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スピカ洞窟の魔物

 この洞窟での討伐が終われば女と別れられる。

 そう思うと足取りは軽くなり、ミルコフは足早に奥に進んでいった。が、どうしたことか進めど進めど魔物は現れず、無為な時間だけが流れていた。


「どういうことだ、ここで本当に合っているんだろうな!」


 怒りに任せて、後ろについて歩いていたレイに声を荒らげる。


「間違いないわよ。スピカの街にほど近い洞窟っていったらここしかないもの」


 依頼書を眺めながら、レイは眉間に皺を寄せた。


「だからこそ妙なのよね、名うての冒険者の行方不明者も出てるくらいだもの、ここに何かがいるのは間違いない。なのにさっきから何の気配もしない。異常だわ」

「ふん、僕のオーラに気圧されて出てこれないんじゃあないか?」


 ミルコフのキメ顔は完全に無視で、レイは俯いて何かを考えている。

 そして数秒の後、だからこそ! と声を上げた。


「もう少し辺りを警戒して進みなさい! さっきから何があるか分からないのに無防備で歩き回って。不用心にも程があるわよ」

「はん、無防備だと?」


 何も分かっていないらしい女の物言いを鼻で笑う。


「僕の体には高度な防護魔法がかけられているんだぞ? 無防備とは縁遠いさ」

「でもあたしの拳は通ったじゃない」

「うぬ……そ、それは……」

「ほら、絶対無敵って訳じゃないでしょ。用心するに越したことはないわよ」

「ふ、ふん! 誰がお前のような身分の者の指示に従うか、馬鹿め!」

「身分は関係ないでしょ!」

「大いにあるね! 平民の言うことなど……」

「騎士だってば!」

「騎士でも変わらん!」


 言い争いの末に、レイは大きなため息を吐いた。そして、少し間を置いて。ねぇ、と言葉を続ける。


「これが終わったら別れちゃうから、今のうちに聞いておきたいんだけど。どうしてそんなに平民を嫌うのよ」


 レイは何の気なしに尋ねた。振りをしていたが、ミルコフは無表情の裏に潜む熱量に気付いた。これは彼女にとって重要な意味を持つ問いらしい。

 ミルコフが平民を嫌う理由を問うというよりこれは、貴族が何故平民を疎むのか、という問いだろう。

 だからと言ってミルコフの返答が変わることは無いが。


「平民が弱いからだ。弱い者の話など、聞くに値しない」

「生まれ持っての力の差が全部を決めるって言うの? 随分と傲慢ね……自分が大貴族の生まれだからって」

「弱肉強食、それが世の常だ」


 平民は弱い。最弱の魔物たるゴブリンよりも弱い。自分の身も自分で守れないような者に、貴族が好意を向けることなどない。


 もう、二度と。


「あ、でもその理屈だと、あたしの方が偉いってことにならない?」


 レイはどこか自慢げに顔を上げてそう言った。


「いいや、ならないね!」


 だが、ミルコフもそういう返答が来る予測はしていた。


「確かに君の力は、騎士にしては大したものだ。油断していたとはいえ、僕の一番よわーい防護魔法も突破してみせたしな? が、それは一対一での話だ。近接格闘では、複数相手した時にどうしようもなかろう? その点僕は単体だろうが複数だろうが圧倒出来る。僕の方が強い」

「凄い早口、よくもまぁ舌が回るものね」


 レイはまたも嫌味ったらしく言い放つ。


「残念だけどあたし、複数相手でもあなたより強い自信あるわよ」

「口だけならなんとでも言える」

「その言葉、そのまま返すわ?」

「いいだろう、そこまで言うなら試してみるか?」


 ミルコフは懐の杖に手を伸ばした。それを見るなりレイの雰囲気も鋭くなる。

 まさに一触即発。完全に臨戦態勢だ。少しでも動けば一発叩き込んでやるという闘気をひしひしと感じる。

 ふん、本当に隙の無い女だ。


「……ッ!」

「ハァッ!」


 二人はほぼ同時に動いた。

 レイの拳と、ミルコフの手から放たれた灼熱の炎が交差し、()()()()()に炸裂した。


「ギャウッ!?」

「ガアッ!?」


 完全に不意を突いたと思っていたのか、魔物達は予想外だと言わんばかりの悲鳴を上げる。


「ふん、君も魔物に気付いていたか」

「当然!」


 話しながらも、魔物から目は離さない。一匹は炎に巻かれ、もう一匹は拳を受けた部位が抉れ血を流してはいるが、どうやらその程度で終わる相手ではないようだ。

 鱗のような皮膚に覆われた、巨大な蜥蜴のような魔物はぎょろぎょろと目を忙しなく動かし、舌をちろちろと出してこちらを伺っている。


「見たことがないな……新種か?」

「分からないけれど、あいつらが依頼の魔物なのは間違いないと思うわ。近くに来るまで気配を感じなかった。普通じゃない」


 レイと同意見なのは不本意だが、異常性はミルコフも賛同するところだった。レイの防護魔法を越える一撃を食らったり、炎に焼かれたはずなのに、何事も無かったかのように臨戦態勢を維持している。大概の魔物なら致命傷になっているはずの攻撃なのにだ。


「まぁ、だとしてもやることは変わらんがな。滅ぼすぞ。足を引っ張るなよ」

「そっちこそ。手も足も出ないなんてこと、無いようにしてよね」

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