4−5 「……なんか、手抜いてないか、お前」
前回の粗筋。
PKモドキ合戦に勝利を収めたのは意外や意外、二宮であった。
野田は後少しと言う所で敗北を喫し、どことなく悔しさを覚え、同時に才能に勝利した努力の存在を目の当たりにし、心底安堵したのだった。
放課後、サッカーの練習に顔を出した俺だったが、それはもう大変だった。
まず、部の全員から胡散臭い目で見られた。何だコイツって全員の目が訴えていた。一羽だけ白い鴉のような悪目立ちの中で、俺は肩を縮こまらせて剛志を恨んでいた。それは剛志にも言える事で、説明を求める無数の視線が剛志に突き刺さった。
「お前の実力を見せてやれば、皆納得してくれるって」
剛志はそう言っていたのだが、何を見せれば良いんだよ。成り行き上、一先ずは副部長の指示により、共に練習する事にはなったのだが。
ランニングによるウォームアップに始まり、パイロンを使ったジグザグドリブル練習やら、パス練習やら、試合形式の動きの確認やら……初めての俺は何が何だかよく分からないまま、目を回しながら付いて行くのがやっとだった。全く動きが分からないので、俺はすっかり練習のお邪魔に。列は詰めるし、人のボールは蹴るし、ビブスは間違えるしといった風で、部外者丸出しの行動を何度もとってしまった。
部員からは先程よりも冷たい視線が向けられる。背中に氷塊をおぶってるような気分になってきた。見かねた剛志が俺に声をかけてきた。
「……なんか、手抜いてないか、お前」
「んな訳ないだろ。ただ、何をどうすれば良いのか分かんないんだよ。
サッカーってただ球蹴ってれば良いもんだと思ったら、全然違うな。
さっきから動きがどうのとかポジションがどうのとか……頭がパンクしそうだぜ」
「あー……そっか、お前馬鹿だもんな」
殴るぞコラ。
「いつもならもっと基礎練習の時間が長いんだけどな。
大会が近いから、試合を意識した形式練習中心なんだよ。
でもま、次はお前でも活躍出来る練習だ。全員ビックリすると思うぜ」
剛志の言う練習と言うのはそのまんま、シュートの練習の事であった。昼休みと同じように立たされる俺。そしてそれぞれのポジションへ移動して行く部員の方々。剛志もその一団に入っている。その様子をマネージャーの人達が遠くで固唾を飲んで見守る。
……俺の側にも勿論ディフェンダーは居るんだが、実際に見るとえらく少なく感じるなぁ、やっぱり。
「行くぞーっ!」
副部長がそうやって声をかける。部員達がパス回しを開始した。流石に皆上手い、テキパキと、メリハリの有るボール運びで見る見る内に接近してくる。
ディフェンダーも上手く進路を妨害しつつカットを試みるが、本気で止めにかかっている訳ではないらしい。……まぁ、シュート練習だって言うしな。
俺の目前まで迫ってきたフォワード。この人はさっき見たな。副部長だったっけ。名前は知らん。いつ撃つ、いつ撃つと身構えていると、PKの位置よりも遥かに近くに寄って来て、ほぼ俺の目前5メートル程の場所で足を大きく振りかぶる。俺はいつもとは違う距離感に少し面食らいつつ、シュートに備えて身構えるが……。
何も慌てる必要はなかった。
「おりゃ」
飛んで来た球を軽く足を伸ばして受け止め、そしてそのまま俺は手でそれをキャッチ。
何の事はない。球が遅いのだ。剛志のアレに比べたら自転車とF1カーくらい違う。易々とゴールを守ってのけた俺を、副部長さんは口を開けて呆然としていた。
「……あれ、もしや、止めちゃマズかったですかね?」
「え?……いや、いいんだよ、止めれる球は止めてくれて構わない……よ……」
引き攣った顔で冷や汗を垂らす副部長。なんだよ、その意外そうな顔は。
遠くで剛志が親指を突き立てて俺に向けているのが見えた。心底嬉しそうな顔でこちらを見ている。……喜んでもらえたようでなによりだ。その後も練習は続く。俺に飛んでくる、正確には俺の守るゴールに飛んでくるボールを、俺は悉く食い止め、受け止め、弾き跳ばした。数発危ないのもあったが、それは全て剛志が放った弾丸シュートだ。今度はしっかり止めてやったが。
「……つ、次の練習するぞー……」
数十分後、次の練習メニューが始まる頃には、すっかり俺を見る冷たい視線はなりを潜めた。……代わりに、胡散臭い視線はもっと多くなった気がするけど。
ちょっと短いですよっと。