4−3 「何なのこのコント……」
前回の粗筋。
剛志との喧嘩の後、屋上でふて腐れていた野田の元に、木下が慰めに、そして叱りにくる。
仲直りしないと殺す、と遠回しに言われた野田は、複雑な気持ちを抱えつつも謝りに腰を上げるが、その折になんと二宮から呼び出しのメールが……。
「遅かったな」
「色々あってな」
剛志の第一声がごめんなさいだったら俺もごめんなさいを言うつもりだったんだ。でもさ、服着替えてこの時間だったら最速じゃないか?お前もそう思うだろ、茶香子。
だから本気で刺す様な目で俺を見るのは止めてくれよ。……こら、ポケット漁るな。
「木下さんまで居る理由は……まぁ、聞かないでおこう」
「さっさと用件を言えよ」
「俺と勝負しろ、野田」
薄暗い、部室のベンチに脚を組んで座っていた、ユニフォーム姿の剛志は足元に転がっていたサッカーボールを拾い上げて指先でクルクルと回しながら、端的にそう言った。
しかし本当に昨日の惨劇が完全に無かった事にされている。剛志のふてぶてしい様がまるで昨日の林原にピッタリ重なってしまうくらいに、当時のままを再現していた。流石は桐生部長だ、気持ち悪い事山のごとし。俺が言葉を返す前に、後ろにくっついてきていた茶香子が、俺と剛志の間に割って入る。
「勝負って何する気?殴り合いだったら許さないからね」
「安心しな、木下さん。そんな気は毛頭ないよ……朝の事は正直悪かったと思ってる」
剛志はそれを俺ではなく、茶香子に言った。おい、このタイミングでそれを言うのは反則じゃないか。俺が口を挟むタイミングがないぞ。剛志は俺の挙動不審ぶりに気がついたのか、ニヤリと笑って続けた。
……こいつめ。
茶香子は剛志の殊勝な態度に顔を緩ませて、すぐさま俺を睨みつけた。そんなに見ないでも分かってるっつーの。俺は素直に剛志に頭を下げた。
「お、俺も悪かった。あんな事言うつもりは無かったんだ」
「まぁ、でも今更そんな言い訳を聞く訳にはいかねぇよな。
だからこそ、お前にはこの勝負を受けてもらおう。
いや、許して欲しければ受けるんだな、野田」
普段通りの明朗快活な声が俺の鼓膜を揺する。切り替えの早い奴だ。と言うか早すぎるだろ。そんなに一気に態度を軟化されたら俺だって混乱するわ。
「俺が勝負に勝てば、お前には来週の地区大会に助っ人に来てもらう。
お前んとこの部長も何も関係ねぇ。是が非でも、死んでも来てもらう。
お前が勝てばお前の好きにすれば良い。
サッカーが嫌だってんなら、無理にサッカーに呼んだりしねぇし助っ人も頼まんし、雑誌もボールも押し付けん。
お前が止めろってんなら、俺はサッカーを止めてもいい」
「な!……お前がサッカー止めるって……そんな……死ぬ気かよ剛志!?」
「いや、識君。そんなオーバーな話じゃないでしょ」
「あぁ、俺はそれくらいの覚悟を持って勝負を申し込んでるんだ。
正直今、自分で想像して肝が冷えたぜ。見ろよ、手だって震えてやがる……」
「……えぇー」
「馬鹿が……!俺が、俺がそんな残酷な事、言える訳ないだろ!」
「あ、あの」
「あぁ、確かにそうかもな……だが、この二宮剛志、約束は違えん!
何でも、お前の言う通りにする覚悟は出来ている!
さぁ、この勝負、受けてくれるか!?」
「何なのこのコント……」
酸素よりもサッカーが必要なこの男が言うんだ、余程の覚悟でこの約束を交わすつもりなのだろう。畜生、そんなリアルな背水の陣を敷くだなんて……なんと命知らずな男なんだ……。そこまでされたら、俺も首を縦に振るしかないじゃないか!
「お前の覚悟、見せてもらった。いいだろう、その勝負受けて立つ!」
「ふ……野田。流石俺の見込んだ男……よし、行くぞ!いざ!」
『戦いの場へ!』
「男の子って……」
茶香子が何故か唖然とした顔で、小さく呟いていた。そうです。男の子って、こんなもんです。
Q、何なのこのショート……。
A、長過ぎるからちょっと小出しにする作戦。