表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
君のそばに。  作者: はやはや
10/10

最終話

『ゆずのことが好きなんだ。アイツって不器用なところがあって、それが放っておけないな……って』


「陸がそう言ってたんだよ」


 愛美は無理に笑顔を作ってみせようとしたけれど、上手くいかなかった。笑顔が歪んで泣き顔になる。つるりとした、きめの細かい頬の上を涙が伝う。

 私は浅い呼吸をくり返しながら愛美の話を聞いていた。


――陸のことが好きだという気持ちを、表に出してもいい……その気持ちを、陸に伝えてもいい……


 昨日までは許されなかったことが、今なら許される。それは信じなれないことだった。


「陸、今、屋上にいる。『気持ち落ち着けてから、ゆずに話す』って言ってた」


 ひとしきり涙を流した後、愛美は私の方を見て言った。


「行ってあげて。陸のところに。ゆずも陸のこと、大切に思っているでしょう?」


 涙で濡れた愛美の睫毛が艶やかに光る。

 愛美は私の気持ちに気づいていた。それなら正直に告白するべきだと思った。


「ありがと……」


 愛美は私の背中を押してくれた。私は屋上に向かって走り始めた。嬉しくて、でも、なぜか苦しくて。涙が溢れて頬を伝った。


 陸に会ったら、きちんと気持ちを伝えよう。


――好き と



 屋上に続く、最後の階段に差しかかった時だった。頭の上から声がした。


「ゆず」


 顔を上げる。そこには陸がいた。襟足が短めの癖がない髪。一重の丸い瞳。どちらかというと線の細い体つき。私が好きな人だ。

 階段を駆け上がると、陸の胸に飛び込んだ。陸が着ている、制服のYシャツからは太陽の匂いがした。それと陸の匂い。


「うー……」


 と唸るように泣く私を抱きしめながら


「愛美に言われて、ここに来た?」

 

 と陸は訊いた。私はくり返し頷く。まだ、言葉にならない。


「ゆずのこと大切に思ってるんだ。側にいていい?」


 涙でぐちゃぐちゃな表情になっていることはわかっているけれど、陸の顔を見て、きちんと思いを伝えたかった。


「私も陸の側にいたい。好きだよ」


 私の言葉を聞いて、陸は顔を赤らめると、そのままぎゅーっと私を抱きしめた。その力の強さが陸の思いであるような気がして、嬉しかった。




 あまり雨が降らないまま、梅雨が明けた。

 夏が始まる。


 もうすぐ夏休み。

 私は写真をモチーフにした作品を、再び描き始めた。ようやく下絵が完成し、今は色を付けている。

 私が使っている画材の企業が主催するコンクールが、秋にあった。それに挑戦することにしたのだ。テーマは〝青春〟。その文字を見た時に、これだ! と思った。


 最近、中庭に出て絵を描くようになった。今日もそうだ。芝生の上に座って、陸は鉛筆を動かしている。私は陸の後ろにあるベンチに座っている。絵筆に絵の具をつける。

 ここで描くと、気持ちが解放されるようだ。


「ゆずー! 陸ー!」


 体育館の方から愛美がやって来た。休憩時間になったのだろう。

 私達三人は以前と変わらない、互いに理解し合える、がかけがいのない存在だ。


「ゆずの作品、だいぶん完成に近づいたね」


 側まできた愛美が、私の作品を見て言う。愛美との写真をモチーフに描いていることを、話していた。愛美を見ると頬に人差し指を当て、考える仕草をしている。


「何かこの絵、見たことある気がする……」

「え?」


 愛美の言葉の意味が理解できす、そう声を漏らした時だった。


「俺の作品じゃん!」


 愛美の横に立った陸が声を上げた。


「あー! そうだ! 陸が前に描いてた作品だ!」


 愛美が思い出したように言った。


「え? 何で陸がこの絵、描けるの? 写真ないでしょ⁈」


 私の言葉を聞いて陸は言った。


「写真見なくても描けるんだよ。印象に残ったものは、頭の中に刻み込まれるから」

「陸! 天才!」


 愛美が尊敬したように言う。


「あー! やっぱり陸には勝てない!」

「俺に勝とうとするなんて、無謀な挑戦だよ」


 陸に拳を振り上げるふりをすると、愛美が止める。「わー! 暴力反対!」陸がおどけて言う。


 こういう時間が、とても愛おしい。

 これからも、ずっと続いて欲しい。

 君のそばに。これからも、いるよ。

最後まで読んでいただき、ありがとうございました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