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2−1 「へっ、部活、ね。俺はどうも気に入らねぇな」

前回までの粗筋。


自動車復元を待つ間、野田は根本からの電話に出ていた。

根本も部長も、木下を怖がらないでくれと言う。野田は勿論、と答えた。

しかし一方部長は結構頭に来ていたらしく、野田と木下は一晩中追っ手から逃げ惑う羽目に。そして二人とも部長の恐ろしさを身を持って味わったのだった。

 俺達だけが騒がしかった日曜の夜が空けて、月曜日の事である。月曜日と言えば当然学校がある訳だ。

 朝のHRまでの間、続々と教室に集う同級生達に爽やかに挨拶をする事も無く、俺は机に突っ伏していた。……眠い。眠くてたまらない。

 結局全てが終わって帰ってきたのは午前五時過ぎ。お袋にも親父にも朝帰りについて長々説教を喰らい、朝飯をその場で食ってもう登校の時間。つまり全く寝てないのである。


「うぃーす。おい、野田ぁ。朝っぱらから寝てんじゃねぇよ!」


 頭上の辺りから爽やかで明るい男の声が聞こえてくる。朝から元気な奴。顔を上げるのも面倒で、俺はそのまま手を挙げて挨拶として返すと、男は俺の頭をグシャグシャと掻く。


「元気ねぇな?月曜からそんなんで、一週間持つのか?」

「今日一日持たないかも知れない。オラに元気を……いや、宿題を分けてくれ……」

「ん?……あぁ、数学の奴な。何お前、あんなんも出来ないの?」

「うるせぇ」


 顔を上げて抗議を返す。目線少し上ににこやかな男の顔があった。いきり立つ短髪、意志の強そうな大きな眼、キリッと太い眉、高い鼻。濃ゆいパーツが揃っている。空手とかボクシングとかの格闘技をしている姿が似合いそうな顔だ。


「何でお前は元気なんだ?」

「朝練やってきたからよ。すっかり目が覚めたぜ」

「そうかい。サッカー部は元気だな。お疲れ様、お休み」

「おいおい、体力自慢が聞いて呆れるぜ」

「眠いんだよ、昨日あんまり寝れなくてさ」

「なぁに言ってんだよ。俺より暇なお前ならいくらでも寝れるだろうが」


 そう言って容赦なく俺の頭を引っ叩きやがる。別に良いだろうが。朝のHRまでの時間は何に使おうが生徒の勝手である。この男はそうは思わなかったようだが、俺がそう思ってるんだから俺の勝手だろ。

 と言う愚痴を撤回したくなる様な天からの恵みを齎したのもこの男だった。


「今の時間に宿題見せてやるからよ。起きろ」

「マジか!?……いやぁ、すまんな、剛志」

「また自力で出来なかったのか?」

「いや、週末は色々と忙しくってよ」


 実際予定は大したものが入っていなかったが、やる暇が無かったのは事実だ。まぁ、やろうとしたけど出来なかったのも事実なんだが……。

 ポケットから小さく折り畳まれた宿題を取り出した俺を、剛志は怪訝な顔で見た。


「お前なんでそんなとこに……そういえば、鞄どうしたんだ?

 なんで持ってないんだ?」

「あぁ、それはな、」

「おはよ、識君。あと、お友達の……」

「おぉ、おはよう、木下さん。俺の名前は 二宮 剛志(にのみや たけし)ね。

 もう二ヶ月くらい経つんだし、いい加減クラスメイトの名前くらい覚えてくれよな」

「ご、ごめんなさい二宮君」


 右から会話に割って入った声の主は、茶香子であった。元々ボリュームは小さい声だが、今は更に音量三割減である。それも当然か。彼女も碌に寝ていないだろうしな。


「これ、鞄。軽トラの助手席の足元にあった」

「……やっぱりそこに忘れてたか。わざわざありがとう」

「今度から気をつけてね」


 そう言って鞄を俺に手渡した茶香子はフラフラと、酔っている訳でもないのに危なっかしい千鳥足で自分の席に戻り、身体を机にべったり付けてものの数秒で寝息を立てだした。昨日はバイクを運転しっぱなしだったからな。俺よりも遥かに疲れているだろう。


