺の親父かテメェは!

 ってそれ以前に!そもそも俺達はその……そういう関係じゃ、ないんですよ……」

「え?そうなん?

 隼弥が言ってたからてっきりそうだとばかり……」


 部長はなんて適当な事を吹き込んでんだよ。

 俺達は何だかんだあって有耶無耶になって、そう言う関係に結局なり損ねている訳で。どうも最近忙しくてこの微妙な距離感を気にする余裕があんまり無かったから普通に接している時に、いきなりそっちの方に話を持っていかれると俺としても心がムズムズするんです。今は機会を窺う雌伏の時なんで、そっとしておいてくれませんかね。

 ヒソヒソと声のボリュームを絞って、先輩と内緒話で俺は上記の様な事を告げた。

 先輩もそれに乗っかって声を小さくしてくれたのが救いだ。さっきは普通に茶香子も聞いてた筈だしな。……これについても茶香子から質問されるかと思うといよいよ気が滅入ってしまうから、幸いだよ、本当に。


「そうか……まだだったのか。まぁ、安心すると良い。

 さっき恋愛運占った結果、君と茶香子ちゃん、中々好相性だったよ」

「え?……へへ、そうなんだ……」


 惜しげも無く俺は照れ笑いを浮かべていた。

 この人、性格に難がありそうだが、一応部長の眼鏡に適った人材なんだしきっと実力の程は相当なんだろう。今言った占い結果も、朝のニュースの占いとか占い本よりはかなり信憑性があるよね。

 ん?でも、ちょっと待てよ?


「どうして俺と茶香子の相性なんか占ったんです?」

「ま、そんなのはどうでもいいでしょ?

 早く掃除終わらせないと、日が暮れちゃう」


 悪戯を成功させた悪ガキのような笑みを浮かべながら、実先輩は俺の質問には答えず再び本棚の整理に戻る。まぁ、別にどうでも良い話か。大事なのは結果だ。占う理由なんて大体どうでもいいものだ。興味本位とかそんなとこだろ。

 俺は自分が未だに靴を履いて玄関先に突っ立っていた事に気付き、靴を脱いで畳の上に足を上げた。

連載当初から予定していた新キャラをようやく登場させられた。

今回はキャラ紹介程度の筈の回なのにどうしてこう、エロく長くなるんだろう。


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