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1.仲良くなる前のこと

「ダメです、冴子さん。

私は“したく”なります。

帰りましょう。」

私の背中に回されていた腕を、河合先生は離し、自分の唇を私の唇から離しました。その唇は、本当は離れたくないという本音が伝わってきますが、彼は理性だけで離すのです。彼の本音は“したく”ということですが、彼は自分を守るために鉄の理性を持っているのです。私もそのことを理解し、思い切って彼に対して“嫌だ”と本音をぶつけました。


私の名前は小島冴子。先日40歳になったばかりのパート主婦です。普段はスーパーでレジ打ちのパートをしています。今、私は夫以外の男性に夢中になっています。その男性とは、娘が習っている柔道場の指導員、河合先生です。私には今年、小学6年生になった一人娘の翠がいます。翠は保育園の頃から柔道を習っており、私は柔道とは無縁の家庭で育ちましたが、夫の健二の家では健二や健二の兄の紘一さん、そして数年前に亡くなった健二の父親は柔道の道場長を務めていたという、柔道一家でした。そのため、娘の翠も物心がつくころには柔道にはまる生活を送っていました。


夫の健二とは15年前に元の職場で知り合い、結婚しました。健二は私より5歳年上の45歳で、平凡なサラリーマンです。結婚3年目の時に翠を妊娠し、出産と同時に私は退職し、専業主婦になりました。翠が小学生になると、私はスーパーでパートとして働くことにしました。


翠が4歳の時、私は第2子を妊娠しましたが、8週目で流産してしまいました。それ以来、約10年間、健二との夫婦の関係はなくなりました。健二は45歳で私との男女の関係を持つことはありませんでした。私たちはもはやただの同居人でした。


30代の頃は、子育てと仕事で忙しく、健二との関係がなくても気にしなかったのですが、翠も小6になり、手がかからなくなると、突然寂しく感じるようになりました。私は昔から恋愛に依存する性格で、健二との現状に飽き飽きしていました。


主婦でありながら、私も恋愛をしたいと思うこともありましたが、そう簡単に出会いはありませんでした。このまま女性としての一生が終わってしまうのかと思っていました。


しかし、そんな私に転機が訪れました。まさか近くにいた、娘の柔道の指導員が私の相手だったなんて...



河合先生は、私よりも15歳年上で、55歳です。

その痩せた体型と長身からは、

柔道の指導員とは思えないほどの外見です。

柔道教室には、河合先生の他に

道場長とその弟さんの2人がいます。

小学生の道場生は、各学年2~3人ずついて、

合計15人です。河合先生は、

通常の稽古の指導の他に、

大会出場の手続きや試合の審判など、

裏方の仕事を主に担当されています。

道場長は河合先生よりも若いですが、

亡くなった義父から

道場長の座を受け継いだため、

雑用などは全くやらないので、

河合先生が引き受けておられます。

河合先生は柔道が大好きというだけで、

指導員を続けているのです。

ちなみに、私の夫の健二は

中学卒業後に柔道を離れ、

義兄の紘一さんは単身赴任のため、

帰省時に道場に顔を出す程度です。


私が河合先生と親しくなったのは、

娘の翠が小学5年生になった時でした。

それまでは、道場長の孫という立場で、

他の指導員との距離がありました。

翠の柔道道場では、5年生の親が会長となり、

父母の会を主体として活動が行われています。

5年生になる前の父母会の総会で、

同級生の親3人で会長決めのためにじゃんけんをしました。

私は意外にも負けてしまい、

結果として会長に任命されてしまいました。


夫の健二は柔道をしていたとは言っても、

現在は柔道を嫌っているため、

父母会の活動には一切関わってくれません。

そのため、私は前会長や元役員経験者から

アドバイスを受けながら、

なんとか1年間の会長を務めることになりました。


会長になるとすぐに、

雑用係の河合先生に連絡をしました。

普段は個人的な連絡は必要なかったので、

個別の連絡先は登録していませんでしたが、

グループラインから河合先生のアカウントを見つけて

【友達】になりました。


2023年2月18日(土)

【いつもお世話になっております。

小島翠の母です。

次年度の父母会会長となってしまいました...

