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5−1 「お仕事ってのはそう言うんじゃないんだよね」

前回の粗筋。


勝手に助っ人に参加した事について部長に叱られた野田。しかし何だかあっさり許された。

電話を切る間際、部長は少し妙なことを言う。

『おおよそ私の計画通り』

意味を深く考えようとした野田だったが、単なる思い過ごしとして、考察を止めた。

 翌木曜日。俺は剛志に付き合わされて朝練に参加していた。

 どうって事の無い基礎練ばかりだったんで、無尽蔵の体力を持つ俺としてはただただ面倒くさいだけであった。ドリブルなんかやらなくていいだろ、俺。


「そうはいかん。お前は前線にも使えるからな」


 と言うのが剛志の弁にして、今現在何故か俺がシュート練習を行なっている最大の理由らしい。

 キーパー代わりに立ってくれている同級生にしてサッカー部員の泉谷を見ろ。さっきから俺の放つシュートのせいでアイツ、縮こまっちまったじゃねぇかよ。


「おい、泉谷!なにビビってんだよ!」


 手で頭を抑えてうずくまる泉谷のもとまで走って行った剛志は、泉谷の頭を叩いた。泉谷の事は正直名前以外には殆ど知らないんだけど、どうも荒事は苦手な性格のようだ。泉谷は剛志を見上げて抗議の声を上げる。


「んな事言ったって……無理だよぉ、こんなの。二宮もこっちに立ってみてよ」

「おうよ」


 急遽泉谷選手、交代です。代わりましてはキーパー、二宮選手。左サイドから回ってきたパスを受け取った野田選手、ゴールへ独走状態!そしてシュート!……決まったぁ!二宮選手、一歩も動けませんでした!


「……って、おい」

「い、いざこっちに来るなると、全然違うな」


 でも多分、お前のシュートよりは遅いぜ。こんな事を言えばこの男がまた調子に乗って俺をバカにするのが目に見えているので、何も言わないけど。


 朝練は元々人数が少ない事もあってメニューなんてあって無きものなんだとか。剛志達と遊び感覚で練習している分には、サッカーもある程度は楽しむ事ができた。しかし、高度な戦略と多人数のチームワークが重視されるサッカーと言うスポーツにおいて運動神経のみの俺は果たして役に立つのだろうか。ただでさえ部長を失ってしまっているこの部活で、俺が十分な働きを出来るとも限らない。その事が少し不安である以外は、何の気負いもない平和な日。

 それが今日一日である……筈だった。






 放課後、俺がサッカー部の練習に行くために更衣室で体育着に着替えていた時の事だった。


「やぁ、野田君」


 入り口から聞こえてきた声に振り返る。そこに立っていたのは……誰だ?顔が見えん。なんて思ったのはほんの束の間。顔が見えない理由を考えればそれが誰かなんて一発で分かる。

 少なくとも俺の知り合いの中で、ドアから顔が見切れる程の長身の男は一人しか居ないからだ。


「……もしかして、学先輩ですか?」

「うん。しかし、更衣室は相変わらず狭いなぁ」


 根本学。日曜日に大会議室で顔を合わせたきりだった、助っ人部の二年生だ。

 部長と仲が良く基本的に温厚で人の良さそうな微笑みが印象的だが、その実部長を菓子で釣って手玉に取る狡猾な側面を持つ、ある意味では部長以上に腹の底が知れない、身体が異様にデカい大男である。

 身体を小さく屈めて入室してきた学先輩は、自分の頭を擦りながら相も変わらず胡散臭いにやけた表情を顔に貼付けて爽やかに言った。……何処かでぶつけてきたんだろうか?


「俺に何か用事でも?」

「あぁ、茶香子ちゃんに聞いたらここかもって言うから」


 学先輩は背を丸めて俺を見下ろしつつ、少しズレた丸眼鏡を押し上げた。一瞬だけその眼鏡が室内の明かりに反射してキラリと光る。


「今日はちょっとサッカー部の練習休んでもらって構わないかな?」

「へ?何で?」

「助っ人部のお仕事だよ。だから今から部室に来てくれ」


 お仕事……って事は何処からか助っ人の要請があったって事なんだろうが、今日は平日だ。休日じゃなければ大会への助っ人なんてありえない筈だけど。


「いいっすけど、何の派遣ですか?」

「お仕事ってのはそう言うんじゃないんだよね。

 部室の掃除をやろうかと思って。今日は隼弥ちゃんも留守だしさ」


 部室ってのは、部長の住まいと化しているあの部室棟の畳部屋の事である。あの部屋の掃除は部長がやるべきだろ。使ってるの殆ど部長じゃねぇかよ。好き好んで他人の部屋の掃除をしたくなる程俺がお人好しに見えるのかね、この人は。俺だって自分の部屋の掃除もままならないってのに。

 ……まぁ、俺もよく入り浸ってるからそんな事言えた義理はないんだけど。


「隼弥ちゃんって、自分が得意な事以外はてんで駄目なんだよね。

 一人暮らしのくせに炊事洗濯掃除すら碌に出来ないんだ。

 だから普段から僕がちょくちょく家事を手伝ってる。

 ほんと、昔は酷いもんだったよ。あの頃は本当に大変だった。

 掃除機を振り回せばゴミと埃を撒き散らし、洗濯機は自分の吹いた泡でショートする有様。

 カップ麺すらまともに作れなかったくらいの料理下手。

 今では僕の教えが功を奏したのか彼女の努力の賜物か、マトモな生活を送れるくらいにはなったけど」


 だったら尚更俺が部長の住まいを掃除する理由がなくなるじゃないか。掃除が出来るんなら、俺達がお手伝いさんみたいな真似事を必要とはしないだろう。学先輩はともかくとして、俺は部長に奉仕する気持ちなんて持ち合わせている程心は広くないぞ。


「そう文句を言わずにさぁ。

 隼弥ちゃん、面倒くさがりだから普段掃除なんてしないんだよ。

 折角隼弥ちゃんも留守なんだし、この機会に部屋を見違えさせてやろうじゃないか」


 部屋を見違えさせるのはサプライズとしては良いかもしれないけど、勝手に部屋を掃除されて気分のいい人ってあんまり居ないだろ。俺もお袋が勝手に部屋を掃除して、エロ本含めた本類が綺麗にアイウエオ順に並んでた時はお袋に殺意を抱いたのと同時にその場でぶっ倒れて死にたくなったしな。

 その旨を伝えると、学先輩はハハハ、と声を上げて笑いだし、


「大丈夫、大丈夫。

 あの隼弥ちゃんが見つかってまずい物を部室に置きっぱなしにしておくと思うかい?」


 何故か囁くように俺の耳元でそう言った。

 ……言われてみれば、確かにそうだ。あの賢しい部長がそんなマヌケを犯すかと言えば、そんな気は微塵もしない。


「納得できたかい?じゃ、行くよ」

「いや、俺今パンツ一丁なんで、引っ張らないで下さいよ……!」


 学先輩は猛烈な力で俺の手を引きそのまま連れて行こうとしたので、俺はかなり慌てた。パンツ一丁であることもそうだが、この人が見た目相応に怪力である事に。

 俺をも上回る怪力とは、我ながら尋常じゃ不可能だと思うんだけどな。体格は嘘付かないね。その後、何とか着替える猶予を頂いた俺は、自らの足で部室へと向かった。

木曜日篇に突入。


木曜日はかなり長編の予定。

この期に及んでまだ新しいキャラクターを追加する事になりそうです。

段々僕がキャラを把握出来なくなって来てる気がして、少々不安。

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