「なんだぁ?木下さんまで寝不足かぁ?」

「だろうな……」

「だろうなってお前……二人揃って寝不足、鞄を車に忘れて……お前まさか昨日は」

「テメェの思う様な事は全然ねぇからな、このピンク脳味噌。

 良いから早く宿題見せてくれないか?」

「如何に殿のご命令と申されても、詳細を聞かせて貰うまで密書を渡すわけにはいかぬでござる」

「誰が殿だよ……。部活の帰りにちょっと寄って機械弄り見せてもらった。

 そしたら意外と夜遅くなった。以上」


 実際はもっと面倒な事があったのだが、コイツに言っても詮無い事だ。部長のお仕置きの詳細なんて知った所で誰も得しない。


「へぇー。野田は木下さんと夜遅くまで遊ぶ程度に仲良しなのかー。ウラヤマシィナー」

「……詳細教えただろ。早くその秘伝の書をこちらに渡すのじゃ」

「なぁ、木下さんってクラスの男子の事は全員名字で呼んでるんだぜ。

 俺は名前すら忘れられてたし。どう思う、『識君』よ」

「部活の仲間なんだから仲良くて当たり前だろ」


 俺はじれったくなって目の前に垂らされていた数学のプリントを奪おうと手を伸ばしたが、剛志はそれを上手く避ける。剛志は眉間に皺を寄せて吐き捨てるように俺を睨みながら言った。中々おっかない顔だ。


「へっ、部活、ね。俺はどうも気に入らねぇな。

 助っ人部とか言ったっけ?お前が野球部蹴ってまで入った部活。

 部活ってのは生徒が自主的にやりたいから入るもんだろ?

 入部に審査があるなんて部活じゃねぇ」

「あー……ま、まぁ、そうだな」


 コイツは俺の入部の経緯や助っ人部の真実を知らないようだ。それはとても幸福なことである。誇って良いぞ、剛志。なんせアレは部活の皮を被った君主制国家で徴兵令を採用しているからな。……なんてとても言えない。事情を人に話している事が部長にバレたら、また一悶着あらんとも限らん。

 何とか話を逸らそうと、俺が口をぱくぱくしていると、剛志は溜め息をついて、眼を伏せた。


「お前があんなのに入って、ホントに残念だよ。

 小学生の頃からサッカーの楽しさをお前に説いているというのに、その結果がこれとはな」

「説いてる……ねぇ」


 古いサッカーの雑誌を俺に押し付けるのは楽しさを説いてるとは言わんだろ。お前と遊びでやる時も俺はいつもキーパー役で、サッカーの楽しさなんてまるで理解出来なかったし。俺だって球蹴りさえすれば何かに目覚めたかも知れないってのに惜しい人材を失ったな。


「先輩がお前によろしく言っといてくれって。

 近々助っ人を頼むかもしれねぇってさ。

 まぁ、経緯はともかくよ、一緒にプレー出来る日を楽しみにしてるぜ」


 そう言ってプリントを俺に差し出す剛志。俺は漸く身体を起こしてそれを受け取った。彼、二宮剛志は俺が小学生の頃からの友人である。気さくな性格、いかつい見た目通り頼りがいのある男で、昔から男子からだけでなく女子からも結構人気の高い奴だった。

 小中とサッカー部に所属して、高校になっても当然のようにサッカー部に入部。若干一年生にして、早くも県下では有望株とされている期待の新人だそうだ。

 しかしコイツは俺とは違って特別な才能があった訳では無い。

 小学生の時はずっと補欠であったが、地道な努力を誰よりも多く積み重ねていき、中学二年にしてフォワードとして実力を開花させた。パスはズレるしドリブルも荒削りでしょっちゅう反則を取られるらしいが、異様なまでのシュート成功率を誇り、ゴール付近で奴にボールが渡ったらその時点で一点ゲット、とすら言われている程らしい。

 俺は部に所属していないのに無理矢理暗くなるまで練習に付き合わされたのも、今では良い思い出である。サッカーを愛し、サッカーの為に生きている様な人間で、根っからのスポーツマン気質。二宮剛志という男は口を開けば三言に一言は『サッカー』と言う単語が出てくるサッカー馬鹿である。

 と言いつつも、成績は中学時代から中の上。割と大学進学にも力を入れている杵柄高校への進学も推薦に頼らず自身の学力の賜物である。

 出席番号が近いため席も近くなる機会も多く、俺が宿題をこうして見せてもらう機会もそれに比例して多い。


「いつも迷惑かけてすまんな」

「良いって事よ。お前だけ留年なんて悲しいじゃないか」


 笑いながらそう言う剛志であったが、それは冗談で済まないかもしれない問題だから困る。朝のHR開始まで後十分弱。写すだけなら終わるだろう。留年を免れる為には、成績だけでも及第点を取らねばならない。どんな点でもかろうじて足並み揃えて進級できた中学時代とは勝手が違う。自分の実力を発揮して白紙で出すよりはよっぽどマシだ。

 少し言い訳じみているのは十分承知だが、これが俺の今の現状なのだ。

 傷だらけの自尊心にまた一つ傷をつけつつも、俺は茶香子から受け取った鞄に入っていた筆箱を取り出した。

月曜日篇の開始。

これは長くて、しかも少しシリアスになるのです。


そして更に増える新キャラ。

次回もまたキャラが増えるけど、そろそろストップすると思います。

今現在の予定では後二人くらい。

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