何かありましたら、連絡ください。

1年間、どうぞよろしくお願いします。】


その数分後に、河合先生からの返信が届きました。

【お疲れさまです。

父母会の会長、大変だと思いますが、

頑張ってくださいね。

ちなみに私も父母会の会長を務めた経験がありますので、

安心してください。どうぞよろしくお願いいたします。】


これが、河合先生との初めてのラインでした。

それから1年間、大会や行事があるたびに、

河合先生から父母会としての協力依頼があり、

それを父母会に伝えて行事を進めていきました。

私たちはお互いに敬意を持ちながら

(河合先生からすれば、私は恩師の息子の嫁という立場です)、

ラインのやり取りは全て丁寧な言葉遣いで行われました。



月日は流れ、娘の翠が、

小学校6年生になる1か月前の出来事でした。

私は会長の任期が1年間であるため、

次期会長が決まり、

私は父母会の会長から解放されることになったのです。

このことにより、

私は河合先生との個人的なやり取りももうなくなるのだろうと思い、

稽古の後に河合先生にラインを送ることにしました。

ちょうどその日は、小学校6年生の子供たちのお別れ会があり、

指導員と父母会が一緒に協力して会を進めていました。

その準備段階でも、河合先生とは綿密な連絡を取り合っていたのです。


2024年3月17日(土)

【河合先生、こんばんは。

先ほどはお疲れ様でした。

お別れ会も無事に終わりましたね。

私の会長としての任務もこれで終了です。

1年間、微力ながら会長を務めさせていただきましたが、

いろいろとお世話になりました。

翠もこの道場で習えるのはあと1年です。

引き続きよろしくお願いします。】


お別れ会でお酒を飲んでいたせいか、

河合先生からの返信はありませんでした。

当時の私はそれについて気にもしていませんでした。ラインの返信がないなんて...


その後の春休み中、

道場の改修工事が行われ、2週間の間は稽古がありませんでした。

その間、河合先生からの個人的なラインもありませんでした。

柔道に関することはグループライン上で話し合われていましたが、

個人的なやり取りはなかったのです。


次に河合先生と会ったのは、翠が6年生に進級した後でした。

久しぶりの稽古再開の日、

翠と私は少し早めに道場に行くと、

河合先生が一人で掃除をしていました。


「河合先生、お久しぶりです」と

翠が嬉しそうに先生に近づいたので、私も後ろについていきました。


「お久しぶりです」と挨拶した後、

翠は友達が来たので、そちらに行ってしまいました。

その後、私は河合先生と二人で立ち話をすることになりました。

立ち話の中で、突然河合先生が口を開きました。


「翠ママに聞きたいことがあるんですが、今度、よかったらランチに行きませんか?」


突然の誘いに驚きました。

河合先生とは、雑用係と父母会の会長としての普段のラインのやり取りの中で、

お互いの職場が近いことを知っていました。

そして、突然先生からランチの誘いで、驚きましたが、

不快な気持ちはしませんでした。


稽古が始まり、稽古場と保護者待機室の間の扉が閉まり、

久しぶりに子供たちの元気な声が道場に戻ってきました。


子どもたちが稽古に励んでいる間、

私はドキドキしながら、河合先生へ個人的なラインを作成しました。


2024年4月5日(金)

【ランチのお誘い、ありがとうございます。ぜひ!

午前中でパートが終わる日もあるので、その日だと助かります。

昼じゃなくても夜でも大丈夫ですよ。柔道がない時なら。】


私は自然に、夜でも大丈夫ということを伝えるようにしました。

その時の私は、特に好意を抱いていたわけではありませんでした。

ただ、会って話をするなら、

昼休みの1時間は短いので、

ゆっくり話す時間がある夜の方が良いなと思っていただけでした。


稽古が21時まで終わった後、

河合先生からのラインが届きました

【パパに夜はやばいやん】


いつも堅い口調の河合先生が少しリラックスした感じの文面だったことが嬉しくて、

私も少しリラックスした感じで返信しました

【大丈夫です!または、土日の昼間とか?】


すかさず河合先生からの返信

【マジで?】

【まずはランチでお願いします。】


【了解しました。楽しみにしています。】

と先生に返信しました。今でもあの時のドキドキ感を覚えています。


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