野望
「なんか悔しいよね。」
「俺がもっと打っていればな。」
「僕、全然活躍できなかったよ。」
「……」
試合が終わり、僕たちはまたいつもの超常現象研究部の日常に戻っていた。前田さんもいつものクールな前田さんに戻っていた。試合の結果としては六対十五でコールド負けをした。七回の表、みんなからの期待を背負い、猛さんがピッチャーマウンドにあがった。猛さんは僕たちの期待に応え、見事に三者凡退に抑えてみせた。球威もコントロールも一級品であった。試合後にスカウトが来たとか来てないとか。七回の裏の攻撃でうちも三者凡退してしまい一回戦敗退となった。
「体育祭は絶対勝とうね。」
「そうだな。今度はぜってー負けねー。」
「そういえばみんな何組なの?」
うちの学校は出席番号の奇数と偶数で赤組と白組に分かれる。
「私は赤だよ。」
「俺も赤。」
「僕も赤。」
すると全員の視線が前田さんに集まる。前田さんは何も言わずに頷く。前にもこんなことがったあった気がするがまあいい。とにかくみんな赤組のようだ。今度こそ内藤さんにかっこいいところを見せられるように頑張ろう。僕は机の下で小さく拳を握る。五時を知らせるチャイムが鳴る。
「今日はやる事無いしもう帰ろう。」
内藤さんの号令でみんなが席を立つ。一応部長的な存在になっている僕が教室の戸締りをし、職員室に鍵を返しに行く。
「失礼します。」
ノックして、職員室に入ると先生たちはこちらに見向きもせずにテレビを食い入るように見ていた。
『午後四時頃――で火災が発生しました。この家に住んでいた二十七歳の男性が死亡したとのことです。また、近くにDioという文字が残されており、警察は火事との関係性を調査しています――』
最近火事のニュースが多い気がする。ニュースが変わり、僕に気づいた五十嵐先生が話しかけてきた。
「ごめんね。試合見に行けなくて、強豪校相手にいい試合したのでしょう?」
「はい。教室に籠っていたら得られない貴重な経験が出来ました。」
「それは良かった。見に行けなかったお詫びとしてこれあげるね。」
そう言うと五十嵐先生は机から商店街の福引券を二枚手渡してきた。
「もし一等当たったら温水プールのチケットだから、部活のみんなで行ってらっしゃい。参加賞もお菓子の詰め合わせらしいから引いて損はないと思うよ。」
内藤さんと休日に会える口実ができる。しかも内藤さんの水着姿が見られる。
「ありがとうございます。」
僕は福引券と小さな野望を握り、職員室を後にした。