有名人?
「中村さん!」
僕と悟が声を合わせて名前を呼ぶ。中村さんはこの商店街の会長で八百屋を営んでいる。僕らが小さい頃からこの商店街を利用していたため孫のように可愛がって貰っている。
「久しぶり。二人とも大きくなったな。」
「おかげさまで高校二年生になりました。」
「大樹くんが参加賞なんて珍しいね。ある時から毎回一等を掻っ攫っていって出禁になりそうになっていたのに。」
「大樹くん本当に運がいいんだね!」
出禁になりそうになっていたのは初耳だったので少しショックであるが、内藤さんに認められるのは嬉しい。
「前に中村さんが言ってた人って、この男の子だったんですね。さあ、あと一回残ってるよ。頑張って、ラッキーボーイ。」
僕は商店街ではプチ有名人のようだ。
「頑張れ!」
「頑張って大樹くん!」
「……」
僕は商店街の出禁と内藤さんとのお出かけを天秤にかけるが、すぐに答えが出る。さっきよりも強く一等を念じながらガラガラを回した。
『ポロン。』
見慣れた金色の玉が出てきた。
『カランカラン。』
「一等のリゾートプール施設ご利用券です!」
お姉さんはベルを鳴らしながらプールのチケットを手渡してくれた。
「あちゃー。また出しちゃったか。」
中村さんが本気とも冗談とも取れる口調で悔しがる。
「さすが大樹だな!」
「おめでとう! 大樹くん!」
「おめでとう。」
前田さんも無表情ながら祝ってくれた。中村さんに別れを告げると、僕たちは商店街を後にした。公園のベンチでお菓子と商品券を山分けし、プールに行く約束をする。女子たちはこの後水着を買いに行くということで、そこで解散となった。僕と悟は自転車で同じ方向に走り出す。
「女子たちどんな水着買うのかな? なあ大樹。」
「さあ、どうだろうね。」
僕は興味の無いフリをした。だが、悟は話し続ける。
「瞳はスタイルいいしクールだから紫のビキニで、香澄は派手な感じの赤のビキニとかどうだ?」
聞かないようにしていたのに不覚にも一瞬思い浮かべてしまった。悟め。
「内藤さんは青色が似合うよ。青色だよ。」
僕は聞こえるか聞こえないか位の、瀬戸際のボリュームで言う。
「んっ?」
悟が聞き返してくるが、立ち漕ぎでスピードを上げて家に帰る。