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時刻は草木も寝る丑三つ時…では無く午後10時過ぎ……
何時もなら、それなりに車が行き交う時間帯。
現在…【謎の暴走族】の噂の所為で、地元民の車は殆ど通らない国道と国道が交わるこの地点に、ただ1人佇む私は……
明日から高校生の山根理子15歳。
と言っても道を隔てた向こう側に、もう1人…幼馴染みの六がいるんだけど、信号機や街灯の灯りで薄ぼんやりとしか見えない。
何故、私がこんな所にいるかというと、例の【謎の暴走族】…その正体は、何故かウチでバイトしている豆狸達によると、【輪入道】とその相方の【片輪車】だそうなの。
私達はそいつらを捕まえる作戦の為に、借り出されている。
豆狸の片割れ、徳行寺タヌキの徳タヌキによると、竹籤の先に赤い紙縒を付けた物を四辻の角に刺して置く事で結界が張れるんだとか……
『相模の稲荷狐から聞いた話じゃから、間違いない!』
豆狸の次は稲荷狐かぁ……
けっこう妖怪って身近に居るのね。
春だと言っても流石にこの時間帯は寒い……
数分前まで乗せてもらっていた、この作戦の為に態々京都から来てくれた【朧車】さんの中は暖かかったけど……
【朧車】さんは一見、普通の乗用車の姿で、車体の方が本体。声はカーラジオから聞こえてきて、けっこう渋い……
そして運転席に、かなりリアルに出来た人形を乗せていた。
しかもコレがちゃんと動くのよ!
怖くてなるべくそっちの方は、見ない様にしたわ。
何でも昔、旅行で来ていた【朧車】さんが農道の脇にあったため池にハマって、身動きが取れなくなっていたのを、豆狸達に助けてもらった恩返しで、遠い所を来てくれたんだって。
妖怪ってけっこう律儀なのね。
良い人?そうだったけど流石にアレで【輪入道】と【片輪車】を追いかける方にまわるのは、遠慮したい。
本来なら、警察がこの場所で取り締まりをするはずだったんだけど…何故か警察車両は1台も此処に辿り着けていないのよね。
『大それた事は出来ない。』と六は言っていたけど、けっこう凄いと思う。
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(満月視点)
「【朧車】よ…準備はええかの?」
「おぉ、大丈夫じゃ!いつでも良いぞ!」
ワシは今、ジャンケンで勝って温い【朧車】の中におる。
徳は負けたけぇ、今頃囮り役で人間のフリをしてバイクで走っとるはずじゃ。
免許証なんぞ持っとりゃせんがの…長い事生きとるけん、運転くらいは出来るんじゃ。
「おぉ!?バイクのライトの灯りじゃ!
どうやら向こうも喰い付いた様じゃのぅ。」
おや?それにしちゃあフラフラしとってスピードがあんまり出とらんが……
パルルルルッ
目の前をどっかの派手な格好した、右腕を吊った若い男が必死な形相で、バイクを運転して駆けっていった。
ゴオオオオオーーーーー!!
その後を【輪入道】と【片輪車】が追いかけて行きおった。
「ありゃあ、どう見ても徳じゃ無いのぅ~ 」
「ああそうだな……
だが、チャンスだ!このまま追いかけよう!!」
じゃが【朧車】が駆け出そうとしたら、だいぶ後ろの方から徳の声が聞こえて来た。
「お~い!ちょっと待ってくれーーー!ワシも乗せてくれ!!」
「徳!?バイクは、どしたんなら?」
徳はタヌキ姿で必死に走って来た。
どう言う事じゃ?
「ゼィ…ゼィ…さ…さっきの男に…盗られたんじゃ!」
「はぁ~???とにかく話は後じゃ!
早よう追いかけんと!!」
結局、2匹で【朧車】に乗って、【輪入道】達を追いかける事になってしもうた。
「何があったんじゃ?」
「それがのぅ…乗って来る時は、ええがにエンジンが掛かっとったのに、待っとる間に切ったら掛からん様になってしもうて……
そしたら、あの男が…… 」
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(徳の回想)
「さて…予測通りなら、そろそろ奴らが来るはずだな。」
人間の姿に化けた徳行寺タヌキのワシ…徳行こと徳は、満月を騙してバイクで【輪入道】共を惹きつけるいうカッコええ役を手に入れた。
待ち伏せ場所で待っている間、一旦エンジンを止めとった。
遠くの方で【輪入道】達のエンジン音が聞こえて来たけえ、今じゃ!思うてエンジンを掛けよう思うたら、なんぼやっても掛からんかったんじゃ!
そこへあの男がやって来て……
「おぅ、兄ちゃんどしたん?
エンジン掛らんのか?見してみぃ…
よし!掛かった。」
そこまではえかったんじゃ……
男は突然、ワシのバイクに跨がったかと思うたら、
「アイツと勝負するのに、ちょうどバイクを探してたところだったんだ。ちょいかせーや。」
「えっ?!あっ!!」
「トロトロしとるんが悪い!貰ってくでー!」
「ああっ!ワシのバイク!返せ!戻せ!!」
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「と、言う訳なんじゃ…… 」
「ほうか…徳はワシを騙したんか?」
「えっ!イヤそりゃあ… 」
「おい!ケンカしてる場合か?もう追いついたぞ!」