第三話
三日後のことだった。
その日、朝から愛美の様子が変だった。そわそわするように見えたかと思えば、物思いに沈んだように暗くなる。
「どうしたの?」と訊いた方がいいのだろうかと思いつつも、結局、私から声をかけなかった。私に相談したいことがあれば、愛美から話してくれるだろうと思った。
昼休み一緒にお弁当を食べた時も、愛美は、やはりぼんやりしていた。
放課後。今日は部活がない。美術部は月、木、金の週三回だ。それ以外の日でも、描きたい時は各自、活動することは許可されている。
私が月、木、金以外の日に美術室に行くことは稀だ。帰る用意をしていると、愛美が私の席へとやって来た。
「ゆず、ちょっと時間ある?」
私の様子を窺うように愛美が訊く。
「うん。大丈夫だよ。どうしたの?」
帰ってもすることはないし、時間はたっぷりある。
朝から感じていた違和感は間違っていなかったと思う。そして、愛美が私に相談しようとしてくれるのが嬉しかった。
「ちょっと話したいことがあって……」
「うん。中庭にでも行く?」
そう言うと、愛美は頷いた。
グラウンドの方からは、野球部の掛け声が聞こえてくる。音楽室からは吹奏楽部が奏でる様々な楽器の音も。この前と同じ木陰のベンチが空いていたので、並んで座った。
「急にごめん。部活行くのが、気まずくて……」
愛美はそう切り出した。私は話の続きを促すように頷いて見せる。
「今日、朝練の時にね、先輩に告白されたんだ。びっくりしちゃって言葉が出なくて……何かその場を誤魔化したみたいにして、立ち去ったんだよね、私」
愛美は俯きながら言う。それを聞いて「やっぱり!」と思った。でも、口には出さなかった。
「バスケ部の人って、私にとって仲間みたいな感じで、恋愛対象じゃないんだよね。部活行きたくないよー!」
小さな子どもが、駄々をこねるような言い方で言う。そんな愛美を可愛いと思った。
「愛美の気持ち、伝えたらいいんじゃない? 先輩ってこの間の人でしょ? あの人なら、ちゃんと聴いてくれるような気がする」
三日前に会った、高橋先輩を思い出す。人柄が滲み出るような優しそうな人だった。愛美の気持ちを聞いても、怒ったり拗ねたりするようには見えなかった。
「そうだよね。私の気持ち、ちゃんと伝えるべきだよね。ゆずが言うように、高橋先輩なら聴いてくれると思う」
愛美は自分に言い聞かせるように言った。そして「ふぅー」と大きく息を吐く。
「ゆず、話聞いてくれてありがと。ちゃんと先輩と話す」
愛美の笑顔は少しだけ元気を取り戻したようだった。
「こんな話したの初めてだね」と私が言うと、愛美は「本当だー!」と目を見開いて言った。
「ついでに話しちゃおうかな。私ね、好きな人いるんだ」
秘密を明かすように小さな声で愛美が言う。視線は足元の芝生に向けられている。
「そうなの! いいなぁ。私、そんな人もいないよ」
「ゆずも知ってる人だよ」
愛美がこちらを向く。二重の綺麗な瞳が、私を捉える。
「……陸、なんだ」
思ってもみなかった愛美の告白に、一瞬、思考がフリーズする。……陸、なのか。
「そっか。陸っていい奴だしね」
「うん。いつか気持ちを伝えたいなって思ってる」
愛美は上履きを履いた足を、前に伸ばしながら言った。愛美の告白を聞いて、胸の辺りにぼんやりと言いようのない気持ちが広がるような気がした。




